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第81話 不審な動き


シルビア=レオンハ-ト。

当時、若干6歳の少女はハンドレッドの街の数少ない生き残りだったそうだ。

その後、家族亡きシルビアは一時的に国が預かることになったそうだが、居合わせたヘリオスの村の住人たちによって保護されたようだった。


家族は既にいない、頼る者たちもいないシルビアにとってヘリオスの村の住人たちの対応に心底感謝したと本人は言う。

そして、今日に至るまで共に生活して来たクレアを妹のように接する。

シルビアには3つ歳の離れていた妹がいたそうだが、ハンドレッドの街の悪魔族襲撃事件により還らぬ人となってしまった。


そうして後に出逢ったクレアを実の妹と同じように共に過ごして来たそうだ。

クレアもクレアで姉が出来たと大層喜んだそうで、それは2人の様子を見ていればよく分かる。


シルビアが話していた時はやはり当時の記憶が蘇るのだろう。

時折、言葉を詰まらせながら話していた様子からそう感じた。


その後、クレアと他数名が運営を任されている畑の手伝い、古くなって来ている家の補修作業をしながら村の住人たちと触れ合った。

閉鎖的、確かにそう感じる瞬間も度々あった。ただそれは俺たちが勇者は勇者でもヘリオスの村を襲った勇者とは違うことを行動で示すことで、少しくらいは薄らいだと感じた。

家の補修作業で変に気を遣わず話すのは、少なくとも勇者である俺やメアに対する警戒心が薄らいだ証拠だろう。

ましてや自分たちの住むヘリオスの村のことも話してくれた。

全てでは無いとは思うが、それでもヘリオスの村のことを知れたことは素直に興味深い事実だ。


生活スタイル、食べるものといった日常的な事だったが、それでも悪魔族の大半を消滅させたヘリオスの村の話を聞けたことは貴重なことには変わりない。


そしてヘリオスの村の中でも特に気になったもの。

石に深く掘られた魔方陣は解読すら不明。

だが、それもヘリオスの村の住人は話してくれた。

魔方陣の意味は一部の人間しか分からないようで、魔方陣はヘリオスの村に4点置かれているという。


そう、これがヘリオスの村に魔防壁を生み出しているものだ。

国や街で張られている魔防壁はその生成方法を今まで明かしてはいない。

気になりヘリオスの村と同じ生成方法かと聞いてみるとまずそれは無いそうだ。

過去、人間と魔物との大戦後、ヘリオスの村にやって来た各国の騎士兵団。

もし、ヘリオスの村の魔防壁と同じ生成方法なら来る理由もないだろう。というのは、当時、国は人手不足を第一に懸念して、既に情報を得ていたヘリオスの村の魔防壁を生成した者たちの勧誘を好条件を出して来たそうだ。どのような条件かは定かではないが、無論、当時のヘリオスの村はそれを却下。

いくら好条件を提示されようとも、ヘリオスの村は断固として国への援助はしない意向を示した。


つまりそれほど、ヘリオスの村の魔防壁は価値が高いということだ。

解読不明の魔法文字、古くからヘリオスの村に伝わるものと住人は話す。

そんな魔方陣は俺の3歩大股分と少しの大きさ。

それがヘリオスの村に4点。

それだけで魔防壁を生成するとは驚きを隠せない。


魔防壁の正式名称ーー魔法聖域防御結界壁は人間が魔物に対抗する為に生み出されたものとされ、ヘリオスの村を始め世界の国々や街に欠かせないもの。

だから、崩れることなんてあってはならない。


過去、魔物との大戦後、人々への影響ーー人の死、また疲労や精神的ダメージといったもので魔防壁が大きく弱まったところで悪魔族の手に上がってしまった。


過去の大戦ほどの戦いがいつ起きてもおかしくない状況は人々にとっても、そしてヘリオスの村の住人たちにとっても不安なものだろう。

俺たち3人ももちろん人ごとでは無い。


この日の夜はまたクレア宅で自慢の採れたて野菜を使った鍋料理を食べて、間も無くして俺たちは床に就いた。





「ーーねえシン、シンってば起きて!」


真夜中、そう言って俺を揺するのはメアだった。


「何だこんな夜中に……」


メアが何も言わずに小窓に向かい、そうっと見る。

何事かと思い、俺も向かって小窓から外を見てみると、ヘリオスの住人たちが慌ただしく移動している。


「絶対何かあるって!」


「なんだろうな」


こんな真夜中に大勢の住人たちが移動。何もないわけがない。


セシルは毛布に包まり眠っているようだ。


「2人に聞いてみる?」


メアがクレアとシルビアがいる部屋を指差す。


「……いや、それはやめておこう」


首を傾げるメア。


「考えてもみろ。クレアもシルビアも、それに長老も俺たちのような部外者ーー俺とメアは勇者だ。そんな勇者がこの村にしたことを住人たちが許すと思うか?」


そう言うとメアは眉間にややシワを寄せて下を向く。


「いいえ。でも、このまま黙って寝てるなんて私には出来ないわ」


それは最もだ。

あまり考えたくはないが、ヘリオスの村の住人たちがこぞって今寝ていると思っている俺たち3人を襲おうとしているかもしれない。

いや、もしかすると狙いは勇者である俺とメアだけかもしれない。


「行ってみようか」


首を縦に降るメア。

セシルは……そっと寝かせておこう。


クレアとシルビアは別の部屋で寝ているのだろうか。

同じヘリオスの村の住人だ。何か知っているかも知れない。

いや、ダメだ。

昼間は親しげに話してくれていたが、それも演技という可能性すらある。

どこかの勇者3人がヘリオスの村を襲った話。

とんだはた迷惑な話だ。


セシルをそのまま寝かせておいて、俺とメアは静かに外へ出た。




「誰もいないじゃない」


外へ出ると移動していた住人たちの姿はなかった。


「そう思わせて油断させているのかもな」


「……」


黙り込むメア。


「どうした?」


「シン、本当に村の人たちは私たちを襲おうとしているのかな?」


「それを確かめる為にこうして外へ出たんだろ? 行こう」


小窓から見た方角では村の入り口に向っていた。

真夜中のヘリオスの村はまた違った様子を見せる。

明かりはヘリオスの村のところどころに置かれてある松明の炎のみ。


そうして住人たちが向かったであろう方角へ進んでいると話し声が聞こえて来た。



「私たちの村は私たちで守る! アイツらの好きにさせるものですか!」


「そうだ! 俺たちは誇り高きヘリオスの村の住人! いつでも来てみろ! 返り討ちにしてやる!」


住人たちの辛辣な言葉が聞こえて来る。

やはり、俺たち部外者の居場所は此処にはなかったか。


「セシルの元に帰ろう」


そうと分かったらもうこの村にいる必要はない。

今1人にしているセシルも危ない。

セシルの元に帰ろうとした。


「……セシル」


振り返ってセシルの元に帰ろうとした時だった。


「クレア」


セシルのすぐ隣にいたのはクレア。


「外へ出るなってラングレッドに言われなかった?」


「ああ、そんなこと言っていたな」


ラングレッドもグルだったのだろう。

演技が中々うまい。


目を瞑り、そして俺をじっとみるクレア。

逃してなるものか、そんな気がしてならない。


だが、俺の予想外の行動をクレアはとった。

セシルを俺とメアの元に軽く押した。


「危険が及ぶ前にあなた達はこの村を出て」


さらに予想外の言葉を言うクレア。


「……どういう意味だ?」


てっきり俺はヘリオスの村の住人たちが俺たち3人を襲う為の準備をしていると思っていた。


「言葉の通りよ。この村は危ない。何の関係もないあなた達を巻き込むつもりはないの」


と言われても意味が分からない。


「クレア、話して? 私たちに出来ることだったらするよ?」


メアのその言葉に困惑しているような表情を見せるクレア。


その時、背後から歩いて来る音が聞こえた。


「お姉ちゃん」


来ていたのはクレアの姉、シルビアだった。


「あなた達……」


「あの、事情は分からないけど、私たちに出来ることなら」


「ダメよ、この村の住人でもないあなた達が関わる必要なんてない」


まるで別人。

力のこもった言葉は雨に濡れていた時のシルビアと全く違っていた。


そして、そのうち何処からともなく俺たち3人の元に集まって来た他のヘリオスの住人たち。


俺たちはしぶしぶヘリオスの村から出て行った。





まだ日も登らない真夜中、ヘリオスの村を追い出されて夜道を歩いていた。


「もうっ! 何だったのよ!」


メアが苛立ちを見せる。

せっかく寄れたヘリオスの村も僅か半日程度だった。


「仕方ないさ。それよりも俺たちは次の旅へ行くとしよう」


セシルが名残惜しそうに背後を振り返る。


「セシル、行くぞ」


そう呼んで、真夜中の道を進んで行く。

通り道には宵を意味する花、ぺヌンブラが咲いている。

ぺヌンブラは夜に咲く花で、中心部にはキラキラと光る真珠のようなものがある。これは雌しべだ。

ただ、綺麗だからと言って安易に触れようものならたちまちのたれ回ることになる。

ぺヌンブラの雌しべには猛毒があり、毒消しアイテムを持っていなければ体力なんてあっという間に持っていかれる。

それは魔物も例外ではない。


人類の祖先が進化して来たように、動植物であるぺヌンブラも存続の為に進化して来た。

そうした動植物は世の中には多い。


「綺麗……」


セシルが立ち止まって空を見上げる。

鬱蒼と茂る傍の草むらの方の空を見てみれば、これまたぺヌンブラの真珠より光を放つ星が雲の間から顔を覗かす。


月だ。

月の両隣にはふた回りほど小さな星がいつもある。

空気中には微細の氷の結晶が存在しており、それが光の屈折により月の両隣に見える現象ーー幻月のようだ。


だが、実際は現象などではなく月の両隣には確かに見える星がある。名もない星だ。


「あれ……」


メアが北東の空を指差して言った。


北東の空ーーそこに見えるのは何体いるんだというほどの魔物の群れ。

別に珍しい光景ではない。

むしろ、この魔物時代においては見慣れてしまっている光景。見慣れてはいけないのだが、魔物の移動もよくあること。


今はじっとして、その場をやり過ごす。


魔物の群れが近づくに連れて、その大小様々な魔物が確認出来る。

月の逆光と夜でシルエットしか確認出来ない。


「この方角は……」


魔物の群れが向かう方角。

それは、俺たちが先程出てきたばかりの村の方角。

偶然……なのだろうか。


「セシル!」


セシルが1人飛び出して逆走し始める。


これは……


俺の予感はいつも当たる。


魔物の群れが向かう方角、そしてヘリオスの村の住人たちの言動。


急いで俺たちはヘリオスの村へ走る。


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