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【番外編1】

お久しぶりです。ステイホームでのお正月の暇潰しになればと思います。

うららかな昼下がり。それまでの大量の書類に一応の目処をつけ、セシリアはかねてから楽しみにしていた友人たちとのお茶会の席に着いた。そこには、エルフリーデとローザが既におり、セシリアが入室するとたちが上がって礼をとった。


「堅苦しいのは無しにしましょう?お友達だけのお茶会ですもの」


セシリアがそう2人にいうと、和やかにお茶会が始まった。


「ローザ、体の調子はいかがですか?」


「はい。おかげさまでもうほとんど産前と変わりません。妊娠中は杖の練習をしていませんでしたが、また最近練習を始めました。」


数ヶ月前の夏の盛りに無事、出産を終えたローザは体も落ち着き、久しぶりに登城していた。杖をつきながら仏頂面のアンゼルムに付き添われてやってきたローザは、初めて会った頃とは間違えるほど健康的に、美しくなっている。


「ロータスと一緒に散歩できるようになるのが今の目標ですのよ。」


そう言って微笑む顔は母親のそれであり、今までにない強さを感じさせる顔だった。


「楽しみですね。歩けるようになったら、ぜひここにも顔を見せに来ていただける?」


セシリアはなかなか公務以外で出かける機会がない。そのため、アンゼルムとローザの嫡男であるロータスにまだ会ったことがなかった。


「もちろんでございます。」


「ところでローザ様、お産は大層痛いと聞いておりましたが、実際いかがでしたか?」


先日結婚したエルフリーデは興味津々と言った顔で聞いてきた。ここは気心知れた3人だけのお茶会なので、3人とも年相応に会話を楽しんでいる。


「痛いとは聞いていたのですが、陣痛から生まれるまで本当に短くて。私以上に慌ててる夫を見て、逆に冷静になってしまいました。」


その時のアンゼルムの顔が思い浮かぶようで、セシリアはエルフリーデと顔を見合わせてくすりと笑った。妻を溺愛するアンゼルムのことだ。苦しそうなローザのようすに散々ヤキモキしていたに違いない。


「生まれてしまえば、痛みなんてすっかり忘れてしまいました。だって、とっても可愛いんですもの。」


やはり母は強いと言うのはどこの国でも同じようだ。


「そういえば、最近王城内の文官に女性が増えてきたとお聞きしましたが。」


ふとローザが話題を変えた。


「ええ。エルフリーデの紹介で何人か貴族の女性を文官として出仕させているの。まだまだ壁はあるけれど、女性特有の細やかさで宰相と陛下周辺の政務官たちからはもっと女性を増やしてほしいと請願がきていたわ。もちろん理解しない者たちも多いのだけれど、まだまだ我が国は優秀な人手が欲しいから文句は言わせないわ。」


男性社会の王城内でも、セシリアの庇護のもと女性の政務官たちは一定の地位を確立しつつある。彼女たちは学園での成績が優秀であったのはもちろん、女性同士の横の繋がりをうまく使い、部署の枠を超えて上手にやっているらしい。夜会やお茶会での貴族の付き合いの賜物だろう。当初女性の政務官を見下していた者たちも、挫けないその心と努力、細やかな気配りを評価するようになってきている。セシリアはもう数年したら、女性の政務官の割合を増やした場所をつくりたいと思っていた。


「女性の政務官といえば…」


何かを思い出したようなエルフリーデはすぐにセシリアのために働くときの顔になった。


「ヒュンデル侯爵令嬢がしばらく前から出仕してらっしゃるでしょう?」


ヒュンデル侯爵令嬢といえば、セシリアが輿入れしてきた時から何かとセシリアに絡んでくる令嬢だ。典型的ないじめでもしてくるかと思われたが、セシリアに対抗して学問に力を入れ始め、少し前から政務官として出仕していた。伝統ある侯爵家が三女とはいえよく出仕を許したものだと思っていたが、より政治の中心に近いところと縁を結ぶためだと、ヴェロニカが説き伏せたらしい。


「ええ。彼女がどうかして?」


影からは不穏な情報は届いていなかったはずだが。


「なんと、パーデン侯爵家のマルク様と親しくなったのですって。」


「マルクと?」


「はい。最初はヴェロニカ様が随分と迫っていたようですが、最近はマルク様も満更ではないようですわ。」


「というと?」


ローザもヴェロニカを知っているため、興味津々だ。


「いい感じに恋仲になりそうと言うことですわ!!」


「あらあら」


セシリアはお茶会の後、影に少し調べさせることにした。マルクの出生はバーデン侯爵家ということで、先々代の国王の息子である証拠は何一つないし、王家の後継者についても問題はない。マルク自身がどう考えているかは別として、2人が結婚することについてはなんの問題もない。控えめなマルクと積極的なヴェロニカなら上手くいくような気がした。


「少しこれでヒュンデル侯爵令嬢が静かになってくれるといいのですけど。」


最後に肩をすくめながらエルフリーデがそう言った。

セシリア自身は、裏表なく素直で努力のできるヴェロニカを思いのほか気に入っているので、上手く行って欲しいものだと思っていた。


「あら、静かになってしまったらさみしいわ。」


「そうですわね。」


思わずそんな言葉がセシリアの口をついた。ローザが小さく笑いながら同意する。


「今後のお二人が楽しみです。ぜひその後を教えてくださいませ。夫はあまりここの話を教えてくれないのです。」


ローザの言葉に2人は苦笑した。アンゼルムのことだから、ローザを独り占めするために、屋敷の外の話は極力しないのだろう。


「もちろんですわ。お手紙はもちろん、お茶会もたくさんやりましょうね。」


3人で力強く頷きあった。

実際、もともと王家派であった公爵家のローザと反王家であった侯爵家のエルフリーデがセシリアの下にいることで、国内の貴族が国のために団結するというある意味旗印のようになっていた。


セシリアが嫁ぐ条件であった陸路が整備され、国内の景気が上向いてきたのも大きい。オーラリアを通して上質な紙が国内に流通しはじめている。また、輿入れの時に通った街に集まった絵師たちのパトロンになる貴族が現れ、娯楽が増えた結果、庶民にも手が届く芸術が普及し出している。国民たちはオーラリアの真珠のおかげだとセシリアを讃えていた。


そこからしばらくお茶とおしゃべりを楽しんでいると、ジルベスターがサロンへとやってきた。


3人は立ち上がり礼をする。

ジルベスターの後ろから、アンゼルムもやってきた。


「セシリア、楽しんでいるかい?」


「はい。」


セシリアのそばにやってきたジルベスターはセシリアの髪にキスを落とした。ローザが顔を赤くしたが、エルフリーデをはじめとしたメンバーはもはや何を見ても心を無にすることができる。


「ローザ、そろそろお暇しましょう。」


「はい。」


アンゼルムが大切そうにローザを立たせた。


「両陛下、御前失礼いたいます。」


アンゼルムとローザは寄り添い合うようにして退出していった。2人と入れ替わるようにして、フロレンツがやってくる。


「国王陛下、イェルク殿が探しておりましたよ。」


フロレンツの言葉にジルベスターの顔が歪む。


「愛しい妻との休憩時間だ。」


セシリアとエルフリーデは顔を見合わせる。


「では、わたくしたちもお暇致しますわ。」


エルフリーデが立ち上がった。


「そうでした、ツェツィーリア様。わたくしのお腹にも天使がやってきましたの。お腹の子は、いずれ未来の両陛下のお子様をお支えするでしょう。」


それだけ言うと、驚くセシリアをよそにエルフリーデはフロレンツと退出していった。


「わたくし、全然気が付きませんでしたわ。」


「まだ見てわかるほどではないようだな。」


考えてみれば、エルフリーデたちも結婚してしばらくたつ。子ができてもおかしくない。

それでも友人たちと距離ができた気がして、セシリアはまだなにもいない自分の腹部に触れた。


「セシリア?」


「わたくしたちにもそろそろ子ができてもいい頃ですのに…」


「授かり物だからな。子どもを欲しいかい?」


ジルベスターがそっとセシリアの腰を抱いた。


「そうですね。」


「なら、これからの最優先事項は子作りだな。」


「えっ、陛下?まだ仕事が…」


ジルベスターはセシリアを遮るようにその唇にキスをすると、そのまま彼女を連れてサロンを出た。

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