有翼人の恥
「それにしても立派な像じゃのう………んん?」
「どうした?」
ケイは、龍の石像の下、台座の部分を見て、眉をひそめていた。
「タイトルに『有翼人の恥』とあるのじゃ」
……つまり、レパートは有翼人の恥扱い?
いや待て違う、と僕はすぐに、それを頭の中で否定した。
「そりゃまたおかしな話じゃないか。そもそも、レパートは龍であって有翼人じゃないんだろう?」
それに、本当に龍が恥ならば、像なんて造られないはずだ。
……? あれ?
どうもさっきから、自分の思考に違和感を覚える。何か、変だ。というか矛盾がある。
と、ここでソアラさんが解説してくれた。
「それなんですけど……レパートの扱いは、崖の上や集落の下りでもお話した通りです」
「いわゆるハブにされてたって話ですよね」
「はい」
「あ。そういう事かや」
いきなり、ケイは納得した。
「え」
僕は、置き去りである。
「考えてもみよ。そんな奴の立派な石像が、何故存在するのじゃ? 醜い醜いと蔑まれた輩の像など本来造られるはずがない」
まさしくそれは、僕がついさっき抱いた疑問だ。
が、ケイに言われて突き詰めてみる。
「そりゃ英雄だから……あ、いや、あれ……んん?」
でも、そうなるとこの石像のタイトル『有翼人の恥』がおかしな事になるのだ。
「英雄である事には違いない。最終的に、レパートは王の仲間として活躍したのじゃ」
ケイの言葉を、ソアラさんが継いだ。
「さすがはラヴィットの誉。この地の誇り。つまりこれは、そういう像なのですよ。オーガストラ神聖帝国が倒れガストノーセンが誕生した時、有翼人達は勇者として送り出したレパートが、ラヴィット出身の勇者が見事な働きをしたと、この像を彫ったんです」
何だか僕は、すごく居心地の悪い気分になった。
「ね、捏造じゃないですか!? だって、ずっとレパートを虐げてきたというか、その、嫌ってたんですよね!?」
「はい。現在ではその記録も発見され分かっていますが、でも当時はそうではなかったという事ですよ。そもそも、レパートは旅が終わるとそのまま、新たな旅に飛び立ちました。ラヴィットでは、この『英雄』を虚偽だと証明出来る者はいなかったんです。皆が黙ってさえいれば。強いて言えば、仲間であったユフ王や狼頭将軍、魔法使い等ですが……それをしなかったのは、レパートが先に放っておくよう断りを入れておいたか、証拠がなかったからかだったという事です。……だからこれは、有翼人達の後ろめたさと見栄から生まれたモノ、と言われています」
「それで、このタイトルなのか……」
僕は、石像を改めて見上げた。
レパートを虐げてきた有翼人達の後ろめたさ、そして自分達は何もしなかったのにその栄光をかすめ取ろうとした見栄の象徴。
故に『有翼人の恥』。
「……他人事とは思えないなあ」
もちろん、有翼人に対してではなく、レパートに対してである。ま、単に地味とか虐められやすそうとかいう理由の僕なんかと比較されるのも、失礼な話だと思うけれど。
「あとこれは有翼人の名誉の為に付け加えておきますと、全部の有翼人がそういう見栄っ張りという事ではありませんから……」
と、ソアラさんはフォローも入れてくれた。
さすがに、有翼人全体がそんな見栄っ張り種族だとは、僕も思っちゃいない。
一方ケイは、全然違う点に興味を抱いているようだった。
「しかし、このような生物が実在するのかのう……?」
「え、でも恐竜は実在するだろ? 骨だって残ってるし」
「恐竜と龍とは違うのじゃ。大体空を飛ぶ種族は、このように重そうな身体はしておらぬ」
ケイは、強靱そうな胴体を指差した。
筋肉がたっぷりと詰まっていそうな太い身体は、実物だったとしても、相当な重みがあっただろうと思わせてくれる。
「あ、え、そ、そんなに重くはないはずですよ? その、軽自動車ぐらいかと」
……何故か、ものすごく焦った様子で、ソアラさんが言う。何だかまるで、自分の事みたいだ。
だがケイは容赦しない。
「軽自動車でも、この翼では本来飛べぬ。有翼人達も妾達と比べて圧倒的に軽いのじゃ」
「あー、骨がすんごく軽くて丈夫なんだっけ」
生物の授業か何かで、読んだような気がする。
ケイは、大きく広がる翼を、下から覗き込んだ。
「飛べるとすればあれかの。この世界観でお馴染みとなった魔力の類が、あの翼に揚力を与えておったとか……」
「はー……すごいですね。そういう考え方なら、確かに翼でも飛べるかもしれませんね」
ふむふむ、と何故かソアラさんがしきりに頷いて、メモを取っていた。
……今、何か妙に引っ掛かる言い方だったけど、それよりも僕には気になる事があった。
「で、この龍ってのは実在したのかどうかなんだけど」
「うむ、分からぬ」
僕の疑問を、ケイは一蹴した。
「おい」
「生物学は妾の専門の外じゃ。単に骨が残っておらぬからと、存在自体を否定する訳にもいかぬじゃろ。実際、現在までにどれほどの生物が絶滅したのか、公式の数字よりもずっと多いと妾は思うのじゃ」
「なるほど、興味深いです」
「って、案内人さんが感心しててどうするんですか!?」
「っと、そうですね。そろそろ次のコーナーへご案内します」
僕のツッコミに、ソアラさんはメモを戻し、先を促した。
洞窟博物館の薄暗い通路を進む。
何だかまるで、ファンタジー系RPGのダンジョンを思わせてくれる。
幅で言えば、二車線+歩道ぐらいだろうか、結構広い。
こういう場所を歩いてみると、ああしたダンジョンモノで前衛後衛に分かれるのも理解出来る。
天井は跳んでも頭はぶつからないが、剣を振るうにはちょっと狭い、といったレベルか。
人気は少ないが、それでもチラホラとお客の姿は見える。有翼人が大半で、たまに人間や獣人の姿、といった具合か。
そして、そんな通路には、太照で言えばお地蔵様の如く、石の彫刻の類が点々と並べられている。
雄々しく槍を構えた有翼人の彫刻、恋人同士を思わせる手を取り合った男女の有翼人の彫刻、弓を構えて獲物を狙う有翼人の彫刻……。




