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ついにこの時がきた。
わたしが望むものはひとつだけ。
「勇者キリエよ、よくぞ魔王を討伐した」
大広間に国王の声が響く。
魔王を討った勇者を迎えるこの広間は、荘厳な雰囲気の中にあった。
しかし、キリエには寒々しいとしか感じられなかった。
自分を囲む王国のトップたちの顔には喜びの色などない。
疲弊、不安。
当然だ、とキリエは考える。
この王国は、長年の魔王との戦いで荒れ果てている。
男たちは魔族との争いに駆り出され、手のまわらなくなった田畑は放棄された。
人々にはまわりを思いやる余裕がなく、犯罪は増え続けている。
そして、魔王を討伐した勇者に報償を与えないわけにはいかないが、王国にはあいにくとそんな余裕などないのだ。
だから、キリエからどんな要求が出てくるかと、不安になっている。
「勇者キリエよ。そなたの貢献に報いよう。望むものを言うがいい」
「……望むものを与えていただけますか?」
「もちろんだとも。言うがいい」
国王はキリエの言葉によどみなく答えたが、かすかに声が上ずったように思えた。
「それでは……」
キリエが口を開くと、周囲の注目が一斉に向けられる。
頼むから下手なことは言ってくれるなよという無言の圧。
お歴々が、女一人の動向に神経をとがらせている。
キリエは口元がゆるみそうになってしまった。
ああ、こんなに滑稽なことを一緒に経験する仲間がいないなんて。
キリエは心の中で仲間たちの姿を思い浮かべる。
ここに一緒に並ぶはずだった仲間たち。
永遠に失われてしまった命。
君たちならどんなことを願ったかな。
わたしの願いを聞いたら、「そんなこと!」って怒るんだろうか。
しばし瞑目したのち、勇者は口を開いた。
もし、生きて帰ることができて報償を聞かれたら、言おうとずっと決めていたことだった。
「わたしの願いは……わたしを人買いに売った母を、処罰してもらうことです」
どこにいるかわからない母親を探し出して、罪に見合った罰を受けさせてください、とキリエは言った。




