第四話
「言いたいなら聞くけど」
支度が終わり、自室にて彼女と向かい合わせで座り込む。
騙していた後ろめたさから洗いざらい吐くつもりで臨んだのに、
彼女の発言はただそれだけ。言い訳でも沈黙でもかまわない、そう取れる。
そしてその解釈ならばと僕は語らなかった。
「……というか」
ぺたぺた、と彼女の手が胸へ何度も触れる。
それが止んだなら次は凝視、じっくりまじまじと。
裸を見られておいてなんだけれど、だんだん居たたまれなくなってくる。
「よくその体で男になろうと思ったわね……」
「……ローブならこの貧弱な体格も誤魔化せるので」
「そうじゃない!これよこれ!!」
そう彼女が指した場所にはあの後、再度魔法をかけ直した布を巻き付けてある。
布へ付与した魔法は拘束。それを応用したものだ。
限界まで締め付けられる為、大変息苦しいが完全に潰せる。
今のように大きめのローブを纏えば、そうそう見破られる事はないだろう。
それこそ、さっきのように裸を見られでもしない限りは。
「……やっぱり僕の体は変ですか」
「変っていうか……」
視線をあらぬ方向へと流したツェリさん。
僕の胸をまた見つめながら何か呟いている。
聞こえないが歯に衣着せぬ彼女が言い淀むのだ……大体の想像は付く。
じわじわ滲んでいく視界。ツェリさんでこの反応なら、彼は。
「そうですよね。自分でも……気持ち、悪い、ですし」
「いや、そのね、リヒト」
「こ、んな、体……ジナムさんだって、嫌に、決ま……って」
尻すぼみに、涙声になっていく。それ以上は言えなかった。
突如ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた僕に、
ツェリさんは慌てつつも、背を撫で宥めてくれる。
その優しい慰めに感極まった僕は彼女に泣きついてしまったのだった。
◆◆◆◆◆◆
「……ごめんなさい、ツェリさん」
そう頭を下げてきたリヒトは心底申し訳なさそうな顔をしていた。
今でこそ落ち着いているが、さっきまで号泣していた彼女。
おかげでまだ目元は赤く瞳も潤んでいる。
その姿は女の私でもドキッとするような色気を孕んでいたが、それ以上に憐憫が湧いた。
あの取り乱しようを見るに、
ジナムはおろか、誰にも打ち明けられずにいたんだろう。
一人で抱えるには重すぎる秘密を、ずっとずっと。
「……あの、この事は」
「頼まれなくても言わない……ただ、無かった事にもしない。
私が知ってる事を忘れないで」
話を聞くことぐらいしかできないが、一人でため込むよりかはマシ。
その考えから出した提案だが、言い切った後に脅しにも取れるなと若干後悔する。
でも素直じゃない私にはそれが精一杯だった。
ある意味私よりも辛い恋をしている彼女を応援したくなった。
昔と比べ、随分私も変わったみたい。
おそらくおっさんのおせっかいが移ったんだろう。
「……ありがとうございます、ツェリさん」
ちゃんと私の意思は伝わったらしい。
リヒトはふんわりと微笑んだ。
それにしても驚いた、リヒトが女の子というのもあるが。
……本当になんで三年間あれ隠し通せたのか。
リヒトは本気で悩んでいるようだし、自分のプライド的にも悲しくなるから、
ついつい濁したけれど、先程はついうっかり羨ましいと呟いてしまった。
だってアレどうみてもゲイルが好きそうな。
「あのツェリさん」
「ひゃいっ?!」
「……ど、どうかしましたか?」
「な、何でも無い!リヒトこそどうしたの?」
口が裂けても言えないことを考えていた後ろめたさから、
彼女の呼び声に過剰反応してしまった。大急ぎで取り繕う。
首を傾げてるけど、とりあえずは誤魔化せたようだ。危ない危ない。
「その、こんな時間に引き止めてしまって……ごめんなさい」
「別に良いわよ、徹夜には慣れてるし。
でもいいかげん部屋に戻るわ」
「はい、また明日」
また明日ね、と一言加えて部屋を出た。