第二十一話
「グルゥアアアアアアアア!!」
森の中心へと歩いて行き、開けた部分に出る。
近いなと感じ取ったその時だった。
突如現れた蔦の化け物。僕はあらかじめ用意していた魔石を投げつける。
手から離れていったのは二石。一つは化け物に命中し、もう一つはその後ろへ。
前者は僕の望み通り爆発を起こし、後者は地へ落とされた。
「……あら、気付いてたの」
僕より少し高い、僕の一番嫌いな女の声。
さっきの化け物はこの森にいる魔獣じゃない。
この女が操っていた魔法生物だ。
構える僕に女は何が楽しいのかクスクス笑っている。
その姿を見るだけで腸が煮えくりかえる。だが怒りで冷静さを欠く訳にはいかない。
「久しぶりね、二番目」
「……何しにきたんですか」
「なによ、その態度。
模造品のくせに本物の私に楯突こうって言うの?」
返事の代わりに魔法を食らわせる。
彼女ご自慢の顔を狙い、頬へかすめさせた。
与えられたのは赤い線一本。だが女の怒りを煽るには効果抜群だった。
「レプリカごときが随分な真似してくれるじゃない……。
いきなりよくわからない連中に追っかけられて、
ただでさえ苛々してたのよ、私。
けど私は寛大だもの、優しくしてあげようと思ってたのに」
ふつふつとわき出た憤りに合わせて地面が隆起する。
女を守るように現れた十体の土人形。それは明確な殺意を向けてくる。
侮蔑の目で女は僕を見て溜息を漏らした。
「ひどく躾けてやらなきゃわかんないのね、おばかさん」
やっちゃいなさい、と女が指で合図する。
命令を受けた土人形は一斉に僕へと襲いかかった。
◆◆◆◆◆◆
「ジナム、気になるの?」
「ああ」
何もできない自分をもどかしく思い、
彼が去っていた方向を俺はずっと見つめていた。
組んだ腕の指先が俺の気持ちを表すように動き続ける。
尋ねてきたハイドに返した肯定は普段以上に素っ気ない。
八つ当たりするつもりはなかった……俺もまだまだ修行が足らんな。
「すまん」
「別に気にしないよ~、ジナムの物言いがきついのはいつもの事だし」
本当はこいつ根に持ってないか。
と考えたがこの男は単に素直なだけだ、思った事が口に出ただけだろう。
中で抱え込む奴よりはよっぽど相手しやすい。
「そろそろ戦闘が始まった頃だろうね~」
心配?と当然の事を聞いてくる、だが俺は答えない。
肯定は彼を信頼していないようで口に出したくなかった。
俺が返事しない為、ハイドも喋ろうとしない。
「あー!もう!訳わかんない!どうなってんのよ、この結界!
ねえジナム、リヒトからこれの事なんか聞いてない?!」
ツェリが沈黙を突き破る、答えなければ面倒事になりそうだ。
結界についてリヒトから聞いた事。
そういえば一つだけあったな。
「魔術師は確実に弾かれるらしい」
「じゃあなんでリヒト通れんのよ」
「お前でもわからんものを俺に聞くな」
役立たず位罵倒されるかと思いきや、彼女はただ肩を落としただけだった。
でもすぐにまた何かを調べだす。それに今度はハイドも参加し始めた。
行動する二人を見て、魔術に手を出していなかった事を少しだけ後悔する。
俺は結界の解除には何もできない。ここで可能なのは傍観のみ。
だがリヒトの為に動く姿を黙って見ている事もできなかった。
あぐらをほどいて立ち上がる、それに二人が気付いた。
「どうしたの~、ジナム?」
「行く」
「は?」
魔法に疎い俺でも彼女が名うての魔術師だと知っている。
それでも越えられない魔法を俺が壊せるのか、確率は0に等しいだろう。
だが先程から胸騒ぎが止まらなかった。俺の勘は無駄に当たる。
例えそれが杞憂でも不可能なことでも関係無い。
「諦めるのは性に合わん」
「えっ、ちょっ!ジナム!」
引き止める声に振り返ることなく、結界へ駆けていく。
躊躇いは無い。あるのは比翼に辿り着く自信だけだった。




