第二十話
「確かにこれは厄介だわ」
「発動した時には手遅れだもんね~」
不機嫌そうなツェリさんにハイドさんはいつもの調子で答える。
僕の隣はジナムさん、二人は後ろで語り合っている。
現在地は紅の森。不気味なはずの梟の鳴き声は賑やかな会話にかき消される。
「……二人は何を唱えているんだ」
結界の件で魔術理論を交わしているのを聞いたジナムさん、
その目は理解に苦しむと言っていた。
確かに魔術を知らなければ呪文に聞こえるかもしれない。
僕は苦笑いしかできなかった。どうしてこうなったんだろう。
結界を通れるのは僕だけ、それから大人数で行くとおそらく警戒され逃げられる。
そう思ったからギルドメンバーは派遣してもらわなかった。
ただハイドさんに同行してもらうのは最初から決めていた事だ。
あの女はかなりの危険人物、だから倒した後の処理は早々に行いたい。
だから彼には了承してもらっていた。けれどツェリさんが付いてきたのは予想外。
どこからか聞きつけて「私も一緒に行くんだから!」とギルドを出た瞬間に捕まった。
外出許可をもらいにマスターには話したけど。彼の計らいとは思えない。
ただもし万が一、結界の外に逃げられてもハイドさんと彼女が待機してるなら安心だ。
なので、ありがたいと言えばありがたいのだが……。
「せめて境目が分かればぶち壊してやるのに」
ぶつぶつと愚痴をこぼすツェリさん。
よっぽど結界に引っかかってしまったのが不満らしい。
入り口だと判明しやすく、また範囲を狭め消費魔力を抑える為、
結界は森の一部分だけと推測される。
そう話したならば、試してみると彼女はハイドさんと先行していた。
結果、前を歩いていた二人の姿が突然消えてしまった。
予めジナムさんから聞いていたから私達はさほど狼狽えなかったけれど、
森の何処への転移だとわかってなかったらパニックになっていただろう。
ツェリさん達のおかげで大体、結界の場所は把握できた。
その為、手前で立ち止まり、さっき二人と合流したのである。
「……じゃあ僕そろそろ行きますね」
この森は魔獣が出る。魔術師にとってはさほど脅威ではない。
ただ魔法耐性の無いジナムさんには危険極まりないのだ。
二人が戻ってきてくれるのを待っていたのはジナムさんを一人にしない為。
揃った今ならば、もう僕が滞在する必要は無い。出発を彼らに告げる。
「危ないと思ったら戻ってきなさい」
「無理は禁物だよ~」
「……待っている」
「はい、行ってきます」
見送りを受け、僕は彼らとは反対方向へ走り出す。
結界は僕を弾くことなく受け入れた。




