悪い子には
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ちょっと今、新しい話が舞い降りてきたので、近々アップしたいと思います。
朝食の後、2人はジルベスターの執務室に向かった。そこには王太后が既におり、ソファでお茶を飲んでいた。
「ツェツィーリア、身体は大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます。特に乱暴なことはされなかったので、どこにも怪我はありません。」
そう答えると、ジルベスターにギュ、と手を握られた。ジルベスターはセシリアから離れず、恥ずかしいから抱き上げないでほしいとお願いしたら、手を繋ぐことで妥協した。
そこでイェルクや宰相、マルク、法務大臣、騎士団長が入ってきた。
アンゼルムはローザと共に今日は公爵邸にいるそうだ。ローザは極度の緊張から発熱してしまったらしい。
「さて。辛いでしょうが、貴方の話を聴かせてちょうだい。ここでは遠慮しないで。他の者も、忌憚のない意見を出してちょうだい。」
そう促されて、ジルベスターと共に王太后の向かいのソファに座り、自分の体験を話した。
「イェーガーをどこかの貴族が旗印にしようとしたということか?」
「おそらく。それと、わたくしを手に入れれば王位に就けるというようなことも。ローザ様は手土産とするとも言っておりました。」
「あの子はどこまで…どうしてあんな風になってしまったのかしら…」
王太后はため息が止まらないようだ。
「少なくともイェーガー元王太子の脱走を手助けした勢力があるということですな。ロンダリア伯爵自身は只今取り調べ中ですが、伯爵の弟が先日から行方不明ということです。」
これは宰相だ。ここ数日で生え際が後退したような気がしてならない。
「イェーガー元王太子殿下はなんと?」
「はっ。指の骨が折れてるようで、軽く治療をしましたが、丁寧に扱えと仰ってまだ事情聴取はできておりません。ですが、ロンダリア伯爵家の周りから調べるよう指示を出してあります。」
「では元王太子殿下の元へは、後ほど私が参りましょう。」
宰相が騎士団長を連れていくことになった。
「さて。イェーガーはどうしましょうね。ジルベスター。」
「セシリアは現段階で隣国の公爵令嬢です。しかもこちらから打診して輿入れしていますので、もしセシリアに何かあれば最悪隣国との戦争です。王籍離脱の上国家反逆罪で処刑が妥当かと。」
「王籍離脱ですか…」
やはり王太后はたった1人の孫が処刑されることに抵抗を覚えるのだろう。
「殿下、この国内不安のある中で、元王族の処刑ともなるとますます民が動揺するでしょう。」
マルクがここではじめて口を挟んだ。
「ただでさえ王族が少ない中、これ以上王族が減ることに危機感を覚える貴族も多いかと。特に末端であれば全てを知るわけではありません。それ故に当初王籍はそのままで幽閉処置になったのですから。」
「幸い、ツェツィーリア様の影がいたため、ツェツィーリア様とローザ様が誘拐された件についてはさほど広まっておりません。奪還までの時間がかからなかったのもあるでしょう。クラヴェハーフェンの件の方に皆の関心は向いております。元側室と同じ病になるか…」
「『王家の誇り』か…」
「それは?」
セシリアがジルベスターに聴く。
「王族が責任を取って賜る毒杯だ。苦しむことなくすぐに逝ける。」
「せめて処刑ではなく、『王家の誇り』で…」
そう言うと王太后は何かを耐えるように目を閉じた。
「どちらにせよ、イェーガー元王太子を掲げる一派について解明できなければすぐにはどうにもできません。幽閉とはいえ、イェーガー元王太子を逃すとなるとそれなりの規模なのでしょう。」
「マルクは内々に処理するのが望ましいと?」
「法務大臣の意見は?」
「私もマルク殿と同意見です。先の元王太子殿下の件で主要な5つの家の縁者が処罰されました。あまりことを大きくすれば、王家への不信感に繋がります。内々に『王家の誇り』を賜ることがよろしいかと。対外的には、幽閉中の病死ということで。」
「わかった。では、全容が解明でき次第執行する。母上もよろしいですか?」
「ええ。後は任せます。」
「セシリアは?」
「殿下のお心のままに。」
元王太子の処遇が決まると王太后は退出し、議題は先日の海難事故に移った。セシリアも邪魔にならないようにと退出しようとしたが、ジルベスターが手を離さない。
「セシリアはここだ。」
そう言って腰を抱き寄せる始末だ。
イェルクにまでジルベスターのそばにいて欲しい、と言われてしまい。なんとか彼の執務室で過ごすので、手を離して欲しいと頼んだがかなり渋っていた。最終的にはセシリアの机と椅子をジルベスターの執務室に持ち込んで、セシリアも作業をするということでジルベスターも納得した。




