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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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スリベル洞窟博物館

「左様じゃ。という事はここではお預けか」

「そうですね。それがよろしいかと」

「じゃ、保留で」

「はい。では次はこの崖を迂回する形で降ります」

 と、ソアラさんは左手を指差した。

 なるほど、崖はスロープ状の下り坂になっていて、このまま進むと峡谷の崖下部分に到達する事が出来るのだろう。

「確かにここは危ないからの」

 うんうん、とケイがしたり顔で頷く。

「誰かさんが悪のりして、サスペンス劇場みたいな事やらかしそうだしねぇ」

「崖で犯罪告白は、投身自殺フラグなのじゃ」

「さてはグレイツロープの喫茶店で、僕がしばし席を立った隙にプリンを注文したな!」

 僕が指差すと、ケイは動揺しながら後ずさった。

「な、何故それを……仕方なかったのじゃ……甘い物をもっと食べたかったのじゃ……しかし何故それを……」

「ふっ、簡単な推理ですよ。そのぽんぽこりんのお腹を見れば……って、そろそろやめようか」

「うむ、そうじゃの」

 ケイもアホなポーズをやめて、素に戻った。

 なお、プリンを注文したという事実はないというか、あったら普通伝票で分かるし。それと後ずさった時も、崖の縁には相当余裕があったというかなかったら、速攻でこの小芝居は中断していた。

「仲がいいですねぇ」

 ソアラさんが感心したように、小さく息をついた。

「ええ、コントの相方的な意味では」

 何せ、寝食を共にするのも四日目なのだ。

「妾達は、自国ではそれなりに名の知れないコンビなのじゃぞ」

「へえ、それはすごいですね」

「落ち着いてよく聞き直して下さいね、ソアラさん。要するに無名です」

 そもそも、商売にした憶えもない。


 ショートコントを終えた僕達は再びラクチョに乗り直し、緩やかな坂を下っていく。

 崖のあちこちが段差になっており、ところどころに穴が空いている。

 あれは何だろうと僕は首を傾げていたが、ケイの言葉で理解した。

「ぬ、あそこに見えるのは有翼人の集落かの?」

 有翼人達は翼を持っている。だから、あんな風に崖に巣というか集落を造っているのだろう。地上には獣もいるだろうし、空を飛べるのならああいう場所の方が安全なはずだ。

「はい、そうです。ただあのコロニーも場所が場所ですし、相当古いため足場が脆くなっているので、立ち入りは禁止されています」

「残念だけど、確かにあれは人間が観光するにはリスク高すぎですよねぇ……」

 行けるとすれば、ロッククライミングの技術を身につけてからの方が賢明だろう。

「レパートも、あんな感じのコロニーに住んでたのかや?」

「いえ、彼女は自分を受け入れてくれる場所を求めて各地を巡りましたが、その翼の醜さからどこからも断られました。なので、群れ単位の集落というモノはありません」

 前にも聞いたけど、可哀想だなあ。

 と、そこでふと、疑問が生じた。

「親は、どうしたんですかね?」

 いくら龍と言っても、木の股から生まれたという事はないだろう。親がいたはずだ。

 先をゆくラクチョに乗ったソアラさんは、頬に手を当てて弱った笑顔を浮かべた。

「そこは、謎のまま……というか、少なくとも伝承には載っていない部分ですね。ただ、レパートが王の供を務めた後に旅立ったのは、その親を探すためだったとかいう記録は残っています」

 そこまで言うと、ソアラさんの指が峡谷の遙か向う側を指した。

「そしてレパートの住処の続きですが、実はこの峡谷の奥深くに存在していたという事ですが、それも大昔に撤去されています。故に、永久に辿り着く事は出来なくなっています。その辺りの事情は……やはり、お話が前後するので、もう少し後にしたいと思います」

「焦らされるのう」

「すみません。でも、多分すぐにお話する事になると思います」


 やがてスロープも終わり、僕達は崖の底に辿り着いた。

 といっても、峡谷は幅自体が相当に広いので、ちゃんと太陽の日も届いている。

 ……もっとも、目的の場所がそうであるという自信はなかったが。

「こちらが、スリベル洞窟博物館となります」

 そう、ソアラさんが案内してくれたのは、そんな崖のそこにある大きな洞窟の一つだった。

 洞窟の左右にはポールが立てられ、細長く鮮やかな緑の布がはためいている。

 ポッカリと空いた黒い穴は、ここから見た感じ、明かりがあるようには見えない。

「……よ、夜中には、絶対入れない類の博物館だ」

 あと、暗所恐怖症の人も確実にドン引きすると思う。

 そうでない僕達でも、及び腰である。

「け、警備とかどうなっておるのかのう」

「そういえば、お二人は太照の方というお話ですが」

 唐突に、ソアラさんがぽん、と手を打った。

「え、あ、はい」

「何と、この洞窟博物館には、その太照の最新警備装置が設置されているんですよ?」

「…………」

 僕は、ケイを見た。

「うむ。どこの社のモノか、大体展開が読めたのじゃ」

 後に聞いた話では、やっぱり賀集技術のモノでした。さすが賀集技術(宣伝)!

「あと、警備員もちゃんと常設されています。ええと、そう確か梟族や夜鷹族だそうですね」

 つまり、夜行性の有翼人達が、仕事をしているという事だ。

「……荒っぽそうじゃのう」

「うん、肉食系っぽい」

 ものすごい偏見だけど、僕達はこの時、被捕食者側的な怖さを感じていた。


 そして、洞窟博物館に入ってみると……確かに薄暗くはあったが、思ったよりは明るかった。

 照明は松明……を模した、電灯だ。

 細い通路を潜るとそこは小さなホールになっており、中央には龍の石像が設置されていた。

 長い首はもたげ、太い足は力強く台座を踏みしめている。両手の爪は鋭く、鱗は刃も矢も弾きそうだ。背中には二つの皮膜の羽が広げられ、尾が首とは逆向きにもたげられている。

 大きさはラクチョとほぼ同程度、人が乗って飛ぶなら一人分、無理して二人と言った所か。

 見上げるほど大きい……が、大きすぎるという事もない。

 これが、実物大のレパートなのだろう。

「でもソアラさん、有翼人とは違いすぎますよね? 有翼人は人の姿でありながら、背中に鳥の羽です。これじゃ違う種族だって言われても、しょうがないんじゃないですか?」

「これは龍としての力を、完全に顕現させた時の姿と伝えられています。制作されたのは、王の旅が終わってからですね。ラヴィットにいた当時は、人の姿でもいられたと言われています」

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