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第51話 獣人、仲間になる


よれよれの見合わないベージュ色の長袖に黒のズボン。

それが、ルイの格好だった。


ルイが去った方角に歩みを進めるが見当たらない。


バタリアは間も無く夜の姿を現し、昼間とはまた違う光景が広がっている。

昨夜のパレードはもう終わってしまったが、それでも賑わうのはさすがバタリアといったところだ。

祭りでもなんでもないのに、数人ばかりで優雅なバイオリン演奏会。

それを見る客たちも、その音色に耳を傾けるようだ。

老若男女いるが、特に女性が多い。それは、バイオリンを弾いているのが、目鼻立ちがすっきりした青年だからだろうか。

そしてバイオリニストの真似をするように弾く仕草をする少年。その少年もその場にいる女性に人気のようだ。


一見するとバタリアは、無法者が集まって来るような場所には見えない。

こうしていると、シーラ王国のセイクリッドや、情報街のブルッフラとそう変わりない。

だが、少し道をそらして歩いて行けば、良いことを探す方が難しいくらいの無法地帯へと入ってしまう。

ルイがこの無法地帯に行ったのかは正直考えにくい。

それは、無法地帯に出入りする者の多くが大人だからだ。

ルイは見た目こそまだまだ若すぎる少年。こればっかりは、この前まで見た目で判断してしまっていた俺でも分かること。


表通りをもう少し探して歩くことにした。


表通りの地面は全面石畳になっている。これは、荷馬車が通るたびに跡が残らない為。土だとその跡が残って雨が降った時にぬかるんでドロドロになってしまう。

バタリアは日中ほぼと言っていいほど荷馬車や運び屋の通行量が多く、石畳を採用したのはもう随分と昔の話。


そうしてルイを探しながら進んで行き、少しばかり坂があるところに入った。

街灯が夜の通路を照らし、ベンチに座るのは黒い猫が1匹。毛繕いをしていたが、俺に気づくなりそそくさと逃げてしまった。


ここは無法地帯と違って民家が立ち並んでいる場所。

もしかすると、ルイやルリカもこの辺りに家があるのかもしれない。そうなると探すのも面倒になってくる。


坂道を登りきると平らな道が続いている。そして、とある民家の前には馬の2倍以上の大きさがあるエボルゼブラが2頭いた。


「大人しいな」


エボルゼブラは強靭な肉体を持ち、商人たちの間では心強い運び手だ。

運搬に困ることが多い昨今、ソフィア王国が生み出したシマウマであり魔物ではない。

その強靭な肉体はある程度の弾丸や剣はもろともしない上、気温の変化にも対応出来る。

非常におとなしい性格であるが、魔物に対してのみ獰猛な一面を見せる。王国や街、街や村と魔物がいる道を歩く。

俺が近くにいても静かにしているが、怒らせれば獰猛な魔物ですら手がつけられない。

ソフィア王国が発表したエボルゼブラは、推定70代レベルの魔物に匹敵する強さを持つとされる。

このエボルゼブラはタイプⅠで、現在ではタイプⅢまでいる。

その強さはタイプごとに異なり、タイプⅢが最も強いのだという。


エボルゼブラと別れを告げ、道の突き当たり角を曲がった。


「お前……まだ何か用があるのかよ?」


気づいたようにそう言うのは、ベンチに1人俯いて座っていたルイだった。

着ている服は相変わらずよれよれでサイズが合っていない。ベンチからだらりと下がった服が垂れる。


「まだ謝ってもらってないからな」


「謝る? ああ、お前の剣を盗んだこと? 悪い悪い! つい、ほんの出来心! これでいいだろう?」


呆れて何も言い返す言葉も出ない。これではいつか本当に痛い目を見そうだ。


「何? まだ何かあるのかよ?」


「お前の連れの子、今、俺の泊まってる宿屋にいるぞ」


そう言った瞬間、ばっと立ち上がって走って来た。そして俺の胸ぐらを掴んでガンをつけて来る。


「てめえ! 何のつもりだ!? っ!?」


掴む手を払いのける。


「何のつもりも何も、お前、東の関所の先にあるヘリオスの村の人間じゃないのか?」


そう言うと、ルイはあからさまな態度ーーソワソワとしている。


「し、知らねえなそんな村! ってそんなこといいからルリカを返せよ!」


「……そうだな、返して欲しかったら俺について来いと言ったら?」


こういう奴には、真正面から言っても聞きやしない。

多少強引な手を使ってでもしないとダメだ。


「汚ねえ!」


「決まりだな」


その後、ルイはしぶしぶといった感じで俺の後をついて来た。





宿屋に戻る途中、ルイにこの街に来た経緯を聞いていた。

ルイとルリカはバタリアから数キロ離れた先にある東の関所のまた先、ヘリオスの村からやって来たそうだ。

ヘリオスの村は国から一目を置く独自技術を確立して、シーラ王国、セイクリッド、ブルッフラなどと似た魔防壁を村全体に張っていた。


だが、その魔防壁の欠壊により、ヘリオスの村は魔物によって崩壊することになった。

それが、今から4年ほど前のことだとルイは言う。

そして、ルイやルリカが勇者を毛嫌いする理由こそ、そのヘリオスの村の崩壊に関係していた。


宿屋に着いて部屋に入った瞬間、ルイはルリカの元に行った。

大丈夫か? 何でこの場所に来た? などと心配している。


「待ってよルイ! この人たちは敵じゃないわ!」


ルイがルリカの手を引いて部屋から出て行こうとするが彼女に止められてしまう。


「だからって! 勇者には変わりないだろう!?」


ルイやルリカが勇者をやたらと嫌う理由。それは、ヘリオスの村を崩壊させた事件と絡んでいるからだった。

魔物がヘリオスの村を襲った時、同時に現れたのが3人の勇者だったそうだ。

当時、ヘリオスの村にも勇者が滞在していたようだったが、その3人の勇者にはまるで敵わなかったそうだ。


「それはそうだけど……でも! この人たちは違うわ!」


「メア、話を聞いたのか?」


小声でそうメアに聞いた。

こくりと頷くメア。


「勇者には変わりない! 結局、俺たちを丸め込んで裏をかこうって算段だ! ああっ!?」


またルリカの手を引くルイだったが、手痛い目に遭う。

ルリカのスキル、金縛りが発動した。


「な、なんで!?」


ふんっ! とそっぽを向くルリカ。

どうやら、状況が分かっていないのはルイだけらしい。

俺の宝剣を盗んだことはもう水に流してやると言ったはずなのだが、まだ俺とメアを警戒しているらしい。


「ルイ君、私とシンは勇者だけれど、君の思うような勇者じゃない。言葉ではそんな風にしか言えないけれど、分かって、ね?」


そう言って首を傾げる。


「うっ」


顔を赤くして照れるルイを見て、ルリカが突き飛ばす。

思いのほか強かったその突きで、動かなくなっていたルイの体が動く。


そして、奥のベッドにいた自分たちが連れ去ろうとした獣人の子と目が合ったのかルイは俯く。

連れ去ろうとした獣人の子がそこにいたのだ。悪いことをしたという自覚があったのだろう。


セシルがベッドから立ち上がった。そしてルイの元へ歩いて行くなり、右手を上にあげる。


「セシルたち、もう仲間なの。だから、悪く言わないで」


ポンとルイの頭に右手を置いてそう言った。


叩かれる、そう思ったのか、ルイはギュッと目をつぶったがセシルの行動に困惑したような表情を見せる。


その場にいたメアは獣人の子が言った意味が分かっていそうだ。


だが、ルイと同じように俺は全く理解が出来ない状況だった。


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