第八十二話:布陣
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「…ギベリン、俺が敵ならば、数が少ない…今、このタイミングで攻めて来そうではあるがなぁ…」
ある程度は、ルル丘の周囲まで、防御陣地を伸ばすことが出来た。その為、暫しの休憩を、ホスロは兵達に取らせる。
「実が少ないでしょう……今布陣している将が、まさかあのホスロ・アッディーン護国卿直々だとは、マラレル風情の愚将には、考えも付かんでしょうな」
しかし……ひたすらに、待つとは決めたものの…モヤモヤと胸騒ぎがする。
ホスロの着陣後、半日が経過した。
精鋭五百は、既に新たに築いた簡易要塞に立て籠もり、その上大河を挟んでいる。無理に攻めようと思えば、二、三千の大軍を以てせねばならんだろう。
更に
「明朝には、ダンテ将軍も到着されます」
「若様よ、案ずるな」
彼の率いる病院騎士団、千五百騎。
殆ど大国の一軍団に匹敵する規模と、精度であり(そもそも、マラレル王国の様に、単独で何万もの兵を動員できる方がおかしい)恐らく、ホスロの仲間の中では、一番信用でき、尚且つ最強の部隊である。
その事を、ギベリンは伝えてやった……が、実は彼自身、言いつつ、落ち着かせつつ、本当は、ホスロの幕僚の中で、一番不安がっているのだ。
ギベリンは、この、アッディーン家の老臣は、思う訳である。
(否、敵兵の姿は、俺が索敵可能な三十キロ範囲内には確認出来なかった……絶対、大丈夫だ、今から馬を飛ばしたとて…南方哨戒部隊は数千の大軍と聞く……一日と少しは掛かるだろうよ)
と。
「随分と休んだわ、そろそろ、哨戒用に何名か出すか」
一方の、護国卿は、まぁ何とも堂々としている。
葉巻すら、咥え始めた。
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同刻___
「全軍、鎧を捨て、剣だけ持ち進みなさい」
「他の装備や馬は、後から送ります」
気色の悪い色をした魔獣に乗り、南方哨戒部隊の長、ネロ・ラドリアは殆ど全速で、狭い山道を駆けている。
続く兵は徒歩にて。そして、付いて行けない者は置いていくつもりらしい……が、尤も、そんな軟弱が南方哨戒部隊に入れる訳は無いが。
そして…ネロは馬上、左右に命じつつ、流れる様な仕草で、懐から真っ赤な小瓶を取り出し、そのままカパリ…と開き、中に入っていた、何やら怪しげな、ドロドロとした液体を、ゴクリ…と飲んだ。
喉仏が、三回ほど蠢く。
「ネロ様、今のは?」
不思議に思ったラドリア家の、側近の騎士が、横から尋ねた
「皆、人の形をを保とうとするからぁ…弱いのです」
「コレ…は、王家の…霊剣の、強さの秘訣…ですよ」
そして、飲んで数分後…いきなり……ネロの瞳は猫の様にバチリ…と縦長になり、少し…バリバリ……と背が大きくなった気がする。いつもは余っている風に見える、東洋服が、ギチギチ…と引き締まった。
そして、足もボコボコ…と青筋を立てて盛り上がり、目に見えて筋肉質になる。
最後に、頭から狼の様な耳が、ぴょコリ、と生えた。
「んぬゅーうぅ……『虎狼ノ心』流石は陛下、良い能力を…お持ちだ」
そして、牙をギラギラと見せびらかし、いきなり、笑顔となる。
「はは……にははハハ……!」
「世界が…明瞭になって行く……ホスロ、ホスロが…見えるッ」
言いつつ、なんと彼女は、先ほどまで穏やかに会話し、右にて並走していた部下を……体勢そのまま、体を、グルンッ…と豹の様にひねりつつ、腰に佩びた剣を燕の様にサッ…と引き抜き、ズバンッ!と、目にも止まらぬ速さで…袈裟斬りにした。
そして、驚きながら、体が上下に分かれた騎士は、そのまま、ボトボト…とそれぞれ地面に…落ちていった。
「ひはっ、脳に来る……にっはっはっは……ホ、ホ…ホスロ!」
「体温が感じられる……瞳が脳に入って来るっ」
「あー、あ、ネロのお嬢ちゃん、王家の霊剣直々の薬は…どうだい?」
すると、ふと、青い炎をまといながら、空中にイグニス・フェニキスが現れ、そのまま魔獣に劣らぬ速度で空を駆けつつ、聞いて来る。
「イ、イ、イイイグニスさ、様……私は今」
「最高に、脳が冴えております」
ソレに、真顔で、返す。
「そりゃ、良かった」
「だがね、気を付けなよ……一回飲んだら、一日は使用を控えること」
「連続の使用は、我ら王家の霊剣筆頭格ですら、危うい」
「分かってまーす」
頬を赤く染めながら、目を虚空に向けながら、ネロは更に馬を、風のように飛ばす。
「行きましょうー……飛ばせ、飛ばせー!」
あぁ…恐ろしい怪物が、迫って来ている。
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「なんと……入りおった…」
ギベリンは龍竜人族である。基本的に、寝ることが無い。夜を通して索敵を続けていた。やはり、不安は拭えなかったのだろう。
可能な範囲は、前述の三十キロメートル圏内。これは、あのゼノン・ロ・タロどころか、魔術王リュクリークすらも軽く凌駕する。
アッディーン騎士団内で自慢しても、別に「へぇ…ギベリン殿、凄いなぁ」としか、同僚からの反応は得られなかったが、冷静に考えたら、化け物だろう。
冷や汗をかきつつ、探知すると、そのままの足で、丘の上に新しく建てられた、主の天幕へと入って行く。
「若様、報告を」
「うん」
「敵軍、恐らく四千程が……ローデルヴィレイ川の対岸を目指して、行軍中で御座います」
「……なるほど……な、早い早い」
「どうされますか?」
ホスロは、眠たそうに。だが、多少の余裕を持ちつつ、考えると
「いやぁ…うーん、アレを…使うべきかな」
そして、ギベリンの耳元まで近付き
「……を丘の上に、用意しておけ」
「ふっふっふ、若様、お早いお披露目ですなぁ」
「…敵が南方哨戒部隊の本隊ならば、使うより他は無い……壊れるかも知れんが、まぁエエわ、エエわ」
「これも、賭けよ、ギベリン」
そしてギベリンは、両手を頭の前で合わせると、天幕を去った。
(うむ…うん、敵は…意外と早いな)
だが、今から三十キロメートルの行軍ともなれば、一日は必要だろう。
ダンテどころか、クレアの到着までは待てるハズ。
安堵し、今夜はホスロは、木の枕に頭を乗せ、ゆったりと眠った。
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早朝。着陣からは、丁度一日が経過した事になる。
ローデルヴィレイ川は、どうやら霧が深いらしい。
「ギベリン、ギベリンっ」
おまけに、空気も薄く、部下を呼ぶ声が、何となく弱々しかった。
天幕を出てみると、何やらザワザワと、どよめきが下の方から湧いている。
「若様」
「敵は?」
だが、気持ち、声共に弱々しいのは、どうもホスロのみでは無いらしい。
「……あちらに」
急いで寝起きの目を擦りつつ、ホスロは、自分の視界を疑おうとした。
なにせ、ボヤぁ……と薄く開けた霧の合間から、魚群の様な敵影が、いくつか確認出来たのである。
「ギベリン…何故……昨晩にようやく、お主のレーダーに映ったんじゃろう?」
「……」
「いや、この言い方は…済まなかった、お前の事だ、わざと起こさんかったんか」
どうせ起こしても、驚き、疲労するだけである。
まさか、敵も陣形すら整えない内に、攻めてくる事は無いだろう。
一応、昨晩、急遽篝火は灯したらしいが。
「敵軍、未だ、隊列は整っていない様子」
「ま、まぁ、じゃろうな」
「それより…ダンテの援軍は?」
少し、不安気に少年は、自陣の後方を仰いだ。
「……ふむ、距離的に…あと、一時間も掛からぬ内に、到着されるかと」
ギベリンの言葉を聞き、多少、目が弛む。
だが。
「催促の使いを出せ」
朝食も済まさず、ホスロは、近くに置かれていた椅子を煩わしそうに蹴り上げ、馬に跨った。
公国兵五百。こちらは皆、既に戦闘位置に着いている。アステルドが早めに並べておいたらしい。
「魔装弩部隊……用意しろ」
そして、馬で柵の合間を、ビュンビュン、と縫っていき、素早く駆けつつ、大声でホスロは別の部下に命令すると、三十程の射撃部隊を、自分の近くに配置した。
「青二才、青二才っ」
そして、遠方より、アステルドが上り坂を、何度も転がりつつ駆けてくる
「敵が…」
「分かっとるさ…有難うな」
「どうする?」
「どうするも、何も……取り敢えず、魔法やら弩やら…打ち込むぞ」
「どうせ向こうは、濃霧で、こちらの正確な数までは分からんじゃろう…強気にならねば」
幸運な事に、麾下五百の内、なんと四百名が、遠方攻撃部隊である。
このような部隊内容は、当時では珍しかろう。
尤も、川に防御陣地を築き、敵を防ぐ…と言うのが目的だった事も影響している。
「魔道士部隊……構え」
ホスロは、続けて、柵の内側を駆けつつ、がなるような声で、号令を発する。
先にも述べたが、五百の兵は、全て要塞の内側に蛇の様に長く展開している。故に、命令が行き渡るまで、少し時間が掛かった。
「撃て」
そして、数分後、何百もの炎弾、氷弾が、雨の様に、対岸の敵陣目掛けて降り落ちた。
だが、向こうは大軍…当然、反魔法結界を貼る用の兵を何百人と抱えているのだろう。
叫び声すら、一切挙がらぬ。
「ちっ」
しかし、不思議と、膠着状態が、続いている。
(何故、打ち返して来ぬ)
即座に反魔法結界を貼るのは立派だが……向こうの射撃部隊は、射程距離が短いのだろうか。
(どういう事だ…?)……敵が動かぬ理由が分からぬが…恐らく、強行軍の為に、物品をワープで運んでいるのだろうか。ソレくらいしか、仕掛けて来ない理由が判明せぬ。
「数十キロメートル間の、大量の物資のワープ輸送……かなりの魔力を消費するハズだがなぁ」
マラレルは、やはり強い。国家としての能力に於いて、殆どの点で、公国に勝っている。
だが、僅かに劣っている点として…
「護国卿、ダンテ騎士団長殿が、着陣されました」
「来おったか」
敵対国の多さと、同盟国の少なさである。
丘から、ローデルヴィレイ川周辺の平地を眺めれば…確かに、オアシス村の病院騎士団員、千名と少しが、公国軍の右に、大きく展開し始めていた。
「ダンテ殿…大胆な事を……」
思わず、ホスロは、カッと目を開き、呟く。
なにせ、その、病院騎士団が受け持つ右側は、未だ堀が浅く…後になって判明したのだが、川の水位も、ひどく低いらしい。
ダンテの着陣を確認後。次に、ホスロは、自身の麾下の中で、唯一の近接部隊たる百余名の内、精鋭の三十騎を召集する。
部隊長クラスには劣るものの、全員、宮廷魔術師の最上位程の戦闘力を誇っている。
「お前たちは、序盤、一切戦闘に参加するな」
「たとえ味方が殺され、部下が目の前で助けを求めたとて、俺の命令にだけ従え」
「敵陣に切り込む刃が、事前に錆びて居れば世話無いからな」
皆、冷えた目で頷くと、以降、常にホスロの周辺に居る。
そして、敵軍、着陣から既に、三時間は経過し始めて居た。
流石に見飽きて、ダンテに挨拶にでも行こうかな…と思ったが、どうやらそんな暇は無いらしい。
「若様、動きましたぞ」
ギベリンが、監視しつつ、静かに報告する。丘に有る指揮場所からも、ソレを目視すると、すぐさまホスロは射撃を止めさせ、遠距離攻撃を弾く事だけに集中させると……今度は思い切り、敵を近付ける事にした。
すると……敵は器用にも、結界を貼りつつ、前進して来るでは無いか。水飛沫をあげつつ、雄叫びを放ちながら。
だが、それを見つつ、護国卿は思い出す。
『ホス君や、いくら高度な反魔法結界とて、欠点はある』
『一つ、至近距離の攻撃魔法までは防げぬ事』
『二つ、バーン、と殴ったり等、純粋な物理攻撃には弱い事』
ホスロは、必死に思い出している。レマナの…彼の、師の言葉を……
『最後に…これは、つい最近発見されたから、殆どの人は知らないと思う』
「光の普遍魔法を扱える者は、前にっ」
閃いた、と言いたげな表情で、ホスロは左右に命じた。そして、二十人程が、前線に屯する魔術師を押しのけ、進出する。
『あの結界は、実は光が一切ない、暗闇の時の方が魔力吸収率が高いんだよ』
『逆に言えば…日中、膨大な光を浴びせれば……生半可な結界は、殆ど意味を無くし、高度なモノでも、ある程度までは、脆くなる筈だ』
そして、ホスロは、再び「攻撃開始」の手を挙げ、炎を超えるような眩い光を前方に放ちつつ、魔法攻撃部隊を再稼働させた。
(やはり……!)今度は、距離が近い事もあり、面白いくらいに、バンバンと的中する上、威力もそこまで減衰していない。
魔法が敵にぶつかる度に、軽々と、鎧を破壊し、肉を砕く。砕かれた体は宙を舞い、血が、豪雨のように降り注いだ。
一方、対岸からこの様子を、ネロはジト目で、狼耳を立てつつ、不愉快げに眺めている。
「小癪な…」
「魔道士部隊も、龍騎兵も、主要な遠距離部隊は殆ど北部戦線に送られたからねぇ……ウチが精鋭部隊と言っても、まぁ、そりゃ、練度の面の話さ」
そんな大将を、イグニスは不思議な言い回しで慰めるが、どうやら彼女には響いて無さそうである。
「うぅ……グルル…」と猫科の生物の様なうめき声を上げる。
「…さて、どうするお嬢ちゃん、まだ続けるかい?」
ネロは、当然の様に頷くと
「総攻撃です…本陣は開けて良い」
近辺に数十の騎士しか残さず…残る四千の大兵力を以てして、正面より平押しする事にした。
飛び道具の飛ばし合いやら、魔法合戦やらの……今更、無駄な小細工など要らぬ。考えを改めよう。
マラレルらしく、大国らしく。
質と量で、粉砕するのだ。
ひたすらに走り、走り、矢の間を駆け抜け、突き崩し、破壊する。
__一方のホスロは、丘の上から、敵軍の様子が変わった事が、手に取るようにして分かった。
(がむしゃらに、走って来おる)
「そろそろ……火炎弩を…下ろせ」
ソレは……いつかの日、ユグノ伯国、南マラレル会社から購入した、巨大なバリスタ。
最新式の兵器である。
道中、細心の注意を払いつつ…所有している二台の内、どちらも、この戦場に曳いて来ていた。
そして、ルル丘の、一番見晴らしの良い開けた場所に、設置した。
続けて、松明に火を灯し、矢の先の『練爆』の魔法が練り込まれている箇所に点火し、ギリギリ……カチンッ…と縄を張る。
「俺が合図するまで、絶対に撃つなよ」
段々、敵の勢いが増している。というか、後詰め含めて、押し出して来ている。
眼下の、敵兵千数百、全員、狂った様に目を赤くし、時には味方を蹴飛ばし、踏み殺し、死体を乗り越えつつ、進んでいた。
中盤すらも、押され始めた。
更に、ダンテが受け持つ右翼も、イグニス・フェニキス率いる二千余の軍勢……殆ど、二倍ほどの敵に立ち向かっており、ギリギリで耐えている。
「耐えろ、耐えろ、まだまだ」
「若様、若様、もう撃ちましょうッ」
ギベリンが隣で悲痛げに叫ぶが
「まだ、まだじゃ」
もう少し引きつけよ……と静かに返す。
もう、丘にまで張ったハズの防御陣地を蹴り破り、虫のように、足元まで敵が密集して来ている。
そして、そのまま堀にハマり、後から雪崩のようにして後続が来るため、渋滞を引き起こして居た。
それでも、徐々に、徐々に集まり、登り始める者も出始めた。
(一応、火炎弩の有効射程は八百メートル程……じゃけど、まだまだ、引きつけれるわ)
ネロの本陣からは、味方が、ホスロの天幕が建てられて居るであろうルル丘の、正面の陣地を破壊したかの様にしか見えない。
だが、不思議と、誰も登れていない。
「なぜ…そのまま駆け上がらないの?」
ひょこり、ひょこり…と大きな狼耳を左右に動かしつつ、苛々とする。貧乏揺すりも、始めた。
__いや、ホスロは、何か策を隠しているのか?
ネロは心底不思議に思う。
あの男が、このまま安々と押し切られ、捕らえられる訳が無い。
……少し前に、イグニスは病院騎士団の方面に向かわせた。
本陣は、今度こそガラ空きである。
「何を出してくる……いや、まさか……」
目を瞑り……急ぎ、思い出す。ホスロが前に、購入していた兵器の事を。瞬間…サッ…と血の気が引いた。顔が、青白くなる。
ネロは、酷く焦った。産まれて初めて。
一度、"アレ"を見たことがある。リュクリーク王の御前にて、商人がその威力を、自慢気に披露していた。
そして、近辺を駆けていた伝令将校を引っ張り、掴み倒し
「あの丘に集まるな」
と、命ずるも…最早、遅い。
バキィ…と大木が、ひしゃげて、倒れる様な歪な音と共に、ガオンッ…と飛来音が天を突き抜け……
ホスロの天幕目掛けて、丘に殺到し、団子状態になっていた兵士達の集団に……普遍魔法やら、宮廷魔術師程度の固有魔法とは比べ物にならない程の、巨大な、そして悍ましい爆弾が落とされた。
不可避の槍である。
地面に刺さり、又は、ある兵士の胴を砕き抜き、抉った後に……ボンッ…と爆ぜた。爆ぜる度、更に周囲を蠢いていた三〜四十程の歴戦の猛者達が、冷たくなってゆく。原型も、留めぬ程に。
「撃て、撃て撃て!」
「火炎弩が熱を帯びるまで、矢が足りなくなるまで撃ち続けろッ」
その連射によって…少しずつ、少しずつ…今まで閉ざされていた、敵本陣までの肉の道が…バサリ……と開けた。続々と後方から迫って来ていた敵集団も、突然の爆撃に恐怖し、ピタッと足が止まってしまっている。
しっかりと確認すると、ガバリ…とホスロは口を開け、戦友の名を叫ぶ。
「アステルドっ、柵を捨てろ、堀を乗り越えよ……総攻撃じゃ」
「魔道士部隊は、剣に持ち替えろ、走れ、走れ!」
ダンテ側は、元より防御が薄い。それ故に、歯痒かったのだろう。公国軍の前進を認めると、勇躍し、連動する。
「はっはっは、元気が良いなぁ、ホスロ殿!」
「タウルスよ、殺せ、殺せ」
更に、足を止めた味方の兵士の首を、いきなりレイピアで、バズンッ、と切り落とし
「足を止めるなッ…止まった者は殺すぞ!」
言いつつ、自身は最前線へと躍り出、馬を縦横無尽に駆け巡らし、敵兵も裂き、頭を刺してゆく。
一方の…ネロはこの情勢を見て、激しく爪を噛む。
丘に集まっていた南方哨戒部隊が、敵の勢いに怖じ気付き…一人、また一人と逃げ腰になって行く。
……このままでは、崩れる…
「ネ、ネロ様……」
「あはっ…良いでしょう…ホスロ、私自ら……出迎えてあげます」
ドロリ…背後に、巨大な弓を顕現させた。顔中の血管を浮かべつつ、新たに生えた狼耳を、可能な限り大きくして。
ホスロも、馬上である。
『操槍』の能力で、常に自身の周囲に槍を漂わせ、飛び道具に対策すると共に、『操炎』で遠、中距離の対応を。近接戦闘は、ラヴェンナで行う。
「(おい、レマロナ、お前も出て来て戦え)」
「(口を慎めクソ餓鬼が、私を起こすな)」
最後の武器…だが、どうやら、炎樹の女王は協力的では無いらしい。
だが…鎧は新しい。故に、敵陣の、かなり深くまで、彼が選出した、三十名の近接戦闘部隊と共に切り込んで居る。
敵は…やはり、やや逃げ腰であり…このまま押せば、流れる。
(結局は、士気よ)
押せる、勝てる……
だが、そう思った矢先、少年の頭上を、巨大な…(槍か?)否、矢がゴソリ……と大気を削りつつ、掠めて行った。
「……今のは…」
「久しぶりですね、ホスロ」
「……あぁ、道理で…攻めて来た訳だ」
「はっはっは、本当に、どこまでも……お前は……邪魔をするなぁ……」
だが、突如として正面に立った、女性の姿を見て、護国卿はニィ…と笑いつつ
「リュクリークから何か貰ったんか?」
「その醜い姿は」
と、不満げに振られている……狼だか、犬だか見分けがつかない耳を持つネロを、嘲笑った。
「あらあら、チャームポイントですよ?」
そして、ふぅ…と、護国卿は、嬉しげに息を吐く。
「今までは、俺が甘かった」
「マラレル王国、一等騎士候補、ネロ・ラドリア」
ホスロの言葉を無視し、ネロは、静かに名乗った。
「俺も考えを変えたよ…ネロ」
「お前を……いんや、"マラレルを滅ぼす為に"、お前を殺す」
「今、この瞬間、俺はそう決めた」
あの日の決意を、思い出せ。そうだ、ネロを許そう。この、鬱陶しい女友達を。
「お前を許そう、私怨で殺しはしない」
「マラレルの一将軍として、君を遇する」
そして、少年も、名乗る。
「アッディーン公国、護国卿、ホスロ・サラーフ・アッディーン」
そして、燃える槍を…矢を、双方、纏う。




