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第93話 アイスベルク山脈を登る巨獣


深い鼻息が聞こえる。

その鼻息はアイスベルク山脈の冷気に触れ白くなる。


「間も無く3番ゲート行きエボルゼブラが出発するよー! 乗馬の方はあちらまでー!」


これから乗るエボルゼブラタイプⅡの真下あたりに着くや否や、ぼざぼさ髪の男はそう言ってエボルゼブラの尾の方に腕をやる。

その方へ行くと、防寒帽子を深く被った男がこれから乗り込むであろう乗客を縄ばしごに案内している。


「これで6人目……君らも3番ゲート行きかい?」


「ああ、3人だ」


金貨を1枚、銀貨を3枚男に手渡した。

男は俺から金貨1枚と銀貨3枚を受け取った後、セシルを何故か見る。


「珍しい、獣人の子かい」


「旅の仲間なんだ。アイスベルク山脈の登山宜しく頼むよ」


縄ばしごを掴み、まずセシルから登らせて次にメア、最後に俺が続く。


「了解。よし、これで全員のようだな。確認、確認、よしOKだ! ブラウ!」


防寒帽子を深く被った男はぼざぼさ髪の男の方を向いて叫ぶ。

それに反応するようにぼさぼさ髪の男は手を上げて見上げる。


「わわっ!」


セシルがバランスを崩す。


「上に着くまで落ちないでよセシル」


縄ばしごは人の腕ほどに太いが、セシルの上にも6人が先にいる。

縄ばしごは揺れ、エボルゼブラの毛に当たったりあたらなかったり。

縄ばしごの両端の縄はそれぞれ三つ編みで太い縄で結ばれている。


俺の下に続く防寒帽子を被った男を含めて10人。

それでも切れない縄ばしごの丈夫さに感心する。


「これくらいの高さ、登っていけそうな感じするけどな」


「やめてくれそれは! エボルゼブラの性格だ、そんなことしても怒らないだろうがな。こちとら安全に乗客を向こう側に届ける責任があるんだよ」


防寒帽子を被った男は必死になって言う。


「分かったよ、大人しく登ろう」


「ったり前だよ! 上に着くまで大人しくしててくださいな」


徐々に、徐々に視界が上へ上へと上がる。

地上との距離が離れて行き、視界に広がるはそれまでの道筋。


カリダ村も小さく見える。

今はどうだろう、見える感じでは特にスライムの大群や他の魔物も見当たらないようだ。


そしてその奥に目を向けて同じく魔物の襲撃にあった村の確認。

ヘリオスの村……だが、さすがに遠すぎて見えない。


そうだ、と、俺は思い出した。

ヘリオスの村の魔防壁の存在。

国や街との魔防壁と違って作りは劣っているが、それは別の効果も合わせ持っている為だとヘリオスの村を良く知る者から聞いた。


村の消失。

それはまるで、其処に村が無かったかのように見せる。

とすれば、何故俺たちはヘリオスの村が見れたのだろうか。

その辺は俺にも理解出来ない。


しばらくの間、黙々とエボルゼブラに垂れ下がる縄ばしごを登って行った。





エボルゼブラの毛並みはとても硬い。縄ばしごからでも直ぐに手の届く距離にエボルゼブラの毛がある。その毛並みを軽く触れてみたのだが剛毛なんてものじゃない。その一つ一つの毛が石ではないのかと思うほどの硬さだ。


数分後、エボルゼブラの頭部が見えて来た。

灰色の全身の中でも、頭部から尾にかけて白いのが特長的なエボルゼブラ。

この大きさで乗馬というのも変な感じではあるが、一応、馬の一種ではある。

魔物のレベルに換算すると120と言われるエボルゼブラ。

こいつを怒らせたら危険だと言うことは誰にでもわかる。


エボルゼブラの背中には先にいた者たちを含め11人の乗客がいるようだ。


エボルゼブラタイプⅡはソフィア王国が生み出した対魔物用運搬生物。

人や物を運ぶという点においては忠実に命令を守る。それは他のタイプⅠやタイプⅢも同じだ。

これだけの人数が背中に乗っているというのに大人しくしている。


「はいよっと!」


そして後から登ってきたのは、防寒帽子を深く被った男にブラウと呼ばれていたぼさぼさ髪の男だ。


「ブラウさん、これで全員っすか?」


「みたいだねー。ラッシュ、乗客の皆さんに防寒具一式をー」


ぼさぼさ髪の男、ブラウから指示された青年ラッシュは乗客に防寒具を渡していく。


「助かる」


流石に勇者の格好だけでアイスベルク山脈を渡るのは厳しいものがあった。

だが、それもこうしてエボルゼブラタイプⅡに乗った際借りれることを知っていた。

青年ラッシュから受け取った防寒具を着ると、寒さが随分とマシになった。

冷えた両手に手袋……助かるな。


「ほい、防寒具……って! 獣人の子っすか!?」


「そうよ、ほら貸して」


メアがやれやれと言った様子でラッシュから防寒具を受け取る。

セシルも毎回のことながらそういう反応にうんざりしていることだろう。

セシルはメアから受け取った防寒具を着るが、やや大きいように見える。


ラッシュはよほど獣人のセシルが珍しかったのか、気にして振り返りつつもエボルゼブラタイプⅡの後頭部付近に戻って行く。


「皆さん、このたびは3番ゲート行きエボルゼブラへ乗っていただいてありがとうございます。間も無く出発しますので、到着までお静かにお願いします」


丁重な言葉と共に、深く被った防寒帽子を上げてそう言った。


そしてエボルゼブラタイプⅡの乗組員の3人は集合して何やら話している。

ルート確認でもしているのだろう。


「ブオオオオオオオオオオオ!!」


大きく鳴いたエボルゼブラタイプⅡ。

その大きく鳴いた声はアイスベルク山脈に伝えるようにこだまする。


エボルゼブラタイプⅡが動き出した。

向かうはアイスベルク山脈を超えた先にある3番ゲート。6あるゲートのうちの一つだ。つまり、他のゲートにもこれほど馬鹿でかいエボルゼブラタイプⅡがいる。


アイスベルク山脈に向けて歩いて行く足取りはゆっくりに思えるがその歩幅だろう。視界が動くのが早い。

あっという間にエボルゼブラタイプⅡが待機していた場所から遠ざかる。


「シン、まだ距離はあるけどいよいよだね」


「ああ、気を引き締めていかないとな」


アイスベルク山脈を越えた先ーーカサルの地を訪れ、絶臨界を視野に入れながら到達すると言われている魔王の城。

俺がシーラ王国のアリス王女から与えられた任務ーー魔王の城に眠る秘宝を盗み出すのは、その道を歩んで行った先にしかない。

近道なんてそんな都合の良いものなんてありはしない。


それまでに、今の勇者ランクを1でも2でも上げておこう。

何せ、魔王の城周辺にいる魔物のレベルは当たり前のように100番台も出現すると言われている。


シーラ王国隣接街、セイクリッドを出発した頃は思ってもみなかった。

俺がメアやセシルと旅を共にして、ここまでの成長を遂げるとは。

最も、まだその成長は魔王の城に入るには十分ではないことも重々承知している。


エボルゼブラタイプⅡが間も無くアイスベルク山脈に足を入れたようで、その歩く音が変わった。

それに、このアイスベルク山脈にも魔物がいないわけじゃない。

今は目の前の状況に集中する時。


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