第八十七話:フォルクスの質問
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ライオリックが戦線を変える旨の手紙を受け取った使者は、半日程馬を走らせ、五老杖『断金の大鎌』フォルクスの陣地へと向かい、手渡す事となる。
_詳細な内容は、現在北部戦線の後方支援をしている部隊と、一部の前線を担っている精鋭部隊の、南下である。
「小僧、何を慌てている」
だが、それを見て少女は、煩わしそうに呟いた。
後方に気を配るも何も、今は、ニクスキオンの処理に集中せねば……前線から兵を引き抜けば、それこそ、全軍の崩壊に繋がりかねない。
(いや…かと言って……ネロ達首脳を喪った、南方哨戒部隊が独自で再集結し、南方諸国を抑えるとの確証も持てぬ…か)
手紙を読む、フォルクスの天幕は、奇妙な形をしていた。
魔女の帽子の様な見た目でいるくせに、中々に居心地が良く、暖かい。
彼女の弟であるシモン・フォルクスは、この天幕が、どうにも嫌いだったらしい。
しばしば「姉上は、趣味が悪いですね」と困った様な顔で注意したのだとか。
(賭けだな)
思わず、フォルクスは、その幼子の様な見た目に合わず、深いため息をついた。
「はぁ……リュクリーク陛下、アンタの言った通りだな、アンタの先祖のせいだよ、アレが、無駄に愛されたから」
一度思考を放棄し、フォルクスはゆったりと椅子に座ると、目を瞑る。
瞑った所で、フォルクスは夢を見ない……が、代わりに、思い出が浮かんで来る。
他愛のない思い出である。
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__一度、フォルクスは、マラレル王国の歴史について、リュクリーク・ノルマンド四世(現国王)に尋ねた事がある。
深い霧が立ち込める、早朝であった。
暇つぶしに、王の間で菓子を頬張っていた気がする。
「なぁ陛下、アンタの祖先、リュクリーク…のオリジナルは、なんであんなに、仲間であったハズのアヴェルナの記録を消し、最終的に敵対したんだ?」
フォルクスは、粉菓子を口に放り込み、砕きつつ、喋る。パラパラと粉末が舞った。
「オリジナル……か、フォルクスよ、そりゃ俗な言い方だなぁ…」
「まぁ良いわ」
あの日のリュクリークは、娘も無事に生まれ、多少機嫌が良かった。いつもなら「自分で調べい」とヒゲでも撫でていただろうが、喋る気になったらしい。
「まだ敵対前の……当初……アヴェルナは、魔道士リュクリークを愛し、そして、リュクリークもまた、そんなアヴェルナを受け入れていた」
「おーおー、そりゃ、お熱い主従だな」
多少冗談めかしく反応する。
フォルクスも、機嫌が良かったのだろう、この日は、彼女の弟である、シモン・フォルクスが十の誕生日を迎えた日だ。
「まぁ聞けぃ、だがその後、相思相愛、一見良好に思える両者の関係は、不思議と拗れて行った」
「…我が国の秘蔵の伝記に、こういうのが載っているのだ」
『初代勇者は、その友、リュクリークに呪いを掛けた。『永遠に、愛する』と言う、一見、健全な呪いを。
だが、ソレを初代マラレルの王、リュクリーク一世は疎んだ。
やがて、二人の間だけで結んだハズの呪いは、世界すらも蝕み、根を張ることとなる』
「まぁ、そのな…伝記の文のみで、詳細な理由までは、あの…不死鳥の門…とやらを観ねば、分からぬ……方向性の違いか、はたまたリュクリークの嫉妬故か」
フォルクスは、ここで「不死鳥の門?」と聞こうとしたが、リュクリークが先に察し、説明する。
「不死鳥の門とはな、現在は、ゼノンの爺が所有している、うぅん、その、色んな記憶が入っている…色の付いた白黒テレビ的なモノらしい」
「白黒……」
フォルクスは、新出の単語に、不思議な顔をする…が、気付き、リュクリークは慌てて手を振り
「あぁ、スマンな、門は、図書館の様なモノだ」
「アヴェルナの冒険を追える装置なのだ」
だが、ここで、フォルクスは思い出したように。
「だが陛下、その、不死鳥の門が無くとも…確かアンタは、初代リュクリークの記憶を持っているんじゃ無かったのか?」
そう、聞く。「だから、詳細も分かるハズだ」と
が、リュクリーク・ノルマンドは、手を顔の前で振った。
「ああ、それは、戦闘のデータだけだ」
「馬鹿な初代よな、どうせなら、勇者と拗れた理由も、一緒に見せてくれても良かった物を……」
ここで、マラレルの王は、コホン…と軽い咳をする。
「…話が逸れたな……兎に角、アヴェルナとリュクリークは、冒険の終盤で、突如、道を違えた」
「お主の質問の一つである「何故敵対したのか?」の説明は、それ故に、詳しく言えぬが…もう一つの、アヴェルナの記録を消した事については、ハッキリと言えるさ」
「彼女の……勇者の呪いを、消す方法を模索した結果だろう」
フォルクスは、「ほほう」と、今度は、粉菓子をテーブルに置き、そのまま手を鎌に乗せ、更にその上に、頬を乗せる。
聞く体勢としては最悪だが、(まぁ、こういうヤツだしな)とリュクリークも怒らない。
「初代リュクリークが…否、リュクリーク・ノルマンド一世の一族が掛けられた呪いは、ソレはもうな…恐ろしい」
「アヴェルナ一族への、消えぬ因縁を植え付けられるのだ」
また、長い説明をするため、リュクリークは、息を、吸う。
「不思議な呪いだろう、呪殺でもなく、体の器官の一部に影響が有るわけでもなく、因縁…だ」
「個人への呪いは様々……だが、歴々の王達への影響までは知らぬ…が、朕の場合はな」
「毎夜毎夜、脳に、アヴェルナの肉声がな、刻まれるのだよ」
「「見よ、見よ…」と、時に不思議な言語で、時に、歌のように…刻まれるのだ」
「寂しそうな声で、言いやがる…つい、救ってやりたくなるような…か細い声で」
「そして、その度に、朕は、内臓を掻きむしりたい様な、吐きたいような気分に襲われる」
だが、ソレを聞いて、鎌の上。フォルクスはムスーと、口を膨らませ、暇そうな顔で
「陛下ぁ、それくらい、耐えられよ」
「聞いて損した、私だって、死神の呪いの影響で、定期的な頭痛に悩まされるぞ?」
しかし、リュクリークもそれに対して、声を上げて笑い返す。
「はっはっはぁ……いや、フォルクスよ、朕が…歴々の王達が、まさか…それだけで、こうも躍起になり、呪いを解こうとしているとでも?」
「それはあくまで、オマケ的なモノさ」
「言ったろう?」
リュクリークは、また、息を吸い
「末代までに及ぶ、因縁なのだよ」
「アヴェルナの一族と、リュクリークの一族は、ずぅぅううっと、一緒」
「マラレルが続く限り、アヴェルナの後継国である、アッディーン公国は滅びぬ…逆もまた、然りだ」
フォルクスは、そこでようやく鎌から手を離し、また、聞く体勢に戻った。
「一族の、どちらかが滅びぬ限りは……永遠と、戦争は続くのだ」
「永遠と、生命が、枯れ続ける」
フォルクスは聞き、また、馬鹿にするような表情と共に笑いつつ
「アンタは…なんだ、死んで欲しく無いのか?」
「塵芥共に」、と言い放つ。
「あぁ、なにせ、この世の生命は、全て朕の物だ」
「所有物が、争い合い、壊れる事ほど…哀しい事は無いだろう?」
「……哀しいか?」
それに、リュクリークは、優しい微笑みを続けて
「朕は……いや、俺はな、物を大切にするタイプなんだ、君には分からぬさ」
(じゃあ、アンタは)つまり、リュクリークの言い分では、結局、戦争の無い世を目指して居るように、思われる。
気になったフォルクスは、鎌から手を離したままに、また、質問した。
「なら、アンタは、平和な世界を望んでいるんだ」
「…いんや…?…それも、一つの形だろう…とは、考えているさ」
「言ったでは無いか、俺はただ、純粋に、所有物が壊れぬ世界にしたいのだ」
「その結果の副産物として、戦争が無くなる事も、まぁぁ……あるかも…知れんな」
フォルクスは王の言葉を聞き終え、目を細め、また、暇そうな顔になる。
「つまらん人だな、それだけの力を持っておきながら、古代の雄、ノームの様に世界を平らげ、神として君臨せぬのか」
自分よりも強く産まれておきながら、なんと優しい夢なのか、なんと、欲が少ないのか…と、フォルクスは、あくびすら、した。
…そして、多少、両者は沈黙する。
「ま、そのアンタの温い夢など、すぐに実現出来るさ」
「今すぐにでも、私に二万の兵を与え、公国に向かわせば……あっ」
自信満々なフォルクスの言葉に、「そうだよ、そうなるだろう?」と、リュクリークは「ガッハッハ」と、ここで初めて、馬鹿にした様に笑い掛ける。
「だから、呪い……因縁なのだ」
「でなければ、こうも、あんな小国相手に、偉大なるマラレル王達が手間取ってなどおらんさ」
すると、(くそっ、失言した)と、フォルクスは、その見た目通り、少女らしく、顔を真っ赤にして
「じゃ、じゃあアンタは延々と苛まれ続けるんだな、そうさ、それが良い」
と、突っぱねる。
「……ふん」
「まぁ、まぁ……策は、あるさ」
そう、小声で言ったが
怒りつつ去ってゆく、少女には届かなかった。
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目玉を捧げれば、どの様な願いでも、叶う。
それが例え…どんなに深く、強大であっても。




