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元魔王、日記を続ける。


サラの成長記録として、日記を書き続けて千と二百年ちょっと。

毎日のように書いているが、勇者が現れてからもっと騒がしい日々となっていた。


金剛石の月の刻

勇者が、この地とは反対の土地に配属されて、一ヶ月が経とうとしている。

「“勇者様のお手紙、まだ来ない……?”」と悲しみに暮れているサラ。

慣れない土地で、自分の時間が取れないのかもしれぬと励ますが、顔は浮かないままだ。

まったく、サラを悲しませるとは……今度、来た時にお灸を据えてやろう。


翠玉の月の刻

ここ最近、サラのあいさつが「“おはよう”」でなく「“勇者様からお手紙きた?”」になりつつある。

勇者から手紙が来ないと、届ける宛先がわからないため、宛先が空欄の手紙が溜まりつつある。

“朝は届いていなかった。もしかしたら夕方あたりに来るやもしれぬ”と毎回同じ返事を繰り返す。

気配感知で勇者の気配を探してもいいのだが、人より少し魔力が多い程度。

しかも、いま勇者がいる場所は、紛争地域のせいもあって、どれが勇者かいまいち把握できない。

……お灸を据えるのは、何時になることやら。


橄欖石かんらんせきの月の刻。

紛争地域での戦いが激しさを増していると、王国内で噂になっていた。

未だに勇者からの手紙は来ない。

「“勇者様が心配なのだわ”」と言って、飛び出しかねないので、サラにはしばらく黙っていようと思う。

……こんなことなら、強化魔法バフでも施した方が良かったかもしれぬ。


蛋白石たんぱくせきの月の刻

薬草の魔女の訃報が届く。

以前、備蓄薬を確認した時には、すでに余命幾ばくもない状態だったらしい。

だから、少年ベルンはサラの……いや“巨人族の歯”を欲しがったのか。

概ね、薬草の魔女に飲ませる薬の材料にしたかっただろうな。

……後悔しても遅い。吾はいつも、大事な時に判断を見誤る。

アーランなら、もっと上手くやれたであろうな。


琥珀の月の刻。

勇者が彼の地へ配属されてから、一年が過ぎようとしている。

一向に手紙が来る気配はない。

……かすかに、サラが勇者に渡した盾の反応が動き回っているのがわかるので、生きてはいるのであろう。

あと、ヒメーレから『ディアマント様が退位し、ベルンシュタイン様が魔皇帝に着位した』と知らせを受けた。

話に聞くと、どうやら薬草の魔女と共にいた少年ベルンは、ディアマント様のご子息だったらしい。

まだ薬草の魔女がいなくなって、心の傷も癒えてないのに、大したものだ。

着任式には立ち会えなかったが、ヒメーレを通してなにか祝いの品でも送ろうと思う。


瑠璃の月の刻。

魔皇帝ベルンが、人間界へ進撃し、そこで『この中で一番強い者を代表者として、私の前に出せ!それ以外の者は認めない!』と宣言したのち

勇者が国の代表者として、和平交渉を行ったと勇者から手紙が届いた。

やっと来た勇者の手紙に、サラも嬉しそうであった。

あれから毎夜のように読み返している。

サラの手紙の方には、『ベルン少年が国王と話し合いをしてくれたおかげで、まとまった休みが取れそうだ』とあった。

久方ぶりに、楽しそうなサラの笑顔をみた気がする。


―――


蛋白石たんぱくせきの月の刻

魔界と人間界の和平が結ばれて、十年後が経った。

街の方では、相変わらずサラの生誕祭が行われている。

今年は、勇者の家族とベルンがサラに祝いの品を持ってきた。

今でも、『勇者の功績を称えて、我が国の二番目の姫を嫁がせる』という国王の申し出を断り、顔なじみだと言うギルドの受付嬢と婚姻した時の話を、ベルンが話のネタにしている。

勇者が顔を赤くしながら『何年その話を言い続けるつもりだっ!』と声を出し、八歳と五歳になる勇者夫妻の子供たちがきゃらきゃらと笑っていた。

……向こう十年は、まだネタにされるであろうな。


翠玉の月の刻。

春の花も散り、初夏に近づく。

『サラも勇者様みたいに、剣術を習ってみたいのだわ』と剣の稽古をねだられるようになった。

吾は、基礎中の基礎しかできない。しかも、剣を振っていたのはサラが産まれるよりも、もっと前だ。

……今度、勇者に声でもかけてみるか。

そういえば、勇者夫妻の子供ももう、十八歳と十五歳になるらしい。

ついこの前まで、よちよちと歩いていたのに、人間の歳では、大人として扱われる歳だという。

人間は本当に、時が進むのが早い。

もう少し、ゆっくり進めばいいものを。


紅玉の月の刻

サラは、一つの物事に熱中すると、長く続けるタイプのようで、あれから二十年ほど経つが、まだまだ楽しく剣術を習っている。

見込みがあるかどうかは……まあ人それぞれだからな。

それから勇者の子供たちに、子供ができたと知らせが来た。

勇者から見たら孫だな。

やっと独り立ちしたと思ったら、もう家族を作っていたことに驚いてしまった。

『サラが剣のお手本を見せてあげるのだわ』と言って、勇者の子供たちに負けていたあの頃が懐かしい。

赤子を見ると、昔のサラを思い出し、少し切なくなる。

サラが大人になる日には、吾は泣いてしまうのではないだろうか。


柘榴石の月の刻

年も明け、勇者が危篤状態だと知らせが入った。

魔族からしたら短き生だが、人間にしては長く生きた方らしい。

サラが遊びに来れるようにと、街と屋敷の中間に建てた勇者の家へ見舞いに向かった。


「お前は、いつ見ても、変わらないな。」

「そういうお前は、より一層、軟弱になったな。」

“ガハハハ”と笑いながら、むせだしたので、気休めだが神聖魔法をかけておく、少しは痛みも和らぐはずだ。

かつて燃ゆるような髪色は、今では雪が積もったように白い。

目尻にもシワが増え、身体の筋肉も落ちている。

横たわる勇者の傍らにある椅子に腰をかけ、眺めていると、ぽつりと勇者が呟く。


「……オレが、お前を、討伐するはずだったんだがなあ。」

「くくっ、百年早いぞ。」

「……そうか……なら、百年後、お前を討伐してよせよう。」


そうか。百年後も、お前は“俺”の前に立ちはだかるのか。

「……楽しみにしていよう。」

「“少し、疲れた。寝る”」と言って、目を瞑る勇者。

寝息の間隔が徐々に長くなる。

部屋の外で待機していた、勇者の子供たち家族を呼び寄せる。

最後に、吾からの餞だ。受け取るがいい。


『勇者よ、どうか、安らかに。』



ご一読ありがとうございました!

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よろしくお願いします!

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