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第十八話「失うことが怖いから」

「サク!テメェー!」


急に斬られたことで少し困惑していたが、すぐに現状を理解し、

奴は俺に向かってそう叫んだ。


──臭い。

ゾンビ臭が凄いな。

前はネクロを倒すことでいっぱい、いっぱいで、

あまり匂いを気にしていなかった。

だがまあ──


「ついに、化けの皮が剥がれたか、

キョンシーさんよ。」


奴は斬られた首を押さえながら、

頭から胴体と再生されていた。

.....グロいなR18じゃないか、

良い子には見せられない風貌のネクロは、

腹立てた様子で俺に話しかけた。


「それで、どうやって殺すんですか?何度も言いましたが、

私は生き返るんですよ。」


語気を強めにネクロは言い、

俺の作戦を探っているようだ。

.....まあ、まだ何も作戦なんて決まってないんだがな。


俺はこいつに対して打開策を持っていない。

強いて言うなら、リグレット部の中で、

唯一こいつに対して持久戦に持ち込めるだろう。


(いや、ツムグやトワならいけるか?)


まあ、今は俺が耐えるしかないだろう。

そう結論づけて、奴に視線を戻した時、


ネクロのいたところは地面が抉れていて、

目の前にネクロが現れた。

あまりの急な出来事に持っていたナイフを蹴られて、殴られた。


奴はわざとらしく、コツコツと足音を鳴らして、俺のナイフを奪った。

クルクルとナイフをおもちゃのように回しながら、俺に投げつけた。


『カンッ』


と廃ビルに金属音が澄み渡った。

俺は投げられたナイフを持ち上げ、

奴を睨みつけた。


「なんのつもりだ!」


奴はそれに呼応するように服から新たなナイフを取り出して、


「どうせ、私たちは死にません。

死なないからこそ、

このナイフを向けれる。」


銀色に光るナイフを俺に向けながら、そう語りかけてきた。


「よく、こう言いません?

死ぬ覚悟がないような半端ものは

相手に武器を向ける資格がない。」


「私はあります。

長い年月、私は生きてきました。

時には死ぬ薬を求めて山に行きました。

時には争いに出されて、無駄に死にました。」


(死ぬ覚悟か.....)


本当の意味で死んだのなら、

俺はどうなるのだろう?

死とはなんだ?生きることの違いは?


死んだら全て終わりだ。

それは皆が良く言う妄言とやらじゃないのか?


(.....)


昔に良く考えたさ、夜が怖かった

とにかく怯えていた。

今の状況をどう変えればいいんだ?

泣いて、泣いて、それは幼子のように。


布団に包まりただ無駄な時間を過ごしてな.....


考えに耽っている俺を呼び戻すように「ゴホン」と咳払いをした。


「私は昔から死ぬのが怖かった。

死ぬことはできないはずなのに、

生きる気力もないのに、

生き地獄と言っても良いでしょう。」


「なので彼の方からこの力を授けてもらい、

最初は少し恨みました。」


ネクロは自分の手のひらを見て、

思い出に耽っていた。


「だが、私は彼の方についていく。

その理由は.....

怖いんですよ。失うのが、

私は見送る側にしかなれなかった。

たったそれだけです。」


.....神の信者化──全人類能力化

それをすれば寿命の壁を越えるのが

容易になるかも知れない。

今の科学と能力を合わせればな.....


「彼に忠誠を掲げている間は心が

楽なのですよ。

私は今正しいことをしているって。」


ネクロは誰かを思い返すかのような

遠い目をしていた。


「ですが、今はそんな事はどうでも良いのです。これは殺し合い。

恐らく、どちらかが本当の意味で死なないと終わる事はないでしょう。」


俺に確認するように

己の覚悟を示すように

ナイフをこちらを向けながら、


「これ以上、こっちにきたら.....

もう、後には戻れないぜ?」


.....口調がブレブレだな。

今のあいつが本当のあいつなんだろう。

僕は一息ついて、


「死ぬ覚悟は俺には出来ていない、

僕はあの時から何も成長していない。」


僕はそう言って、ナイフを奴に向けた。


「だが、俺には守るべきものがある。

昔は全てを失った。

だから、今度こそ──」


【この後悔を乗り越える為に僕は、いや俺は、お前をいつか殺してやるよ。】


俺はそう言いながら、

また、一歩、一歩と目の前のクソガキに近づいた。


「そうか.....」


ネクロは息を吸い込み、

真剣な眼差しでこちらを見つめながら、


『さあ、楽しもう!』


【狂ったこの世界で!】


俺たちはそう言うと同時に走り出し、

ナイフの甲高い金属音が廃墟に鳴り響いた。


*


非常にジリ貧だ。

考えたらわかるが、過去に戻すだけで決め手にかける俺。


能力と種族どれも特殊だが、

能力は今の俺には効かないし、

種族のキョンシーのせいで終わりが見えない。


割れた窓から差し込んでいた夕暮れの光も、今では消えている。


「カンッカンッ」


とナイフの重なり合う音だけしか聞こえない。


何の面白味もない戦い。

本来殺し合いはこういう戦いなのだろう。

能力者ばかりと戦っていて忘れていたが、


【殺すだけの戦いには能力は必要ない。】


ナイフ一本あれば、

勝ててしまうこともあるのだから、


まあ、出来れば能力を使った方が良いのだが、

奴の能力に対抗しているせいで、

能力を徐々に使い。

〇〇が削れていっている。


「それなら、能力を解除してくださいよ。」


ナイフの攻撃を繰り出しながら、

ネクロは話しかけてきた。


「もし、お前が能力を解除してくれるなら考えるけどな。」


そう軽口を言いながら、

ナイフを避けて、奴の首を狙った。

ギリギリで避けられ、頬を少し掠ってしまう程度になった。


ナイフの技術は俺の方が上だが、

キョンシーは受けながらも最悪攻撃出来るからな。それに──


(能力はあまり使いたくないしな。)


ここはゲームで鍛えた腕の見せ所だな。


俺は後ろに下がり、周りを見渡した。

武器を集めるのはゲームの常識中の常識。


ガラスの破片。


石。


どこからか入ったかわからない砂。


.....以上だ。

もしも、俺がこんなクソゲーをやっていることに気が付いたなら、

すぐログアウトしているだろう。


しかし、これらの何かで戦わなきゃいけない。


案一

ガラス片ぶん投げ作戦。


「オラッ」


「ザクッ。コツコツ。」(当たりながらもこちらに来るネクロ)


案ニ

目眩し作戦。


「オラッ」


「スシャー」(砂がかかる音)


「やったか!?」


「テクテク。」(目がキョンシーによって回復。)


「.....」


(使えねえー)


俺の脳内AIが分析した結果、

あまりにも落ちている武器?

が使えなさすぎて、

ガックシと肩を落としていたところ。

そんな俺を見かねてネクロが


「まあ、能力との相性が相性なので、

こうなるかなとは思っていましたが、こんなに長引くとは。」


そろそろ、皆は戦いが終わっただろうか?

俺は月を見てそう考えていた。


「そろそろか.....」


俺はそう呟き、ネクロを見据えた。


「俺はお前を倒せない。

だから、後は仲間に任せるよ。」


そう言った瞬間、俺は能力を使った。


そんな俺を見て、奴は困惑していた。

何故ならあいつから見たら、

何も起きていないからだ。


俺は試しに石を投げた。

だがその石は俺の手元に戻っていった。


そう、今俺は能力、そして無機物を限定してこの空間だけを戻している。


「へっ?」


時を歪める事でこの空間は歪んでいる。

そうだな、この力を名付けるなら、


【リバース】


「オセロみたいでカッコいいだろ?」


そう奴に告げながら、


(この盤面をオセロみたいにひっくり返してやるよ。)


と心の中で軽口を言うのであった。

この奇妙な光景を見て、


「こんなことして何になる?」


ネクロは警戒しながら、俺に質問した。


「何故かって?そりゃ──」


「友達との約束の時間だからな。」


そう言った時、トワとレン以外の

リグレット部の仲間がこの空間に入ってきた。


*


数十分前


「はあー皆んな遅い!」


私、ユイナは皆んなをカフェで待つことになっている。

うちの兄も大概鬼畜だ。

こんな可愛い妹を数時間も待たせるなんて、


「はあ、まだかなー。」


私は何度目かわからないメロンソーダをストローで回した。

今の私は数時間メロンソーダを回している。頭のおかしい客だろう。


「はあ、はあ、ユイナか?」


そこには歩き疲れたトワとレイ

それに少女と少年がいた。

少年は警戒しているのか、

私の後ろに隠れていた。


「私の名前はアカリよろしく!」


元気に手を上げて、話しかけてきた少女がそう言った。

それに応じて、隣の子が、


「僕の名前はカナタ。」


そう、疑り深い目で渋々私に名前を教えてくれた。


「ていうか!僕らは

さっき狙われていたのに、

そんな簡単に名前教えちゃダメだろう!?」


カナタはアカリの頬を掴みながら、

叱った。


「でも、この人たちの仲間なんでしょ?」


アカリは何で怒られているか、

わからなそうにしている。

それに、カナタはアカリの耳元で、


「まず、こいつらが助けてくれたからって、

アカリの能力を利用しないとは言ってないだろ?

こいつらがいきなりさっきの奴みたいに攫ってくるかもしれないし。」


「私たち、攫われるの!?」


とバカでかい声でアカリは驚いた。

それにカナタは「お前なー!」と

怒っている。


「ところでキョウ達は?

もうそろ、約束の時間だと思うけど。」


そう、私たちは十九時になったら集合することになっている。


「しょうがない、戦ってるかも知れないけど、呼ぶしかないか。」


私は、あの三人を思い浮かべて、

集める能力を使用した。

その瞬間、何もないところから、

「ドサドサ」と音がした。


「いててて、雑だなぁ?」


キョウは苦言をしながら、

そう言った。

あれ──

ツムグがいない?何処にいった?

まさか、失敗?


「お、重い.....」


そこにはトウマに乗られて、

死にかけのツムグがいた。

トウマはそれを見て、

何処からか出したハンカチで、


「あいつはいい奴だった。」


と泣き真似をしている。

.....何処までも緊張感がないわね。


私は切り替えるように手をパシと叩いた。


「今からあの廃ビルに行きます。

元の作戦通り、私とトウマ、ツムグ、キョウ、

私たち四人で行きましょう。」


アカリとカナタを二人にしとくのはまずいので、

元から、トワとレイをカフェで待ってもらうことに、なっている。

それを聞いたトウマが、


「いや、俺は残るよ。」


先程のふざけたトウマは何処にいったのか?

真剣な眼差しでそう言った。

キョウはその表情を見て、


「いいよ。何かあるんだね?」


長年の付き合いのおかげか、

トウマの変化に気づいていた。


「ああ.....」


そう端的に返して、トウマは外に出ていった。


「それじゃあ、三人で行きますか。」


ふと周りを見たら、

カフェで能力やバカでかい声を出していることに気づき、客や店員さんの視線が鋭く、痛まれなくなった。


トウマめ、さてはこの視線に気づいていたな。


*


部屋に入ってきたユイナたちは、

訳がわからなそうに辺りを見渡した。

空間は歪み、腐敗臭のするこの部屋


(俺が説明しないといけないか.....)


俺は簡潔に、そしてわかりやすく伝えた。


「空間が歪んでいるのは俺のせいだ。

ここでは対象の能力や無機物は発動や移動しても過去に戻り、なかったことになる。」


ネクロにこの空間のことがバレてしまうが、しょうがない。


「つまり.....」


「今はネクロの洗脳の能力が使えないって訳か。」


キョウはそう言って、

ギロリとネクロを睨みつけた。


「こんな状況になったら、

流石の私も無理ですね。」


そう言って、ネクロは割れた窓から抜け出そうとした。


「へっ?」


まずい!まずい!

逃げること考えてなかった。

窓から逃げられたら、また面倒なことになる。


「界隙。」


キョウがそう呟いた瞬間、

壊れたドア、割れた窓など、

外に繋がるものは全て界隙が隙間を埋めた。


「クソッ!」


ネクロは下のコンクリを殴り、

下の階に避難しようとしていたが、

俺のリバースによって、

コンクリは壊れた瞬間、元に戻った。


「一つ問おう。」


不意に後ろから、

キョウの声が聞こえた。


「カイと言う少年を洗脳したのはお前か?」


そこには、誰にも有無を言わせない圧力があった。


「そうだと、言ったら?」


ネクロはその圧力に屈することなく、そう発言した。

キョウはネクロの方に手を伸ばした。


「グッハ!?」


界隙によって繰り出される、

槍、刀などのあらゆる刃物がネクロを突き刺した。


「あの子がどんな思いで、

僕らと戦っていたのか、

お前にわかるか?」


「ハッ!わかる訳ないでしょう?

だって、あの子は私の人形ですから!」


ネクロはそう言って、キョウの方へ向かったが、

不意に体が浮いて、落ち続けた。

「ドン!」と底に叩きつけられた。


「はあ、はあ、なんだこれ?」


私は血を拭いながら、

そう言葉を吐き出した。


「ここは、深層心理。

言わば、心の中。」


後ろから、声がした。

恐る、恐る、振り返ると、

キョウがそこにいた。

そいつが、指を弾くとモニターが映り出して、


そこには、私の記憶がモニターに映る。

それは、私の罪だった。

そして、最愛の人の死ぬ姿だった。

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