迷子の行商人と「お米」の発見
1. 森で倒れていたタヌキ?
「……みずぅ……ごはん……」
畑仕事の最中、ピコが慌てて呼びに来た。 「カイト! 大変! 森の入口で、変な生き物が死にかけてるの!」
駆けつけると、大きなリュックを背負った小柄な人物が、うつ伏せに倒れていた。 ふさふさの尻尾に、頭の上に乗った葉っぱのような帽子。 タヌキの獣人だ。
「おい、大丈夫か?」 俺は【万能農具】を『じょうろ』に変え、湧き水を含ませた布で彼の口元を湿らせた。
「はっ! ……ここは、三途の川……? いや、美味しそうなトマトの匂いがするです」
タヌキの獣人は鼻をヒクつかせ、ガバッと起き上がった。 生命力はありそうだ。
2. とろとろ卵雑炊(代用)
彼をログハウスに運び、何か胃に優しいものを食べさせることにした。 まだお米はないので、「ゴールデン・ウィート」を粗く挽いて煮込んだ『ミルク粥』を作る。
コカトリスの卵を溶き入れ、仕上げに少量の塩とハーブ。 シンプルだが、弱った体には一番の御馳走だ。
「いただきますです……! はふっ、はふっ」
彼は熱々の粥を、目を白黒させながら掻き込んだ。
「んん〜っ! 優しい味です! 麦の甘みが体に染み渡るですぅ……! 生き返ったです!」
3. 幻の穀物
落ち着いた彼は「ポン太」と名乗った。 世界中を旅する行商人だが、森で迷って食料が尽きてしまったらしい。
「助けてもらったお礼に、何か珍しいものを差し上げるです。ボクのリュックには世界中の宝が入ってるです」
ポン太はリュックの中身を広げた。 怪しげな薬や魔導具の中に、見覚えのある稲穂が混ざっていた。
「……おい、ポン太。それは?」
俺は震える手でそれを指差した。
「ああ、これは東方の島国で見つけた『ライ・ス』という穀物です。脱穀が面倒だし、硬くて人気がないんですが……」
「それだ! その種、俺に譲ってくれ!」
俺は勢い込んで叫んだが、ふと我に返った。 そういえば、今の俺は無一文だ。
「……金はないんだ。だが、俺の畑で採れた野菜や、このログハウスで作る加工品と**『交換』**でどうだ?」
「交換……? あの美味しいトマトや、マヨネーズとですか?」 ポン太の目が商人のそれに変わった。
「もちろんです! お金なんかより、そっちの方がずっと価値があるです!」
ポン太は「ど、どうぞです」と種籾の入った袋を差し出した。
4. チート田植え
俺はすぐさま外に飛び出した。 【万能農具】を『クワ』にし、川の近くの土地を耕す。 『じょうろ』の水流調整機能で、即席の水田を作り上げる。
「育て、俺の故郷の味!」
種籾を撒き、魔力を注ぎ込む。 泥の中から、青々とした苗が顔を出し、みるみるうちに成長していく。 そして黄金色の頭を垂れる稲穂へ。
「これが……お米……!」
5. 塩おにぎりの衝撃
脱穀と精米も【万能農具】なら一瞬だ。 土鍋(これも農具で土を成形して焼成)で炊き上げると、蓋の隙間から甘い香りの蒸気が噴き出した。 「カニの穴」が出来た、完璧な炊き上がり。銀シャリが光り輝いている。
まずはシンプルに『塩おにぎり』だ。 熱々の飯を手に取り、適度な塩をつけて握る。
「シルフィ、ピコ、ポン太。これを食べてみてくれ」
三人は恐る恐る、白い三角形の塊を口にした。
「……!!」
全員の動きが止まった。 「噛めば噛むほど甘い……! パンとは違う、もちもちした弾力……!」 「塩だけなのに、なんでこんなに美味しいの!?」 「これは……革命的な穀物です! これがあれば、どんなおかずも無限に食べられるです!」
俺も一口頬張る。 口の中に広がる、懐かしくも圧倒的な旨味。 涙が出そうだった。これだ、俺が求めていたのは。
6. 新たな取引
ポン太は感動のあまり、その場に平伏した。
「カイト様! ボクと専属契約を結んでくださいです! この『お米』と、カイト様の作った野菜……絶対に売れるです!」
「ああ、いいよ。その代わり、醤油と味噌の原料になる豆を探してきてくれ」
「了解です! 世界の果てまで行ってでも見つけるです!」
こうして、俺の元には「お米」という最強のカードが加わった。 そして、俺の作った作物が世界へ広まるルートも確保されたのだった。




