80 君を追いかけて(4)
「な……っ、なんなの……っ!」
ジタバタと暴れる。
暴れたところで、尚に勝てるわけはないんだけど。けど、こんなところから逃げ出したかった。
辛かった。
尚の匂いに包まれるのも、その腕で抱きしめられるのも。
それでもいい加減、諦めたところで、頭の上から声が聞こえた。
「ほんと、ごめん」
静かな声だった。
「僕さ……、莉子と出かける約束してから、そのことしか考えてなくて。他のこと、見えてなくて。クラスのメッセも、全然見てなくて。ほんとに、みんなとの待ち合わせだって思ってたんだ。それから、みんなが気を利かせて二人きりにされたとか言われてさ。でも、せっかく浴衣着れたって、祭り見たいっていうから……、つい、保護者のつもりで。そしたら、鼻緒が切れて。抱きつかれて。他の子といるつもりなんかじゃなかったんだ。アンナのことも、父親の会社の社長の娘ってだけで、……押し付けられただけで……特別な感情は持ってない」
どうしようもない言い訳だった。
けど、その腕が震えているから。
「お願いだから……」
その声が震えているから。
尚が泣いているような気がして。
「いなくならないでよ」
あたしは、大人しく床に座り込んだまま、尚の腕の中でそのつまらない言い訳を聞いていたんだ。
「もう、他のやつと二人にはならない」
頭に、尚の吐息がかかる。
そしてそれがあまりにも、『好きだ』と言われているような気さえして、恥ずかしくなってしまう。
そんなわけないのに。
「まだ許せないかもしれないけど」
その声はあまりにも。
「一緒にいてよ」
あまりにも甘くて。
あたしは何の返事も出来なかった。
そしてあたしが何の返事もしないままでいたから、尚はあたしを抱きしめたまま動かなかった。
静かだった。
窓が開いているからか、外の音だけが遠くから聞こえた。木々のざわめき、誰かの足音、鳥の声。
……さすがに、抱きつかれたままは恥ずかしいんですけど。
「わかった。わかったから」
あたしが、押し負けた形になる。
けど、こんな風に言われたら、無下にも出来ない。
……結局あたしは、尚を嫌いになることなんて出来ないんだから。
「……逃げないから、離れて」
「うん」
耳元で、尚の小さな声がした。
耳に、吐息なのか唇なのか、判別つかないものが掠めるように触れた。
「…………」
うん、って言ってる割には、抱きしめる力が強まってるんですけど……?
「……離れて?」
向かい合っている尚を、ぐっと押してみるけれど、残念ながらびくともしない。
「ごめん。もうちょっと」
!?
その、寂しかったのかなんなのか、どういうつもりなのかわからないけれど、くっついていたいを全面に押し出したその言葉のせいで、あたしの熱は急激に上昇したようだった。
なんて事言うのなんて事言うの!?
ちょっとはあたしの気持ちも考えてよ!
尚人くんのターン!でも、ここでまともな告白出来ないのが尚人くんクオリティですね。




