表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

未来を紡ぐ農家

1. 騒がしい目覚め


「パパー! 起きてー!」 「お腹すいたー! トマト食べるー!」


腹部に感じる衝撃と、耳をつんざく元気な声で俺は目を覚ました。 重たいまぶたを開けると、視界いっぱいに二つの笑顔が飛び込んでくる。


黒髪のわんぱくな男の子、レオ。 金髪で耳が少し尖った愛らしい女の子、アリア。


俺とシルフィの間に生まれた、双子の子供たちだ。


「ぐふっ……。レオ、アリア、朝から元気だな……」 「だって、今日は収穫の日でしょ! 早く畑行こうよ!」


「もう、二人とも。パパをいじめないの」 キッチンから、エプロン姿のシルフィが顔を出した。 数年経ち、少し母親としての包容力が増したが、その笑顔の輝きは変わらない。 いや、今のほうがずっと綺麗だ。


「おはよう、あなた。……ふふっ、素敵な寝癖ね」


2. 【成長】小さな手伝いさん


朝食(自家製パンとミルク)を済ませた俺たちは、裏の畑へ出た。


そこはもう、ただの畑ではない。 ログハウスを中心に、果樹園、水田、牧場が広がり、遠くには精霊たちが住む「世界樹の森」が見える。 俺たちの農園は、この世界で一番豊かな場所になっていた。


「よーし、今日は『サン・トマト』の収穫だぞ」


俺は【万能農具】を『剪定バサミ』に変えた。 かつては俺一人で振るっていたこの農具も、今は頼もしい助っ人がいる。


「パパ、これ赤くなってる!」 「こっちも大きいよ!」


レオとアリアが、子供用の小さなカゴを持って走り回る。 その背中を見ながら、俺は感慨に浸っていた。 かつて「異世界人」として孤独を感じていた俺の血が、この世界に根付き、未来へと繋がっている。


3. 変わらない仲間たち


「おーい! カイトー! 遊びに来たぞー!」


空から賑やかな声が降ってきた。 巨大化した飛竜ワイバーンから降りてきたのは、豪奢なドレスを纏ったエリシアだ。 彼女は今やハイエルフの女王だが、ここに来るときはただの「叔母様」だ。


「エリシアおばちゃーん!」 「まあまあ、私の可愛い天使たち! お土産の『王都限定スイーツ』ですよ!」


「カイト様ー! 商談も兼ねて遊びに来たですー!」 後ろから、立派な商人服を着たポン太も現れた。今や世界的な大商会の会頭だ。 ピコも相変わらず元気に飛び回っている。


「今日は賑やかになりそうだな」 「ええ。最高のパーティーにしましょう!」


4. 世界一のピザパーティー


昼時。 ログハウスの前の広場にある、レンガ造りの巨大な石窯(万能農具製)に火が入った。


今日のメニューは、畑の恵みを全部乗せした『自家製ミックスピザ』だ。


生地: ゴールデン・ウィート(黄金小麦)の手ごね生地。


ソース: 完熟サン・トマトを煮詰めた濃厚ソース。


チーズ: ホワイト・ミルク・ツリーから作った、伸びるモッツァレラ。


具材: 朝採れの野菜、森のキノコ、燻製ベーコン。


「焼くぞー!」


高温の窯に入れた瞬間、生地が膨らみ、チーズがグツグツと踊る。 香ばしい小麦と焦げたチーズの匂いが、食欲を暴力的に刺激する。


「できた! 熱々だぞ!」


カットしたピザを並べると、全員の手が伸びた。


「「「いただきまーす!」」」


レオがチーズを長く伸ばして頬張る。 「おいしー! パパのピザ最高!」 エリシアも優雅に(しかし素早く)一切れを口へ運ぶ。 「んん〜っ! このトマトの酸味とチーズのコク……! 王宮のシェフでも出せない味ですわ!」


シルフィが俺の隣で、幸せそうにピザを齧った。 「やっぱり、みんなで食べると美味しいね」


5. 社畜だった俺へ


宴が終わり、夕暮れ時。 遊び疲れた子供たちはシルフィの膝で眠り、エリシアたちは帰路についた。


俺は一人、テラスでコーヒー(自家製)を飲みながら、茜色に染まる畑を眺めていた。


ふと、日本にいた頃の自分を思い出す。 満員電車。コンビニ弁当。死んだような目でパソコン画面を見つめていた日々。


あの時、俺は「何か」を求めていた。 でも、それが何なのか分からなかった。


今、俺の手にあるのは【万能農具】と、土の匂い。 そして、家の中から聞こえる、愛する家族の寝息。


「……なぁ、昔の俺」


俺は空に向かって呟いた。


「お前が頑張ったおかげで、今の俺がある。……でも、悪いな。俺は今、死ぬほど幸せだ」


女神様が言った「報酬」なんていらなかった。 俺が欲しかったものは、最初から「土」の中にあったんだ。


6. 異世界農家のスローライフ


「カイト? どうしたの?」


目を覚ましたシルフィが、とろんとした目で顔を出した。 夕日が彼女の金髪をオレンジ色に輝かせている。


「いや。……トマトが、今年もよく育ったなと思って」


俺は立ち上がり、彼女の肩を抱いた。 「明日は何を植えようか」 「んー、アリアがイチゴ食べたいって言ってたよ」 「よし、じゃあイチゴ畑を拡張するか」


俺たちは笑い合い、温かい光が漏れるログハウスへと戻っていく。


俺は、カイト。 かつて日本の社畜だった男。 そして今は――この異世界で一番幸せな、ただの農家だ。


今日も、明日も、その先も。 俺たちのスローライフは、美味しく、賑やかに続いていく。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ