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隣国からの使者

ローザを手に入れようとした隣国の公爵は捕虜として捕らえたが、元々は王弟だったため、リンダブルグで勝手に処罰できないとして、隣国に送り返した。隣国ではリンダブルグに単独で戦を仕掛けようとしたとして速やかに処刑され、まずは正式な謝罪が届いた。その後、2国間で正式に書類を交わし、賠償を支払うことで合意した。

リンダブルグは一方的に戦を仕掛けられた側なので妥当だろう。隣国から使者が来て、リンダブルグで調印、一月滞在した後帰ることになった。


そして、捕虜たちを送り返してからひと月もしないうちに使者がやってきた。









謁見の間で王太后とジルベスター、そして次期王妃としてセシリアも同席した。

セシリアは決定事項とはいえ、まだ婚約者の段階のため、玉座のジルベスターの後ろに控えていた。衛兵から声がかかり、隣国の使者が入場してくる。使者の先頭はまだ10歳ほどの少女だった。その後ろに派手なドレスの若い女性、数人の男性と続く。どちらかというと隣国の謝罪の為のメンバーにしてはいささか不自然だ。まず、先頭を歩いているということは、少女の身分が一番高く、その後ろの女性は侍女にしては派手だし、露出も多い。豊満な胸を強調するかのようなドレスは和平の場にはあまりふさわしくない。


一行は定位置に着くと、頭を下げた。


「はるばるご苦労。面をあげよ。」


王太后が声をかける。


「お、お初にお目にかかります。イヴレア国第5王女、マリアンナでございます。」


震えそうな声だが、比較的しっかりとこちらにも届いた。顔は紙のように真っ白だった。きっと、初めての外交なのだろう。しかし、使者としてもいくらなんでも若すぎる。何か思惑があるのか。セシリアの頭が回転をはじめる。その間にもマリアンナ王女は書簡をイェルクに渡し、イェルクがそれをジルベスターに渡して彼が目を通す。一瞬ジルベスターの顔が歪んだが、すぐに元の通り柔らかな笑みを浮かべた。


「この書状は一旦お預かりを致します。長旅でお疲れでしょう。部屋を用意させましたので、お休みください。」


そういうと、使者たちは頭を下げた。





謁見の間をでると、ジルベスターは王太后とセシリアに執務室に来るように告げた。イェルクとマルク、外務大臣と宰相も一緒だ。

執務室の机に座り、セシリアと王太后をソファに座らせると、書状を見せた。

そこにはなんと、マリアンナ王女を和平の印としてジルベスターに嫁がせたいとの旨が書いてあった。


「やられましたな。」


外務大臣が口を開いた。おそらくここにいる全員が同じことを思っている。


「打診の段階なら止められましたが、先に使者として送られてくるとは…。これではすぐにあちらに送り返せばあちらにつけ込む隙を与えてしまう。」


「公爵の失態にかこつけてリンダブルグに自国の姫を嫁がせようとするとはあちらの王はこの国を取り込みたいらしいな。外戚として内政に干渉する気か。」


ジルベスターは先ほどとは打って変わりむすりとしながら言った。


「それにしてもいくらなんでも10歳の姫を嫁がせるなどあまりにも非道…。」


王太后の言葉に他の男たちも頷いた。


「いえ、おそらくあの後ろにいた女性です。」


セシリアが口を挟んだ。一斉に視線が彼女に向く。


「どういうことだ?」


ジルベスターに促されて、セシリアが話し出す。


「憶測の域はでませんがご了承ください。おそらく王女の後ろにいた女性は隣国の身分の高い方でしょう。彼女は国でこう言われたと思います。『次期国王に取り入り、妃となれ。子を産まずとも、王女が年頃になるまでのつなぎでもよい。』と。」


ぐるりと全員の顔を見回しながら言うと、王太后がため息をついた。


「我が国は王族の一夫多妻を認めていますし、わたくしの夫は側室を多く持っていた。ジルベスターも色を好むと思われているのやもしれませんね。」


「まず重要な隣国への使者に王女ともう1人、侍女にはみえない女性を据えるということに違和感があります。また、あまりにもドレスが場違いでした。顔を上げてからはずっとジルベスター殿下を見ていたように思います。」


「なるほど。そこまでご覧になっていたとは…」


「そうなると、1ヶ月の間にジルベスター殿下に接触してくるかもしれませんな。」


「もちろん、和平のためにマリアンナ王女やあの女性を王妃に据えるという手段もあります。」


「だめだ!!」


セシリアの言葉に即座にジルベスターは否定を返した。


「私はセシリア以外娶る気はない!」


「とはいえ、あちらは王女ですし、使者です。和平の証としての結婚は最上級の手段ですわ。」


「いやだ!」


埒が明かないことを悟ったセシリアは他のメンバーに話を向けることにした。


「リンダブルグの総意としていかがいたしましょう?」


「わたくしはこのままツェツィーリアには正妃としてジルベスターと共に立ってもらいたいわ。」


王太后がジルベスターに味方した。


「私も同じ意見です。やっとまとまりかけた国内が、マリアンナ王女とツェツィーリア様で割れては今度こそ国が危ない。」


宰相も同意した。


「しかし、すでに王女が国内にいる以上、隣国は輿入れを済ませたと主張するでしょう。」


「王女はともかく、もう1人は1ヶ月で国に戻す!絶対に妃はセシリアだけだ!王女は実際にどう考えているのか探ってから、国に返すか、留学という名目で学園に入れる!」


とりあえず様子を見る、というところでその会議は終わった。

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