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第52話 ヘリオスの村の技術


「セシルはシンとメアと一緒に行くの」


獣人の子はセシル。元気を取り戻したようで、声が通っている。

甲高く、それでいてまだ幼い声。


「……メア、説明してくれないか?」


俺が獣人の子をメアに預けてから何があったのだろう。

一応、ひとまず安全な場所に移動させようということで宿屋に案内したのだが。


「えっとね、話すと少し長くなるんだけど……」


「構わない」


セシルの方を見ると、きょとんとした表情をしている。

この子が俺たちの旅に一緒について来るなんて、大丈夫か?


「セシルは2人と絶対一緒に行くよ!」


何か俺から感じ取ったのだろうか。

俺の両手をぐっと握り、そう力説する。


「実はね、セシルは仲間から逸れてしまって闇の商人に捕まったみたいなの。でもね、その時は直ぐに逃げ出せたみたいで助かったって」


セシルはベッドの上にぴょんと飛び乗って座り、足をぶらぶらとさせる。


「それで、なんでバタリアに居たんだ?」


「それがね、逃げ出せたまでは良かったんだけど、セシル、自分からバタリアに来たって」


「ばっかだな~! いてっ!?」


「理由があるのよ!」


そう言い、ルリカがルイの頭を叩く。


「獣人族は本来群れを作って集団で生活するのはシンも知っているわよね?」


「ああ」


獣人族は少数で集団を形成し、魔物から逃れ戦って生活をする。

それは決まった地域で生活をすることもあれば、違う地域に移動することもある。可能な限り無駄な争いは避ける。それが獣人族の生き方だ。


「セシルは仲間の匂いを辿ってここに来たの~!」


セシルが鼻をヒクヒクとさせて、声を大にして言った。


「そういうことか」


獣人族は特に仲間意識が強い。

セシルがこのバタリアの無法地帯に捕まっている獣人族を助けたいと思うのは自然なこと。

だから例え同じ集団の獣人族でなくとも、同じ獣人族として放って置けなかったのだろう。

獣人族は人間では嗅ぎ分けることが出来ない匂いにも敏感で、セシルはそれを嗅ぎ取ったのだろう。


「そういうこと。同じ獣人族がこの街にいたから放って置けなかったってわけ。で、また、闇の商人に捕まることになったのよね、セシル」


「うんっ!」


セシルは首を大きく縦に振った。


「ドジ、いてっ!?」


ちょくちょく余計なことを言うルイに対して、ルリカが即座に叩く。

確かにルイの言う通りドジではある。が、それも仲間を思ってこその行動。

本来、獣人族の速さを持ってすれば人間に捕まるなんて考えにくい。

仲間を探すあまり、周りへの警戒を怠っていたのだろう。


セシルが何とも言えない表情で俺を見つめて来る。


「セシル……」


もちろん助けてやりたいのは山々だが、そんなことをしているとあっという間に時間が経ってしまう。

俺には魔王の城に眠る秘宝を盗み出すという目的がある。


「お前の仲間はいつか絶対に助けてやる。ーーだから、それまで待っていてくれるか?」


セシルの横に座ってそう言った。

根拠は無かった。だが、今はそう言うしか無かった。

俺が魔王の城に眠る秘宝を盗み出した暁には、シーラ王国から貰った有り余るほどの金貨で救い出してやる。そんなことは、この純粋な目にはとても言えなかった。


「絶対!」


しかし、そんな根拠もない言葉とは裏腹にセシルは小指を差し出す。


約束なんてするのはいつ以来だろうか。

このバタリアで偶然出会った獣人の子相手に、俺は何故根も葉もないことを言ったのか。

ただそれでもセシルにとって俺は、バタリアの無法地帯に捕まっている仲間を救ってくれる正義の味方に見えたのかもしれない。


「ああ」


そう言って、俺はセシルと約束をかわした。


「カッコつけんな! いてっ!?」


3度目、ルイはルリカに叩かれる。


「シン、約束は守りなさいよね」


「もちろんだ」


俺も、何でこうほいほい言ってしまうのか。

カッコつけているつもりはないのだが、これも何かの縁だと引き受けてしまった自分がいた。


「じゃ、俺たちはこれで……」


ルイがルリカの手を引き行こうとした。しかし、ドアの前に立つメアに対してずるずると後退する。


「次は、ルイたちの話を聞かせてもらう」


ようやくルイは諦めたようで、部屋にあった椅子に腰を落とした。





ルイから話を聞いた。


ヘリオスの村はバタリアより東、カディアフォレストを抜けた先にある、東の関所を通った後の集村。

ヘリオスの村の技術である魔防壁は国や街の魔防壁にこそ及ばないものの、並大抵の魔物では触れることすら許されない。


普通、魔力の使い道はスキル保有者であればスキルの発動に使用したり、それに加えて勇者であれば観察眼にも使用することになる。

それ以外の一般の人々となると、生活する上でまず使うことは少ないだろう。大抵は、ブルッフラを含めて地上に3本ある黒柱に魔力提供するか、生活で使われる魔石の発動源として使うくらい。


しかしヘリオスの村の人々の中には、勇者以上の魔力を持っている者たちがいるらしく、それが魔防壁を築き上げることに繋がったようだった。


そして、ルイとルリカもこのヘリオスの村の出身だった。


「しっかしよく分かったよな、俺たちがヘリオスの村から来たって。魔力は隠していたはずなんだけどな」


「もしかして、私が能力使ったからその時に?」


「いや、そうでもない」


俺がルリカに手を掴まれた時、金縛りを発動されたが、この時はまだ分からなかった。

ヘリオスの村の人々は魔力のコントロールが非常に長けており、隠して生活するなど造作も無いだろう。


だが、特定の条件下において、それはあらわになる。

ルイには手刀をした時、ルリカには腹部を拳で突いた時、それぞれ気を失う瞬間に魔力を感じた。

濃度の高い魔力、それを俺は感じとっていた。


ヘリオスの村の人間は遺伝子の構造が普通の人間と違う。魔力を生み出す遺伝子の配列が一つ多く、それがヘリオスの村の一部の人間たちの魔力を高めていたと研究で明らかにされた。

ただ一つの遺伝子配列の違いだけで、ヘリオスの村の人々は魔防壁を形成させた。

それが発表されたのは今から6年も前のこと。

シーラ王国、ソフィア王国もヘリオスの村のその人間たちに一目を置き、何度も村へ足を運んだそうだ。


その魔力があれば、この魔物時代を終焉へと導く手助けになる。


『その魔力をもって、国へ……世界への貢献を!』


そう、何度も何度も頭を下げ懇願したそうだった。


だが、一部の者たちは国の願いを断じて受け入れなかった。


この神の如く魔力は、我々の村を守る為に授かったもの。

そう言って、あろうことか世界の平和よりも自分たちの村の存続を選んだ。

無論、シーラ王国もソフィア王国も断られようとも何度もヘリオスの村に足を運んだそうだ。

しかし、結局ヘリオスの村からの承諾は得られなかった。


魔防壁を張る為には、たかだか魔力に自信がある程度の人間100人では全く足りない。

魔防壁は黒柱と同じように人々からの協力が不可欠な魔法結界であり、この魔物時代において人々が安全に暮らす為には無くてはならないもの。


ただ、そんな魔防壁をヘリオスの村に住んでいる人々だけで張っている。

しかもヘリオスの村全体の人数ではない。

昔、情報屋から仕入れた話によると50人程度で魔防壁を形成していたらしい。


しかしその後、ヘリオスの村の魔防壁の弱まりが確認されたとシーラ王国から公表された。

シーラ王国は騎士兵団をヘリオスの村へ走らせて、貴重な人材たちを守ろうとした。

だが頑なに自分たちの村に固執するのを見て、遂にシーラ王国はヘリオスの村へ行くことは無くなった。

後、ソフィア王国も騎士兵団を派遣させ、シーラ王国と同じようにヘリオスの村の人々を守ろうとした。

しかし拒むヘリオスの村の人々の態度は依然として変わらなかったそうだ。


後に分かったことだが、ヘリオスの村に張られていた魔防壁は特殊な魔力の性質があってこそ出来ていたらしい。


「けっ! いけ好かない野郎だ! ヘリオスの村出身の俺たちをまだ知っている奴がいるなんて、とんだストーカー勇者だな!」


「……」


ストーカー勇者か。まあ、そう言われてもおかしくはない。


「お前! 否定しないのかよ!?」


「するわけない。ヘリオスの村はあの悪魔族の多くを消滅させた。尊敬に値するよ」


そう言うと、ルイはあながち悪くないといったような感じで両目を深く瞑って開ける。

鼻の下を擦り、ルリカの方を見る。

ルリカもまんざらでもなかったようで微笑した。


そして俺が言った悪魔族とは、魔物の中でも特に惨虐性を持ち合わせており、世界の国々も長く危険視していた。それを顕著に示したのが、魔石を取り込むことによる進化。

ただ、そんな悪魔族の多くを消滅まで追いやったのが、今、俺の目の前にいるルイとルリカと同じヘリオスの村の人間たちだった。

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