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第2話 知らないのは私だけ


江嵜遥は。

スマホを握り締めながら歩いていた。

朝。

駅前。

人混み。

スーツ姿。

学生。

イヤホン。

どこにでもある景色。

だけど。

今日だけは違った。

人生初の大型オーディション。

緊張で。

正直。

吐きそうだった。

「……大丈夫」

小さく呟く。

スマホを見る。

地図アプリ。

目的地まであと十分。

何度目か分からない確認。

問題ない。

たぶん。

遥は歩き出した。

ふと。

画面へ視線が止まる。

今回のオーディション情報。

参加事務所一覧。

大量の名前。

大手。

中堅。

聞いたことある会社。

聞いたことない会社。

ずらり。

並んでいる。

「……多くない?」

思わず声が漏れた。

一つ。

二つ。

そんな数じゃない。

何十。

いや。

もっと。

近年。

声優オーディションは変わった。

昔みたいな個別開催ではない。

大手。

弱小。

関係ない。

全事務所合同。

大量応募。

大量審査。

それが今の常識。

少なくとも。

遥はそう思っていた。

「こんなの……受かる人いるの?」

胃が痛くなる。

だけど。

首を振った。

「……私が知らないだけだよね」

きっと。

これが普通。

そう思うことにした。

前を見る。

巨大な建物が。

少しずつ近付いていた


会場へ近付くほど。

人が増えていく。

遥は焦り始めた。

「……人多すぎない?」

巨大な入口。

大量のスタッフ。

警備員。

案内板。

長蛇の列。

遥はスマホを見る。

【受付は事前登録アプリをご利用ください】

「アプリ……?」

画面を開く。

会員番号。

QRコード。

受付画面。

……出ない。

「あれ?」

タップ。

戻る。

固まる。

「え、ちょっと待って」

後ろを見る。

人。

人。

人。

焦る。

指が震える。

「なんで今固まるの!?」

ようやく開く。

違う画面。

「あっ」

閉じる。

戻る。

「あれ?」

パニック。

「うそ、うそ、うそ……」

その時。

後ろから。

冷たい声。

「邪魔」

「へ?」

振り向く。

背の高い女性。

帽子。

サングラス。

マスク。

顔は見えない。

だけど。

妙な威圧感だけは分かった。

遥は慌てて横へ避ける。

「あっ、ご、ごめんなさい!!」

女性は何も言わない。

スマホを一瞬見せる。

ピッ。

受付終了。

一秒。

終わった。

「……早っ」

女性は無言。

そのまま歩き去る。

周囲がざわつく。

「え?」

「マジ?」

「嘘だろ」

「本物?」

遥だけが。

何も分からなかった。

女性は振り返らない。

そのまま人混みへ消える。

……なのに。

遥は。

なぜか目が離せなかった。

(……あれ?)

違和感。

女性の周り。

空気が揺れて見えた。

熱気みたいな。

蜃気楼みたいな。

モヤモヤした何か。

(何あれ……)

目を擦る。

もう一度見る。

やっぱり。

見える。

不思議な感覚。

(変なの……)

女性が消える。

モヤも消える。

遥は首を傾げた。

(疲れてるのかな)

寝不足。

緊張。

不安。

きっとそのせい。

そう思うことにした。

「……よし」

今は。

オーディションだ。

そう。

思った。


会場中央。

一般参加者立入禁止区域。

巨大施設中央司令部。

大型モニター。

監視カメラ。

通信設備。

無数の端末。

スタッフたちが慌ただしく動いていた。

その中心。

腕を組み。

巨大モニターを見る女性。

野際真弓。

「とうとう……」

モニターには。

数万人。

全国から集まった新人たち。

「今年もやって来たか」

スタッフが姿勢を正す。

真弓は続ける。

「設備点検」

「警備確認」

「候補者リストアップ」

指示が飛ぶ。

スタッフが動く。

真弓の声が低くなる。

「聖霊適性者は」

空気が張り詰める。

「検出次第」

「直ちに本部端末を通せ」

真弓はモニターを見つめた。

「私と」

少し間。

「各大手事務所の社長へ送れ」

「了解!」

返事が響く。

真弓は静かに呟く。

「……今年は何人生き残る」

誰も答えない。

その時。

ピッ。

端末が鳴る。

スタッフが振り向く。

「異常反応……?」

モニターの一角。

赤い表示。

【異常反応検出】

真弓が目を細めた。

「……始まったか」

モニターへ映る。

緊張した顔。

何も知らず歩く少女。

江嵜遥。

その瞬間。

端末が。

赤く点滅した。


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