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誰にでもできる簡単なお仕事1

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セシリアは仕事がひと段落したある日の午後、執務室に文官を呼び出した。


「失礼します。」


「どうぞ。」


彼にソファを勧め、自分が本棚に背を向けるよう、対面に座ると、侍女から飲み物を給仕された。侍女に人払いをさせ、2人になるとおもむろに話し出す。


「忙しいのに呼び出してごめんなさいね。時間がなさそうなので単刀直入に聞くわ。あなた、前国王陛下の御子息ね?」


声こそ出さなかったが、彼の体が大きく震え、それが真実であることを示していた。


「つまりあなたはジルベスター殿下の異母兄。」


彼の体はカタカタと小さく震え続けている。


「わたくし、色々と知っているの。あなたがお困りのこととか。」


なおも話し続けるセシリアのその言葉に、弾かれたように彼の顔が上がった。


「どこまで…」


彼がぽつりと震える声を絞り出した。


「おそらく大部分はわかっているわ。」


そこで彼ーーマルクは叱られた幼児(おさなご)のように頼りない表情になった。


「どうして…」


「わたくし、たくさんお友達がおりますのよ。」


「あの噂は本当でしたか…あなたの輿入れとともに、リンダブルグはオーラリアの間者を受け入れたと…」


「オーラリアの間者ではないわ。わたくしの影。ですから、あなたのことも色々存じておりますわよ。わたくしの影たちは優秀なの。でも、あなたの口から聞きたいわ。」


マルクはふ、と小さく笑みのようなものを浮かべると、疲れた声でいった。


「全てご存知ならば、私のようなものとここにいていいのですか?」


セシリアは華やかな笑みを返す。


「2人きりじゃないわ。」


そのとき、どこからともなく木を叩くような音がした。


「ね?もし何か悪い気を起こしても無駄ですわ。それに」


セシリアは立ち上がり本棚に近づくと、本棚にかかった鏡をコンコンと叩いた。そして扉を指差す。数秒するとセシリアの執務室にジルベスターが入ってきた。マルクは驚きのあまり目を丸くしている。


「知っていたのか…」


「ええ。そのお話はまた後で。ところで、マルクから大切なお話がありますの。聞いてくださいますか?」


セシリアがジルベスターにそういうと、ジルベスターに執務室の椅子を勧めた。影もいるし、ドアの外には兵も侍女もいる。マルクも影たちの調査によるとセシリアたちに危害を加える可能性は低いとはいえ、念のため、ジルベスターには少し離れてもらう。


「ジルベスター殿下にはまだお話ししておりませんでしたが、マルクは前国王陛下の御子息です。」


ジルベスターはひくりと片眉を器用に跳ね上げたが、特に何も言わなかった。


「続きはマルクが自分で話したほうがいいでしょう。」


マルクはちらりとセシリアを見たが、小さく息を吐くと、観念したかのように話し出した。


「私はバーデン侯爵夫妻の三男ということになっていますが、実の母親は侯爵の実妹です。結婚前に行儀見習いとして城に上がり、そこで陛下のお手つきになったそうです。ですが当時、叔母にはすでに婚約者がおりました。妊娠に気づいたときにはもう堕ろせる時期は過ぎており、叔母は体を壊したことにして婚約を解消。母と共に別荘に篭もり、私を産んだ後はそのまま出家しシスターとして生涯を神に仕えて終えました。

知っているのは現バーデン侯爵夫妻のみで、兄弟も知りません。取り上げた産婆には叔母を侯爵夫人だと偽ったそうです。」


「それがここ最近になってバレたのですね。」


「ええ。どうやら状況証拠を積み上げて私にたどり着いたようです。」


「わたくしもそうでした。直接的な証拠は何もありませんでした。」


「私の戸籍上の両親はそのまま2人の子として私を分け隔てなく育ててくれました。しかし、叔母がいよいよ天に召されそうになったとき、せめて息子としてお別れをと教えられました。その危険性と共に。」


「当代のバーデン侯爵夫妻が王家から距離を取ったのはそれが原因か…。」


「ええ。仮にあなたの学友や側近に選ばれてしまうと、どこからバレるかわからなかったからです。幸い顔立ちは叔母に似ているため、バーデン侯爵夫妻の息子として違和感はないのですが、この濃い髪の色だけはどうにも…父方の数代前の祖先に黒い髪がいたためごまかせはしますが…」


「父上は本当にっ…」


ジルベスターは腹立たしげに後の言葉を飲み込んだ。


「それで、マルクは王位や王兄の地位が欲しいと考えてますの?」


空気を一刀両断するかのようにセシリアが尋ねた。


「…ツェツィーリア様は本当に容赦がない…。私にはそんな意思はありません。私はこのままバーデン侯爵夫妻の三男でありたいのです。血を残すことは考えておりませんでした。」


「ではなぜヴェルザー侯爵家の話に協力を?」


「ヴェルザー侯爵家?」


ジルベスターが聞き返すのと同時に、またマルクの体が大きく震えた。ヴェルザー侯爵家は男爵家出身の元側室が養子に入り、彼女の後ろ盾となった家だった。


「っい、言えません!王家を謀った罰は如何様(いかよう)にも私がお受けします!ですが、バーデン侯爵家には何の責任もありません!ヴェルザー侯爵家と私は何の関係もありません!!」


突然テーブルに額を擦り付けて懇願する。声が震え、必死に言葉を絞り出す。


「私の存在自体が間違いだったのです。どうか、どうか私に極刑を!」


「ジルベスター殿下。」


「なんだ?」


「少しわたくしの好きにさせていただいても?」


「…危険でなければ。」


「ありがとうございます。」


セシリアはジルベスターにとっておきの笑顔を向けた。


「ねえマルク。それはバーデン侯爵夫妻とあなたの妹君の姿が見えないことに関係があるのかしら。」


マルクが驚愕に目を開き、セシリアを凝視する。


「最初に言ったでしょう?お困りのこともわかると。人質にとられているのでしょう?」

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