スタート地点からちょっと後ろ
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なぜか国王の執務室にセシリアの机が置かれるようになって数日。他国の大使との謁見が入り、抵抗するジルベスターはイェルクに連れていかれた。
久しぶりの1人の空間にホッと息を吐く。別に何をされたわけではないのだが、ジルベスターだけでなく、侍女や騎士たちまで過保護になってしまった。今も執務室の外や窓の外には多くの騎士や侍女が控えている。
ーコンコンコン
「どうぞ」
入室を許可すると、アンゼルムが入ってきた。
「私的なことで申し訳ありませんが、ローザがどうしてもセシリア様に手紙をお渡ししたいと申しまして。」
そう言って、美しい封筒を差し出した。
「ありがとう。ローザ様のお加減はいかが?」
「発熱はありましたが、すぐに治まり今は普通に生活をしております。延期になったツェツィーリア様のお披露目の夜会に出席したいと、杖で歩く練習を始めました。」
「そうでしたか。お元気になられてよかった。」
「それと、こちらは先日お貸しいただいたハンカチがお返しできないので、新しいものをと預かってまいりました。」
「まあ!素敵なハンカチです。ローザ様にお礼をお伝えいただけますか?」
「はい。ぜひツェツィーリア様と文通をしたいと…」
「ええ!もちろんですわ!わたくしがお返事を書いたらアンゼルムが届けてくださる?」
「…お任せください。」
アンゼルムの反応が良くない。というか、何だか拗ねているような感情が見え隠れしている。
「こちらはお借りした髪飾りです。」
「まあ、磨いていただきましたのね?ありがとう。」
「申し訳ありませんが、ローザが同じものを欲しがりましたので、磨くがてら少し構造を見させていただきました。デザインは私が選んだものにさせます。」
(なるほど。妻の関心が自分以外に向くのが面白くないわけね)
そうとわかれば、何だかアンゼルムが可愛く見えてしまう。拗ねるにしても、ローザの希望を叶えるあたりが、彼の葛藤なのだろう。
「そうですか。痺れ薬は少し濃度を上げておくといいですよ。後ほどお返事を書きますので、ローザ様に渡してくださる?」
「かしこまりました。」
頭を下げ、アンゼルムは退出していった。セシリアはローザからの手紙を読み始めた。
そこには丁寧な文体で、感謝とぜひこれからも仲良くしてほしいとのことが書いてあった。セシリアに会いに来るために杖で歩く練習を始めており、セシリアのお披露目の夜会を当面の目標にしていること、猿ぐつわにしていたハンカチを持つと勇気が持てるので、そのまま譲って欲しいと書いてあった。
律儀で真面目なローザの人柄の出ている手紙だった。貴族同士としてだけでなく、きっと友人としてもいい付き合いができそうだと思う。
嬉しくなってもう一度手紙を読むと、丁寧に封筒にしまった。
ーコンコンコン
「どうぞ」
すると今度は、マルクが入ってきた。
「ツェツィーリア様、先日おっしゃっていた、国内の公衆衛生に関する資料です。よろしければご覧ください。」
「覚えていてくださったのですね!ありがとう。」
資料を受け取る時に微笑むと、ほんのりマルクの頰が赤くなった。
ジルベスターよりいくつか年上らしいが、頬を染める姿はもっと若く見える。
「…それと、こちらは国内にある孤児院の資料です。この部分が、先日被害を受けた領地内の孤児院のものです。」
「ありがとう。」
「これらの資料をどうなさるので?」
「先日の高潮と港の火災では甚大な被害が出ていると聞きました。最優先すべき人命救助などは行われていますが、そうではない部分まで手が回らないのが現状でしょう。特に高潮はその後の塩害が顕著です。
その被害を受けるのは一見無傷に見える部分なのですよ。わたくしには人を動かす権限はありませんが、手が回らないであろう部分の草案を作っておいて、のちのち殿下に見ていただこうかと。」
「そうでしたか。では私にもお手伝いさせてください。」
「でも、マルク様はご自分のお仕事が忙しいのでは…」
「もちろん自分の仕事はきちんとやりますが、1人より2人の方が、この国で生まれ育った私の方がわかることもあるやもしれません。ずっとというわけにはまいりませんが、ぜひお手伝いさせてください。」
「それではお言葉に甘えます。ありがとう。」
心強い仲間ができたことに安心した。
セシリアは自分の考えをマルクに話した。マルクは聴きながら、的確に質問をしてくる。また、セシリアがわからない国の文化や細かい事情も話してくれた。
「マルク様はずいぶんお詳しいのですね。」
「伯母が熱心でして。孤児院でシスターをしながら色々とやっていたのです。」
たしかマルクは侯爵家の出だったはず。伯母君がシスターをしていたということは、結婚せずにそのまま教会に入ったのかもしれない。
「伯母は若い頃この城で行儀見習いをしていて、そのままシスターになったという、少し変わった人でした。」
「そうでしたか。」
「もうずいぶん前に亡くなりましたけどね。伯母がいた孤児院は今私が引き継いでいるんです。」
「それは残念でした。お会いしたかったですわ。」
「セシリア!!」
ノックと同時にジルベスターが飛び込んできた。あっという間に抱きしめられる。
「殿下どうされました?」
「離れている間にセシリアがまた誘拐されるのではないかと気が気ではなかった!」
「あらまぁ…流石にこれだけ周りに騎士達がいたらなかなか難しいと思いますわ。」
「殿下、ツェツィーリア様が折れてしまいます。」
「ジルベスター殿下、ちょっと苦しいです。」
マルクとセシリアに言われ、渋々腕の力を緩めた。ちなみにあれから、夜も一緒にとジルベスターは主張したが、イェルクと王太后に説得され、規定の期間内は夜の警備を増やすことでなんとか抑えた。
(今のところ大事にしていただいているみたい。)




