第七十六話:徐々に集合小中国
__公国からドラグーンまで、エレノアの護衛のために派遣された兵は、計五百。
続いて……その内三百余人からなる前衛部隊を、ホスロはヨナタンと共に慎重に率い始めた。
なにせ、この炎樹林では、苦い思い出がある。
火草をかき分け、なぎ倒し、踏みしめて進む。
火の粉が散ろうがお構い無し。
「エレノア様」
やはり……クレアと無駄話をしつつ、暫く輿を動かせば、炎樹林の向こうより、甲冑厳しい百十数人程の集団が見えてくる。
(……あれは?)ドラグーンの民が、こんな危険地帯のど真ん中に住んでいるハズも無い。
となれば、追い剥ぎか、山賊の類なのだろうか。にしては装備が綺麗。
………それに、賊自体は珍しくはないのだが、炎樹林でこの様な職を生業にしているとは
(キンタマがデカい奴らじゃなぁ……)
(ヨナタンと共に先頭に出ておいて良かったわ)
と、ホスロは安心した。まぁどちらにせよ、いくら蛮勇を携えた連中とて、あの程度の人数であれば、止まる必要すら無かろう。前衛だけでも、こちらの三分の一以下の兵力である。
「おい、殿下、どうする」
先ほどから馬を並べていたヨナタンが更に寄せつつ、尋ねて来る。
「進めば良い」
だが、背後に連なる公国兵達の数名は、見るからに目の前の騎士達を恐れていた。
「ひるむな、歩を進めよっ」
するとヨナタンが、イラつき、咄嗟に叫んだ。
あくびをしつつ、ホスロもラヴェンナを手に取り、前方に簡易的な反魔法結界を敷いた。現在、エレノア周辺の輿を囲んでいる公国兵は、前述の三百と少し。
「若様、若様、アステルド将軍との距離が離れております、待たれよ」
だが、その前進を、ホスロの将であるゲルフが諌める。
「控えよゲルフ、待たん」
ホスロはゲルフの馬の首をドカッと蹴る。
ブルルっ……とエルフの将軍の馬は鳴いた。
アステルドの率いる後続隊。なにせ、彼らは現在、ホスロ達が居る地点よりも、三百メートル程後方の、炎樹林の沼地から抜け出している最中である。
アステルドが無能なのではない。炎樹林は入り組んでいるため、兵を小分けにしつつ進まねばならなかった。急遽呼び寄せれば、それこそ隊列を崩しつつ合流する事になるだろう。
それに、そんなに待っていては、勢いを失う。
「止まるな、止まるな、轢き殺せ」
ホスロはゲルフの提案を断り、ヨナタンは大剣をズラリ…と引きずり抜く。
「そうよゲルフ殿……そもそもあの程度、俺一人で事足りる」
「おーおー、かっこええなぁ」
「……」
「ごめんて、悪かった」
ヨナタンは、茶化されるのが嫌いらしい。
ホスロがヒューヒュー、と口笛を吹きつつ煽るのを、睨みつけて威圧する。
「エレノア様っ、暫しお待ちあれ!」
次にヨナタンは、エレノアが入っている輿に向かい叫ぶと、そのまま馬を進ませ、ほぼ単騎で敵集団に向けて突っ込んで行った。
「ヨ、ヨナタン将軍……護国卿っ、なんで止めないんですか!?」
クレアまでも心配し……緊張感の無い上司達を責めたい思いである。
「ん……まぁ、死ぬこたぁ無いじゃろな…それに、危のうなったら勝手に引くじゃろ」
「……今、我が兵達は相手を恐れている、ヨナタンが敵兵の首を二、三個程分捕ってくれば、その恐怖も薄れよう」
単独行動を取ったヨナタンを叱らず、護国卿は、野球観戦をするかのような悠長さである。
「あーほれほれ、行った行ったわ」
「おー、よぅよぅ馬術が上手いなぁ……左右に動きよる」
そして、ヨナタンは馬を強く蹴り、力強く手綱を握り、全身を躍動させ、踊り子の様にして間合いを詰めてゆく。
「いやぁ、奴らも可哀想じゃなぁ…弱いと思って喧嘩を売ったのに、相手があのヨナタンだとは___」
だが、勇躍するヨナタンの大剣が、空気を振り裂き、敵兵の喉を切り裂く寸前……ボゴォ!という音と共に。
なんと彼の巨体は、三回転ほど宙を舞って、ドサリ…と炎樹の温かい土の上に落ちたでは無いか。
直前までは、確かに目視出来ていた。ヨナタンが、確実に剣を振り切り、相手の肉まで達していたハズである。
「……え」
「え、ちょ、ちょっと待て待て待て、ヨ…ヨナタン!?」
目を二度ほど擦ったが……やはり、ホスロの視界には、「ぐ……うぅ」と大きくうめき声をあげつつ、地面に痛そうに蹲る頭鹿族の大男だけが見えている。
ホスロは、指揮官である。目の前の光景を疑うよりも、先ず指示を出す。
「ク…クレア、はよ、早う救助せんと!」
「いや、その前にアステルドに連絡を、ほれ、誰か行ってこい」
護国卿の命令に、背後に馬を寄せていたギベリンが応え、振り返りもせず、土を蹴る。
……ヨナタンがワンパンされるとは……恐らく、単純な平押しでは厳しい勝負となるだろう。
炎樹の土地に、別に慣れている訳でもない。
判断すると……すぐさま前進を止めさせ、ホスロは隊列を再度整えようとする。
すると、今度はノータイムで、ヨナタンをぶっ飛ばした甲冑集団がカッポカッポと優雅に近寄って来るでは無いか。
「近接部隊、前に!」
それに対処すべく、クレアが凛とした声で号令をかける。多少浮足立ちつつも、アッディーン騎士団、公国兵双方の近接部隊が前に張り出た。
だが、向こうは恐れを知らぬのか。一切速度を落とさない。
「護国卿、護国卿、お気をしっかり」
「……」
だが、ホスロはやはり、何度か死線をくぐっただけはある。敵集団の前進を認めると、ヨナタンの救助は諦め、すぐさま気持ちを切り替えた。
「ああ……」
「剣持部隊、構え!」
「槍隊は一歩引けい!」
上下の陣と呼ばれる、長槍を後に擁しつつ進んでいく陣形を、次にホスロは組み立てようとした。
その上下の近接部隊の背後には、当然ながら最新式の弩を持たせた部隊と、魔法部隊を備えている。
だが、相手は依然、馬に跨り、無警戒にも近付いてくる。
「一歩、進めやっ」
冷えた声で、ホスロが号令をかけると…その分だけ、前衛の部隊は前進する。
数分ほど、鼓膜が張ったような感覚が続き……そして、お互いの顔が見える距離になって、不意に護国卿は
「貴様らは何処の蛮族か、輿の上におわすお方が目に入らぬのかっ!」
そして、震えた声で叫んだ。
すると、向こうも負けじと大声で
「ホスロの坊主よ、馬鹿め、この声で分からぬか、ならば更に更に近づこうかな?」
__そうして、少年は、「あっ」と思った。
聞き覚えのある声である。
しわがれつつも、覇気のある音。
「まさか……ゼノン皇帝陛下であらせられるのか!」
「おうよ」
洒落た事をする男だ。
単なる出迎えならば、ドラグーン皇国がへりくだったような印象を与えてしまい、かと言って何の出迎えも無ければ、一応「レマナとホスロの婚姻の儀」という体面上、ドラグーン側が無礼となる。
しかし、ゼノン自体はそこまで気を配ってはいないのだろう。誰かの入れ知恵に違いない。
馬上。
龍竜人族の老人は大きく笑うと、背中の…肩甲骨の辺りからバサリ…と巨大な翼を生やし、竜の様な速度で、バッサバッサと飛翔し、ドッ…と眼前までやって来た。
「はっはっは、あの鹿男、元気よのう、良い斬撃であったわい!」
ガシガシ、とそのままホスロの頭を殴る様に撫でつつ、褒めた。
「粗相を致しました……私の落ち度です」
「良いよい、それくらい好戦的であらねば」
すると、今度は老人、何を思ったのか、そのままホスロには目もくれず……また裂くような大声で
「さて、レマナ、レマナ、何処におる、お父さんの前に姿を見せなさい」
同時に、猫なで声交じりの、やけに優しい声で呼びまわった。
「や…止めて下さい父上……その言い方は…」
すると…いや、本当に何処に隠れていたのだろうか、ブゥゥン……と突如、空間が歪んだかと思えば、ヒョコッとレマナが、その小さな姿を現したでは無いか。
(なんだ…今の地味に使えそうな魔法は……)本当に、多彩な女である。
殆ど空中から現れたまま、ドサリと着地する。
「おうおう、レマナ、レマナ、隠密の魔法の腕を上げたのぅ……会いたかったぞい!」
「いやぁ、よしよし、よぅ来たのぅ……」
ホスロと同じようにして、だが、両手でゼノンは娘の頬を撫で回す。
「あ……ははは」
だが、レマナはどうも気不味そうな顔をする。
まるで猛獣を見るかの様な瞳。
「ホスロ殿、ホスロ殿、コレが我が娘よ、よう見られい」
「ははっ」
(本当に…豪胆な人だ)
そして、そのままゼノンは、今度は天高く掲げられている輿へと目を向けた。よく動く男だ。
「エレノア殿よ、アヴェルナの末裔よ、私はここに居るぞ、どうか姿を見せられい」
「はい」
ゼノンの割れるような荒声に、清らかな声で返しつつ、エレノアは輿を上から覆っていた布の様なモノを捲り、そのまま豪快にもストン、と地面に着地し、皇帝の前に、堂々と現れる。
彼女は、きっと(レマナの父にしては……元気な人だな)と思った事だろう。
「ほぉ…立派立派、良い目を……されておる」
悪人面ではあるが、聡明そうな少女の顔を見るなり、ゼノンは嬉しそうである。
「そうですか」
「ふむ…いやはや、コレは失敬、礼がなっておらんかったな」
すると、そのまま皇帝は舌を出し、ヤレヤレと呟きながら、軽くエレノアに向かい、会釈をした。それに、少女も返す。
「初めまして、皇帝陛下」
「それで、あの子は……ヨナタンは気絶しているだけですか?」
「うむ…そうだのぅ、一刻も経てば起きるだろうよ」
更にゼノンは続けて
「ささ、エレノア殿、ドラグーンまであと少し……短い間では有るが、どうかの、世間話でも」
言いつつ、エレノアを、部下に率いて来させていた白馬に乗らせ、自身も愛馬ロロロロに跨りつつ、また進み始めた。
一方、すでに隊列は、狭い道で軽く渋滞を起こし、後続のアステルドの兵達ともぶつかり、乱れているが、二人はお構い無し。
そのような収集は、部下がするモノである。
「直れ、直れ、元の持ち場に戻れっ」
と叱咤するホスロの声を耳に入れつつ、エレノアは老人に向かい
「ゼノン殿、先に確認しておきたいのですが…南方連合の君主は、誰になる予定なのでしょうか」
「ふむ…?」
指揮権は、統一しておきたいらしい。
(最初に放つ言葉が"コレ"かこの小娘、勇気が有る)
ゼノンとしては、本当に世間話をする予定だったらしく、いつも諸外国の王達との会席で披露する持ちネタすら練習して来ていたのだが、無駄に終わった。
「まぁ、一番実戦経験の有る儂が率いるのが、良さそうではあるなぁ」
この男も、無駄な挨拶を省き、返してやった。
「なるほど」
「ふふふ……ご不満か?」
ゼノンは、青く汚れた歯を見せながら、低く笑う。
「不満です」
エレノアはソレに対し、明確に返した。
「…となれば、エレノア殿、貴殿が率いられるのか?」
この、数万は超えるであろう、南方連合の将兵達を……とドラグーン皇帝は、諭してやった。
「ゼノン殿」
「そもそも、マラレル王国はアッディーン公国の属国なのです」
「……ふむ?」
ゼノンは、急に小娘が話の腰を折ったので、不思議がったが
「それを、裏切り、主国に剣を向けたばかりか、主君の血を絶やそうとしている……」
「大義名分としては、十分でしょう?」
エレノアは、続けるに
「そうです、そもそも、ゼノン殿、貴方が大将であれば、マラレルに攻め入る口実が無いではありませんか」
「名目上は、私の方が宜しかろう」
すると、ゼノンは「なるほどな」とは言ったものの
「では、実質的には俺が率いても良いのか?」
だが、またしてもエレノアは笑いながら
「これはこれは、陛下、なんと勝手な事を申される」
「同盟は、ドラグーンだけでなく、公国、村、更にはそれより南の諸国まで参加する」
「それぞれが、己の利益のみを求めて、行動するのです」
「いざ戦になれば、いくらゼノン・ロ・タロとて完全な統御は厳しいでしょう」
「となれば一々合議して決めるのか?」
ゼノンは、(早く望みを言え)と、段々イライラして来ている。
「いえ、そもそも、この同盟に対する認識が、私と貴方では違うのかも知れない」
「誰かが盟主として率いるのでは無く………各国の代表同士、先にどれだけの取り分にしておくかだけを決め、後はそれぞれ、時期だけは統一しつつも、別々の戦線を受け持ちつつマラレルに攻め込む…と言うのはどうかな?」
「……何故だ?」
「陛下、今まで、何十もの国々が連携して、上手く行った試しがありますか?」
「あの勇者アヴェルナであっても、アヴェルナ同盟の完全な制御は出来ず、現に勇者直系の国であるアッディーン公国は、世界を征服するどころか、一地方軍閥で終わっています」
「……ふむ」
(……それもそうか、ドラグーンと一応同盟を結んでいるが、反発的な国もある)
(日も浅い多国籍軍、まぁ連携など不可能かな)
考えてみれば、統一するリスクの方が高いのかも知れない。
ゼノンは、どうやら少し納得したらしく、顎を触る。
「隣国同士であれば、戦場も近いですし、連携すれば良いでしょうが、数百里も離れている国同士であれば、利害が中々一致すまい」
しかし、おかしなモノである。エレノアは、初戦を勝つ前提なのだ。
マラレルの精兵は殆ど全て、北部戦線に回されたとは言え、南にはまだ、西洋の黒槍部隊と並び称される、南方哨戒部隊が居る。
その事を、ゼノンは懸念し
「しかし、エレノア殿、最初だけは……やはり一丸となって動こう、領土の取り分の話は、あの忌々しい哨戒部隊を四散させてからよ」
ちなみに、現在ドラグーンに向かっているのは、公国だけでなく……オアシス村。ラマ朝(マラレル南方の国家)の有力貴族の何名か、それにドラグーン以南の、マラレルから明確に『蛮民族』と目されている小中国家の数々である。
その代表達の前で無ければ、どれだけエレノアとゼノンが馬上で話し合ったとて、意味が無い。
それは双方理解している。
故に早々に切り上げると、彼らは更に馬足を速めた。
行軍中、ホスロはよく働き、倒れたヨナタンを介抱した後は、隊列が再度乱れぬように、ずっと声を荒げ、半日程苦心し、ようやくドラグーンの城壁までたどり着く。
総勢五百名。全て、最近召集した新兵でなく、マラレル公国戦争、マドラサ攻略、更にはマドラサ平定後の魔獣掃討や、サラマンダーとの戦闘など、数多の戦場をくぐって来た猛者達。
たとえマラレルでも、上位に食い込める程の実力を有している。
_____ドラグーンには、既にオアシス村の騎士団長であるダンテが到着していた。
背後に、大きな角牛人族を従えている。
一足先に皇国へと到着したホスロとヨナタン(兵の収容は部下に任せ、取り敢えずドラグーンに入城している)は、戦友を目にし、馬を降りつつダンテの頭や肩を軽く叩いた
「流石は騎士団長殿、お早い到着で」
「うむ、村に居たら仕事が多いからな、正直外に出ている方が、気が楽なのだ」
「はっはっは、病院騎士団員達が(オアシス村の常備兵)が泣くぞ」
ヨナタンが、疲れた声でからかう。
「………おや、所で、左衛門尉は、何処に居るん?」
そう言えば、いつも影のようにして、ダンテの隣に侍っている女が見当たらない。外出となれば、ダンテとセットというのが普通のハズだ。
「尉は今日は外せぬ用事があってな…代わりに、ほれ、タウルスよ」
「ほれ」と、ダンテは背後の角牛人族に声を掛ける。
言われるがままに、視線を移すと………なるほど、身長は五メートルを越え、肩の筋肉は山のようであり、ゴツゴツとした男だ。護衛には良いだろう。
両手に、錆びた大斧を持っている。ミノタウロスの模範の様な風貌であり、両目は殆ど閉じていた。
目が悪い代わりに、角で索敵を行うのだそうな。
「騎士団一の、力持ちよ」
「ダンチョウ……目の前の……オトコ…殺すべきか?」
「……」
「ま、まぁ…その、少し気が荒い所もあるが、仲良くしてやってくれ」
その言葉に、ホスロは頷き
「タ…タウルス…だったかな、良い肉体をしとるなぁ……は、はっはっは、頼もしいのぅ…」
「オマエ……良い……匂い」
「………」
(下手な事を喋ったら頭握りつぶされそう……)
常時不気味な圧を放っている。
それも、恐らく雑な魔力強化のみの圧。
きっと、素の身体能力が異常なのだろう。なんでも、成熟していないミノタウロスでも、小竜くらいなら引き裂き殺せるらしい。
「…エレノア様は未だ到着されておらんのか?」
ダンテは、ふと、遠くの山の方を見つつホスロに聞いた。
「いんや、もう着いとる」
「そうか……」
すると、少しダンテは低い声となり
「ホスロ殿よ、此度の同盟、恐らく…盟主は誰になると思う?」
これに、ヨナタンが驚きつつ、単眼をバチバチと開けたり閉じたりしながら
「待て待て、何を申すか、盟主はエレノア様以外には、有り得んだろう」
「……」
戦友の言葉に、ホスロは、賛成しない。
僅か十四、五の少女が、歴戦の猛者どもを率いて行けるとは到底思えぬ。
「まぁ、ゼノンだろうな」
そう、きっぱりと言い切る。
「オアシス村も、公国も、更には南方の小国家群も、有名な君主と言えば……誰も居らんだろう?」
ダンテも、賛成らしい。
「それで良い、ホスロ殿、君がその考えで居てくれて良かったよ」
ダンテとしては、ホスロが猛り、自分の主、エレノアを猛烈に推せばどうしようか…とでも考えていたらしい。
「殿下、殿下、しかしまぁ…その前に、そもそも君はレマナ殿と契りを交わしに来たのだ、忘れて、喜べ」
「……あぁ」
そんな事もあったな、とホスロは合点し、わざとらしく破顔した。
(そう言えば…道中も、レマナと会話をしなかったな)
実感が沸かない。興奮もしない。
有るのは義務感だけである。
きっと、レマナもソレは同じなのだろう。
(あぁ…辛い、苦しい)
この気持ちを、盛大にぶちまけ、あらゆる呪縛から解放され、何の憂いもなくただの将としてマラレルと戦えれば、どんなに嬉しいことか。
途端に、あの魔女が、レマナが恐ろしく感じてきた。
「ホスロ殿、式場は皇国の広場だ、さぁさぁ、お先に向かい給え」
「簡易の式なれど、ドラグーン皇帝の面前、名誉な事よ」
今は、ダンテのセリフすら、気持ち悪く感じた。




