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第三十話(完)

遠方からの依頼を受け、

夜、僕とジナムさんは二つ離れた町の宿へ泊まっていた。


「……何かあったのか?」


明日の馬車の件で話し合っていたのだが、

それを終えた時、彼は表情が、と。

自分でも知らないうちに機嫌良くなっていたのかもしれない。


「ギルドを出る前にツェリさんと話していた時にわかったんですが」

「ああ」

「家族が増えたんです」


実は、と語ろうとした所で彼の様子がおかしい事に気付く。

口元を手で覆い、眉間に皺を寄せるその姿は不穏だ。

何か考え込んでいるらしい、難しい顔のまま独り言を呟いている。

漏れてきた言葉は、コウノトリだとか、キャベツ畑だとか。

一瞬その意味を考えて……赤面した。


「ご、ごめんなさい!

 違うんです!!実はツェリさんが……」


慌てふためきながら急いで訂正する。どうにか誤解は晴らす事ができた。

ツェリさんの下りを先に出したのは間違いだろう。

医者役もしている彼女を相手に知ったというのは何とも紛らわしい。

にしてもとんでもない勘違いだ。僕らはまだそんな。

間違えた事が恥ずかしかったのか、それとも同じ事を考えてしまったのか、

ジナムさんも赤くなって気まずげにしていた。


「そうなったら……それはそれで嬉しいですけど」

「……お前は変な所で大胆だな」

「えっ、あっ、も……もしかして口に出てました?」


おずおず尋ねた僕にジナムさんは「反応に困る」の一言。

実際、彼は目が泳いでいる。そんな彼は僕を見ない、僕も彼が見れない。

照れから顔を隠す。きっと耳まで赤いけど。完全に気が緩んでた。

結婚式を前に僕はかなり浮かれているようだ。


「……話は変わるんだが」

「な、何でしょうか?」

「今度、俺の故郷に行かないか」


若干狼狽しつつ受け答えれば、頂いたのは帰郷の提案。

半分はマスターに渡したが、協会からの賞金のおかげで金銭的には問題無い。

この依頼が終われば休みがもらえる。断る理由は無かった。

それにぜひジナムさんの家族にご挨拶したい、とその申し出を喜んで受ける。


「お前を家族に紹介するのもあるんだが」


本物を見せたい。呟いてジナムさんは僕のブローチを指差す。

そういえば、この鳥は彼の故郷にしかいないと言っていた。

昔から憧れてきた存在である、ぜひこの目に焼き付けておきたい。


「その羽は実の所ゲイルからのもらい物でな。

 これの代わりと言っては何だが」

「ゲイルさんからですか?」

「……どうも訛で故郷がばれていたらしい。

 よくわからんが『夢を見せてくれた礼』だと」


ツェリさんが私に自分を重ねていたように、

ゲイルさんもジナムさんに被せていたんだろう。

となると……二人が望んだ未来は一緒だったのでは。

本人達は自覚がないだけで、本当にお互いの恋情には鈍感だなあ……。

これからは両思いになれるよう協力しようと密かに心に決めた。


「ジナムさんは比翼の鳥、見た事ありますか?」

「……子供の頃に一度だけな。

 姉に森へ放り出され迷っていた時に見た。

 まだ若い鳥なのか片割れだったが……今でもあの感動は忘れられん」


二重の意味で忘れられないだろうなあと思いながら夢見る。

宝玉が空を舞っているようだった、彼がそう呟く。

その光景を想像して心が弾んだ。ただ、と少し沈んだ声で彼が切り出す。


「滅多に人前へ現れないと聞く。

 探すには骨が折れるだろう、それでもかまわないか」

「ジナムさんとならどこへでも」

「そうか」


彼が目を細める。滅多に無い表情に心拍が早まった。

ドキドキと胸を高鳴らせる僕とは対照的に、

ジナムさんは表情を曇らせる。どうしたんだろうか。


「……俺はお前に無理させていないか」

「何がですか?」

「お前相手だと俺は強引に事を進めてばかりだろう。

 俺は聡くない、女心もわからん。だから気になった」

「大丈夫です、むしろ助けられてますよ?

 僕はどうしても保守的になりがちなので」


過去に囚われていた僕を未来へ引きずり上げてくれたのは誰でもない、彼とツェリさんだ。

もし彼らに出会っていなければ僕は立ち止まったまま動けなくなっていただろう。

だから彼の押しの強さが僕には好ましかった。

そう考えてふと最近抱いていた疑問を思い出す。


「あの、ジナムさんは……やっぱり僕が男装していた方がいいですか?」

「……なんだ急に」

「いや、その……男装止めてから、何だかジナムさん遠慮がちだなと思って……」


ぴたと彼が動きを止めたのがわかった。僕の思い違いじゃなかったらしい。

男物のローブと口調は相変わらず。

だけど、カミングアウトしてから僕は布を使わなくなった。

前々から窮屈さが好きじゃなくて、もう隠す必要が無いと思ったから。


「苦手なら僕戻します」


以来、ジナムさんは僕をあまり直視しなくなった。

かなりの頻度で視線があらぬ方向に。今もそうである。

あと以前は抱きしめられる事も少なくなかった。

でも今や手を握られる事すら無い。原因があるとしたらやっぱり僕の体だろう。

ただでさえ自分も好きじゃないのだ。彼が嫌なら尚更戻すべきだろう。


「………………ちがう」


いつもはきはきと物を言う彼とは思えない位の小声だった。

そんな狼狽してまで誤魔化してくれなくてもいいのに。

気遣ってくれるのは嬉しいけれど、僕はジナムさんに不快感を与えたくない。


「こんなだらしのない体じゃ嫌われても」

「逆だ逆!!」

「ふぁっ?!」


ぐいっと腰を引き寄せられる。うっかり変な声が出た。

彼の胸板にぴったりくっついた耳からは凄い勢いで打つ心音。

久しぶりのそれは刺激が強い。埋めた顔が熱をもっていく。

逆、ってどういう意味なんだろう。冷静さのかけた頭で考えても答えは出そうもない。


「……今のお前の姿に翻弄される自分に嫌気が差した」

「や、やっぱり僕の体は気持ち悪いですか」

「は?いや、だから反対だと……」


未だ平静ではないけれど、彼からの抱擁に起きた熱は急激に下がった。

納得が行く。ジナムさんも嫌なんだ、この体。

そのせいで最近よそよそしかったのか、今だって相当我慢してるんだろう。

うっとうしく思われると思いながらも一回吐いた弱音は止まらなかった。


「全体的にしまりがなくて、特に二の腕とかお腹とか……。

 しかもこの姿にしてから人によく睨まれてますし」


きっかけがあるとしたら、やはり男装を止めたことだろう。

歩いていると視線を感じる事が増えた。特に男の人が多いと思う。

自意識過剰だとそう言い聞かせていたけれど何処へ行っても凄い見られている。

ジナムさんと一緒に居る時は少しマシだけれど。


「それって僕の体が変だから」

「……魅力的だ、男から見て今のお前は。

 そして俺も他の雄と同じだ、女のお前にも引きつけられる」

「えっ?」

「だがお前の女の部分に意識しすぎる、その事が嫌だった。

 触るのも見るのもお前の女らしさを感じ取ってしまうから避けていた。

 まるでお前が女だったから惹かれたみたいだろう。

 俺はお前だから好きになった、その事実が覆されそうで」


さっきから僕の体は忙しい、熱を上げたり冷ましたり、今みたいに再び熱くなったり。

魅力的。ジナムさんが僕に対してそう言った。

姉と同じ性別である、それを嫌と言う程示す自分の体に僕は幻滅していたのに。

最終的に姉よりも女を強調する肉付きになっていて、余計に腹立たしかった。

でもジナムさんは否定しないで。なら、こう伝えればいいんだ。


「……ジナムさんはもし僕が男装に戻ったら嫌いになりますか?」

「なるわけ無いだろう」

「じゃあ同じです、ジナムさんの想いと」


背中に手を回したいけれど、腕ごと抱きしめられてるからそれは叶わない。

だから体をすり寄せる。びくっと一瞬彼の体が跳ねて、腕に力が籠もった。

本当はずっとこうしたかった。自分からも身を近づけたかった。

でも女である事を隠していたからできなくて。けど今なら大丈夫。

彼の話を聞く限り、女である事が嫌なのではなく、好ましく思ってこそのようだから。


「僕の想いがあるならどんな僕でもいいと言ってくれたのと一緒です。

 ジナムさんが想ってくれるなら、女の僕の方が好きでもいいです」

「……嫌じゃないのか」

「むしろ嬉しいです。この体を好きになってくれて。

 僕自身凄く嫌で、ジナムさんにも拒絶されるものだと思ってたから。

 でも好きなら、いっぱい見てほしいです、もっと触ってほしいです。

 この体に生まれて良かったと思えるくらい、その後もずっと」


生まれてきた事を希望に変えてもらった上で更に願うなんて贅沢かもしれないけれど。

まだまだ僕は女の自分を受け入れようとしない、できない。

深く根付いたこの劣等感を昇華できるのはきっとジナムさんだけだから。


「ジナムさんの手で僕を女にしてほしいです」

「……………………その言い方は止めろ、誤解する」


長い沈黙の末、出された忠告。重苦しい声だった。

意味を分かりかねて聞き返そうとする僕を彼は更に抱き込む。

そのぬくもりに疑問は溶ける。今はただ彼の腕にふやけていたい。

しっくり馴染む彼の体。ずっとこうしていたい。

僕らが比翼だというのなら、本物のように。


「このままジナムさんと一つになりたいです」

「だから止めろと言っとるだろうが!」

「んむっ」


身を離された次の瞬間、唇を噛みつかれる。それは口付けというには荒々しかった。

でも異議は無い。少し驚いただけ。だから彼の背中に手を回す。

殆ど無意識だった、そうするべきだと自然に腕が動いて。

また彼が制止した理由を理解できなかった。

けれど気にする事なく、僕は彼の情熱に酔いしれ瞼を閉じた。

この後、甘い雰囲気に突然ジナムの土下座が!

第四弾は前に言っていた女嫌い剣士×男装魔術師。

後日談含め、長々とお付き合いありがとうございました。

両思い設定だけあって堂々といちゃつかせられるのが楽しかったです。


当初はジナムがラッキースケベ連発していやーんジナムさんのエッチ!な話か、

リヒトが片思い状態、ジナムが女の姿のリヒトをリヒトって気付かず一目惚れしちゃって、

それをリヒトは双子の妹設定で演じて罪悪感と恋愛感情でうわー!となる話でした。

もっとアホな話で、少なくともリヒト過去が出る予定は無かったです。


あと完璧な余談ですが、作者はリヒトみたく過去や境遇からウジウジ悩む子には、

「うっせー良いから嫁に来い!!!」タイプと結婚させたい病気です。

男女逆でも大好きです、重症です、流行れよ!!以下恒例のキャラ紹介。



リヒト

異界の王女様、他のメンバーに負けず劣らずトラウマ過去持ち。

生まれた時から受けてきた扱いのせいで根暗で悲観思考かつ自虐的、

だがジナム達に救われた事をきっかけに改善されていく。でもファザコンは治らない。

自己評価の低さから己の性的魅力に全く気付いてないので女としての警戒心が緩すぎる。

ふわふわもちもち、女でも二度見するたゆんたゆん、何がとは言わない。ツェリおい涙拭けよ。


ジナム・ズイ

普段は寡黙で無愛想だが実は激情家。押しが強いが、押されると弱いムッツリ。

嫁が無自覚誘い受けすぎて毎日幸せ辛い。我慢強い分突然暴走するタイプ。で、どっぷり反省。

酷い女性恐怖症だがツェリに対しては態度を改め、最終的にいい相談相手になる。

おかげで嫉妬したゲイルから「やーいやーいジナムのドスケベおっぱい星人ー」とからかわれ、

「巨乳が好きで何が悪い!!」とキレた所をリヒトに見られて悶絶する程度には不憫。

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