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第84話 2つの魔力


翌日の朝、俺たち3人はヘリオスの村の入り口付近にいた。


「それでは皆さん、この先の旅もどうかお気をつけて」


「ああ、クレアのお陰で旅の疲れも癒えたよ」


「ありがとうー、クレア」


セシルがクレアと握手を交わす。


クレアも真夜中の戦いの中にいたようで、南側の防衛を任されていたようだ。

魔物は上空だけだと思っていたのだが、地上からも数十体ばかり押し寄せて来たようだった。

こうした魔物の襲来は決まった日ではなく、週に2、3度ほどだとクレアは言う。

そして押し寄せるのは魔物だけでなく、魔人もやって来るそうだ。

現に昨夜見た魔物の群れの中、さらに上空にいた二体。

クレアが言うにはその二体は魔人だったようだ。

おかしいとは思っていた。

知能指数が高いとは言えない魔物が何故、何度もヘリオスの村を襲うのか。

魔物に指示を出していたのは二体の魔人だったということだ。


それにこのヘリオスの村には多くの魔石があるそうで、俺が長老の家で見た魔石はほんの一部だとクレアは言う。

魔石は魔物に一時的に脅威的な力を与えるが、その反動は俺がオルフノットバレーで戦った巨大化したオ-クの末路の通りだ。


だが、ヘリオスの村に過去に来た3人の勇者。魔物を従え、ヘリオスの村を崩壊させた張本人達。

クレアもあくまで予想だと言っていたが、ヘリオスの村に魔石があることを魔人に伝えたのはその勇者たちだと言っていた。

ヘリオスの村を崩壊させた3人の勇者が魔人に、そしてその魔人が魔物に。

そうして人間の言葉も魔物の言葉も理解する魔人を通して、ヘリオスの村へ押し寄せる魔物の数は減らないのだとクレアは言う。


魔防壁無くしてヘリオスの村の存続は保たれないとクレアは俺たち3人に切実に話していた。

その為、たとえ魔防壁が在ると言えど、人間による目視防衛は毎日欠かせないそうだ。


「あーあ、せっかくヘリオスの村に来たんだもの。何か秘術的なもの教えて欲しかったな」


「メア、冗談よせ。そんなものがあったとしても俺たちに教えてくれるわけないだろう」


ヘリオスの村は遠い過去、築かれた正確な年数は分かっていないが、永く続いて来た1つの民族だった。

だが、4年と少し前、勇者と魔物の襲来によりヘリオスの村は一度滅んだ。

今は、再度集まった住人たちの手によってヘリオスの村は復活を遂げたようで、村が滅んだその時に散った一部の同志は未だ返って来ないそうだ。

その話を聞いてバタリアで出会ったルイとルリカのことを伝えると、クレアは直ぐに長老の元に伝えに行った。

間も無くして戻って来たクレアは満面の笑みを浮かべていた。

今日、仲間数人とバタリアへ迎えに行くそうだ。

さすがにヘリオスの村の住人の魔力でも、あまりにも離れ過ぎた相手の魔力は感知出来ないのだと言う。

特殊な遺伝子配列を持つヘリオスの村の住人。築かれた年数すら不明だが、過去にハンドレッドの街に襲来した悪魔族の多くを消滅させた。

そんな歴史あるヘリオスの村の秘術、教えてくれるわけがない。


「……そうね、あなた達に役立ちそうな技はあるけど、使えるかしら」


「あるの!? 教えて教えて!」


メアがここぞとばかりに前に出てクレアの両手をがっちり掴む。


「俺も気になるな」


まさか、教えてくれるなんて思ってもみなかった。

教えてくれるなら、今後の戦いでも使える可能性もある。


クレアが俺たちから少し離れて、地面に向けて手を向ける。

そして目を瞑ると地面より少し浮いた箇所に光が集まっていき円盤らしきものが作り出された。


「これは魔法結束によって出来るものなの。簡単に言えば空中に乗れる台。ほらっ、こんな風に」


クレアはそう言って人1人分程度の円盤の上に乗った。


「ほえー」


セシルが不思議そうな様子でクレアが乗った光の円盤を屈んで見る。


「変わった技ね。これが、私達にも出来るって?」


クレアは地面に降りる。


「簡単に、とは言わないけれど、訓練次第ではあなた達にも出来るかもしれない。浮魔の力と言って、こうして自分の魔力を意識して作りたい場所に集中する。あまり長く時間は持たないけれど、工夫次第では戦いの場でも有利になれるはず」


また光の円盤が作り出される。

俺も初めて知る技だ。

ヘリオスの村の住人たちは魔力を生み出す遺伝子配列が1つ多い。もし、その特徴を持っているからこそ出来る技だとしたら出来ない技。

だが、クレアが言うように訓練次第で俺たちにも出来るようならこれはかなり使える。

空中戦はもとより、攻撃手段の幅も広がる。


セシルがクレアが作り出した光の円盤の上に乗るが、直ぐに消えてしまった。


「そう言えばクレア、セシルはどうなの? 獣人でも問題なく訓練すれば出せるってわけ?」


「ん~、それは難しいです。獣人は魔力が低い種族なので、魔力のコントロール自体普段からしないと聞きます」


確かに、獣人はもともと戦闘を好まない種族。魔力は持っているのだが、俺やメアのような勇者ほど持ち合わせていない。一般人程度と同じだとも言われている。

バタリアを出発してからセシルとずっといるが、魔力を使ったところを見たことがない。


「おやおや、いけませんねクレア。部外者に村の技術を教えるなどもってのほか」


「エデン様! これは! その……違うんです! 私はただ、この人達の役に少しでも立ちたくて……」


昨夜と同じ僧侶のような格好。目は細く、烏帽子の下から黄色い髪を覗かせる。


「誰かの役に立ちたい、とても素晴らしい考えですねクレア。婆様から彼らの話は聞きました。何でも、魔王の城を目指しているそうですね」


「だったらなんだ?」


「何もありません。もちろん、この世界から魔王とその配下である魔物がいなくなるのは我らも求めていることです。ーーですが、たかだか3人で何が出来ましょうか?」


エデンが正論を言っていることは確かだ。

俺とメアとセシル、たった3人で出来ることなどたかが知れている。


「さあな。でもな、やってみなくちゃ何も分からないんだよこの世界は」


「言いますね。では、私もヘリオスの村に住む1人の人間として影ながら応援していますよ」


上から目線で話す感じが妙に腹ただしい。


「じゃ、じゃあ皆さん! 今後の旅もお気をつけてください!」


「またなクレア。教えてくれた技、いつか使わせてもらう」


「クレア、ご飯美味しかったよ! また今度食べに来るからね!」


「ばいばい!」


俺たち3人はヘリオスの村を後にし、次なる旅へ出発した。





ヘリオスの村を出発してからアイスベルク山脈を目指して歩いていた。

そんな中思い出すヘリオスの村のこと。

真夜中、いつ来るか分からない魔物の群れに対抗するヘリオスの村の住人たち。

魔防壁無くしては成り立たない戦い。


そんなヘリオスの村の魔防壁。

やはり、国や街とは違い、ヘリオスの村の住人たちだからこそ出来る魔防壁だった。

普通、一般の人々から集めた多大な魔力を使用して構築される魔防壁。

だが、ヘリオスの村の住人をざっとみても200人いるかいないか。

それに比べて国はおよそ5万人、街は1万人から2万人が平均している。


それほど、魔防壁を作り出すというのは人数がいる。

しかし少人数にも関わらずヘリオスの村に魔防壁が張られているのは、彼らの特殊な遺伝子配列だからこそ出来るものだった。


魔力とは普通、その個人のみが持つもの。国や街の魔防壁の構築は多くの人々から集められた微量の魔力を強大な1つの魔力へと変換する。その方法は極秘とされている為、構築方法は不明。

人々から集めた微量の魔力を1つの魔力へと変換する巨大な装置があるとだけ聞いている。

人々の直ぐ短にあって人々の命を守る魔防壁。国や街では一個人から集めた魔力により生み出される。


反面、ヘリオスの村の人々も一個人ではあるが特殊な遺伝子配列により魔力と魔力を繋げることが出来るとクレアは言っていた。

そうすることで何倍にも魔力を高めることが出来るそうで、少数でも魔防壁が構築出来るのだと言う。

共鳴魔力と言われるそうだ。


それに引き換え俺やメア、殆どの人間は単一魔力で、集まったところで魔防壁を張るようなことは出来ないらしい。

国の力があってこそ出来る魔防壁。

これは良いことだ。

年々、魔物生息域付近にある村の人々が国や街を目指してやって来る。

そうして国や街に人々が増えて行くにつれて、魔防壁もより強力なものなるだろう。


2つの魔力、共鳴魔力と単一魔力。俺もその呼び名を知ったのはヘリオスの村に来てクレアから聞いて初めてだった。

魔力はスキルを発動する為だけに使い、後は人を探していた時に感じた時くらい。


ヘリオスの村に行ってから随分為になる知識や技を知った。

世間はまだまだ広いということだ。


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