第六十五話:お目通り
ギィん!ギン!
と、鋼と鋼の薄い部分同士で叩き合い、こすれ合う摩擦音が、だだっ広い平原で鳴っている。
草が平均して、三センチ位の高さしか無い、見晴らしの良い草原。
おまけに、その生い茂る草の根元に埋まる、肥沃な土を蹴る音。ビュン!と風を切る音もソレに付随する。
「ホスロ様!相変わらず!近接が弱いですねッ!!」
「……くそッ」
サイエンとホスロである。二人は今、日課の鍛錬中らしい。
だと言うのに、ホスロは不快そうに顔を歪め…目の前の少女のみが、一方的にハツラツと笑っている。紫髪の、可憐な女性である。物理攻撃耐性が付与された薄鎧を着込んで居るものの、随分と速い。
ホスロが対照的に、半裸のクセして動きが遅い為、より際立っている。
「こんの……貰っッたぁぁ!!」
ホスロは言いつつ、ザザッと手をつき低姿勢になって、体を回転させつつ、サイエンに足を引っ掛け体勢を崩し、びゅ!と剣を水平に振った…が、そんな少年の渾身の一撃は、いとも容易く軽々と避けられ、逆に腹に回し蹴りを貰い、空中で二回転程横に高速で回った後に、ぼふっと地面に仰向けに倒れた。
「はぁ…はぁ………気晴らしには…ホンマ…エエな」
顔は笑っていないが、本人はスッキリしているらしい。偶にこの男には、こういう時がある。何を思っているのか、読めぬ時が。
「ホスロ様…強くなりましたね」
「世辞を言うな、お前なら素手でも勝てるがな」
雨が降ろうと、風が巻き荒れようと…ソレこそ、血なまぐさい会議の後でも、二人は稽古に励んでいる。何かに取り憑かれた様に、狂気じみたストイックさは、全て…ライオリックに成るためであった。
「そうそうホスロ様、最近盗賊が減ったらしいですよ」
「……そか」
鍛錬後。服を着替え、帰宅途中、サイエンは笑顔でホスロに喋りかける。この瞬間が、少女にとっては至福の時間らしい。証拠として、いつも目が酔ったように虚ろでいて、そして顔が赤い。
だが、こんなに純粋無垢に盗賊の話題を出すとは……この娘は、その、例の盗賊がどうして減ったのかすら分からず、知らされて居ないのだろう。皆、ホスロの私兵として吸収されたとは、これっぽっちにも思わぬのだろう。
ホスロは、サイエンの心に触れるうちに、ふと思い始める。この純粋な娘は、どうしてこんな…真っ黒な自分を気に入っているのか。
ネロの様に異常な愛と庇護欲でも無ければ、レマナのように弟子に対する温情でも無く、はたまたラヴェンナのように主従の恩義が有るわけでもない。
この娘にとって見れば、自分など(家出して来たお坊ちゃん)としか映らないはずであり、事実、村ではそうであった。
やはり疑問に思い、話をぶつ切り、ホスロは尋ねた。
「なぁサイエン」
「はい」
「お前は何で、俺を気にかけるん?」
「何故…俺の屋敷に好き好んで泊まるんだ」
「……はて」
唐突な質問に、鳩が豆鉄砲を食らった様に、サイエンは一瞬固まったが。
「村での貴方に、惚れたからですよ」
ここだけ恥ずかしがらず、その狼の様な瞳でキッパリと言い切った。
「惚れる理由が無いがな」
「あります」
どんな…と、ホスロが意地悪く言い返す前に
「貴方は熱い人です、情熱が絶えず満ちており……そして他人に優しい」
「はっ、優しゅう無いわ、馬鹿を言うな」
するとサイエンは、困ったように笑いつつ
「ふふっ……優しく無い人が、どうして村で教師まがいの事をしていたのですか?」
ソレも無償で。と、逆に意地悪そうに聞いた。
何の見返りもなく、子供たちに魔術指導をしていた事は、事実なのである。そしてホスロは、他の教師のように自分の秘技を隠さず、丁寧に教えていた。
「……チッ」
「そんな優しいホスロ様……コレからも、貴方の屋敷に居候しても宜しいでしょうか?」
「…勝手にしろや」
突き放す様にこの男は言うが、実はホスロ邸で二番目に大きな部屋と、武器庫に入る権限をサイエンに与えているのも事実である。
______
「で、クレアよ、やっぱ仲間は必要よな」
鍛錬の後は、いつもホスロは彼の懐刀を部屋に呼び込み、今後の会話をする。毎夜毎夜、飽きもせず。
「公国だけでマラレルに勝てると思ってらっしゃるならば、要りませんけどね……まぁ勿論そうなれば私は逃げますけど」
基本的に、ホスロに休みはない。
こうしてクレアと次の動きについて話し合うのも日課になってきた。
しかし…なんというか。公国の脳みそが、この二人の話し合いだけで終わってしまっているという事実は悲しい事だろう。されど、議会が既に形式的なモノであると認知させてしまった以上、こうするより他はあるまい。
尤も、二人の会話は謀議というレベルで収まっているため、正式に実行するにはエレノアの許可は必須となる。
「オアシス村は、恐らく加勢する」
「アソコは昔からマラレル教圏の国々と領土問題を起こしてるけん、俺等がマラレルに対して挙兵すれば、尾を振って加わるじゃろ」
「なるほど…となれば、村や公国より更に南の……龍竜人族が多く住む、ドラグーン皇国が良いかと思いますね」
「この国は近隣の諸国の長…取りまとめ役のような存在であり、兵は勁く資源も豊富です」
「……なるほど、で、その皇国は、利で動くか?」
「…ふ…む?」
「利じゃ」
餌を用意すれば味方してくれるか、とホスロは問うた。この少年には、一か零しか無い。味方となるか、敵となるか。義で動くか、利で動くか。単純であり、冷淡であった。
「さぁ……しかし、確実にドラグーン皇国は、マラレルに対して好印象を抱いてはいないでしょう」
「何故分かる」
「何故って…そりゃ、マラレルが人間族以外を蛮族として、排斥しているからですよ」
そう言えばそうであったな、とホスロはふむふむと合点した。
だが、ソレと、公国と同盟を結んでくれるかどうかは別である。
「行くか、皇国に」
「…卿御自身が?」
「……あぁ、いや、まぁオアシス村の騎士団長のダンテと、アステルド、ヨナタンの両将軍も連れて行く…ソレと何人かの公国兵もな」
…この男は、彼等を信頼し過ぎてや居ないだろうか、まるで兄を頼るかの様な気軽さである。
「確かにオアシス村の代表と、公国の最高指揮官三名で向かえばそれ相応の対応はしてくれるでしょうけど……あの会議の後ですし、彼等を…流石に誘いずらいでしょう?」
「いんや?」
ホスロはどうも、鉄の面を持っている様である。
この後深夜にも関わらず、エレノアの屋敷(居城)に押しかけ。
「エレノア様、急遽…ドラグーン皇国へ行って参ります」
当然、玉座の上の、純銀の髪を持つ少女は驚きつつ
「何をしに?」
「マラレルが攻めてきた時に備えて、軍事同盟を持ち掛けに行こうかと」
ここで、エレノアはふむぅ、と思案した。
(一応、名ばかりでは有るが、公国貴族にも尋ねたほうが良いのか)と。
しかし、少女は聡明であり、ソレでいて狡猾であった。先の考えをすぐに取り払い
「なるほど……ただし護国卿…此度は正式な使者としてでは無いのですよね?」
書状も今からでは書けるはずが無い上に、マトモな品も用意していない。と、続けて言った。
「……はい」
ホスロは急にビンタを食らった様な顔となる。
「そう、そうですよね、ならば宜しい…行ってきなさい」
(どうせ追い返されて終わる)
正式な使者で無いならば、要はただの観光客である。いや、ソレは言い過ぎかも知れないが、兎に角、軍事同盟など結べる筈もない。
ホスロとしては、この後数日掛けてエレノアを説得し、皇国への書状を書いて貰う予定であったが…宛が外れた、と言うよりもエレノアの慎重さに驚いたと言った風である。
エレノアがこの様な態度を決め込む以上、無理やり筆を取らせる訳にも、偽手紙を書くわけにも行かない。ソレだけは、自分の正義感が許さぬのだ。
エレノアは…誰に似たのだろう、そう言うホスロの、自分に対する尊敬の念を敏感に感じ取り、利用した。アッディーンの血には、そういう、何処か…ずる賢い性格が混じっているのだろうか。
__結果としてホスロはハシゴの一部を降ろされる形となったが、それでも行くこと自体を否定された訳では無いため、帰宅後、すぐに自分の私兵団から二十名だけを引き抜き、遠征の準備をさせ、もう一方では、ヨナタンとアステルドに付いてきて貰うように頼んだ。
頼み方はこの少年らしく、簡潔である。
「使いとして一緒に来てくれや」と。
不思議な事に、ヨナタンもアステルドも「エレノア様に許可は取ったのか」等の小言を言うだけで、ホスロの頼みを断らない。
一応護国卿と、公国将では形式的な立場上では同等なので断れる筈なのだが……やはりホスロには、魅力に近い何かが、人誑しな所があるのだろうか。
「全く青二才も…短気だな」
「いや、会議の時ははしゃぎ過ぎたわ、多少反省はしとる」
アステルドは年長のため、ホスロの気持ちが少し分かるのだろう。前と同じように迎えてくれた。
が、ヨナタンは尚もホスロに対してモヤモヤが有るらしく、頼みに行ったとき、あまり喋ってくれず…
出たセリフと言えば
「殿下よ…俺は言ったハズだ、会議はエレノア様に賛同する為のモノだと」
「……分かってくれや、ヨナタン」
「今は恐怖でも、暴力でもなんでもエエ、公国を兎に角一つの機械にせねば」
「…アステルドがなぁなぁで終わらしても、俺は何度でも言うぞ……この、嘘つき男めが、だから金玉が小さいのだよ」
「うるさい!平均くらい有るわッ!」
何故この鹿男はいつもいつも一言多いのだろう。
それに、エレノアを思う気持ちは内心、公国の人々と同じか、ソレ以上あると自負している。
先の議会も、彼女を…公国を守る為に開いたのだと、ホスロは自分に言い聞かせている。少年は、逆賊の汚名を着せられることを、実は誰よりも恐れている。英雄らしい歴史を望むらしい。
そんな器の小ささと反比例するように、彼の実務能力は見事である。
僅か二日で皇国に送る品定めを終わらせると、麾下の将兵達全員の準備を完了させた。
____
ホスロ護国卿、ヨナタン、アステルド将軍に加え、二十名の公国兵の行列は…予定通り、先ずはオアシス村へと向かった。
正式な外交団でない以上、ダンテが付いてきてくれなくとも、村の高官の一人くらい寄越してくれるだろうと、高を括っている。やはり神経は図太い。
「見ろ、青二才、ダンテ騎士団長殿の豪華絢爛なお屋敷だ」
「…なんか、更にダサくなっとるな………」
村に着き、見てみれば…彼の屋敷は変な装飾が増えており、ゴテゴテと光っていた。
村までの外道は綺麗に整備されているのに、彼の屋敷だけは、異様にごちゃごちゃとしており、浮いている。
村の守護者だから、と言うのは良いが、金の使いすぎは感心せぬな、と後方でヨナタンは嘆息した。
「ヤレヤレ…言いたい放題言ってくれるでは無いか、ソレで、こんな真っ昼間にやって来て用件はなんだ?」
急に背後からスカした声が聞こえたので、全力で柄に手を当てつつ振り返ると、騎士団長が立っていた。ポニーテールの、鋭い目つきの。
「やぁホスロ殿、相変わらず魔力探知がガバガバだなぁ」
ニヤニヤと、何時もの様に腹の立つ顔をする男である。が、ホスロは感情を伏せ、時間もないので率直に言った。
「ドラグーン皇国に一緒に付いてきて欲しい」
「……ん?」
「いや、だから、近々マラレルが攻めて来るかも知れんじゃろ、じゃけんその時一緒に戦う仲間が欲しいんよ」
「付いて来てや」
「貴殿の国と、我が公国だけでは心細いけんなぁ」
瞬く間に、騎士団長、ダンテ・メフメルの頭にいくつかのハテナマークが浮かぶ。
「待て待て、何故村と公国が同盟を組む前提なのだ…ソレに……ドラグーン皇国に行くのか、今から?」
すると、ホスロは驚きつつ、なだめつつ
「逆に貴殿…いや、ダンテ殿は、マラレルが公国だけを潰してすごすごと国に帰るハズだ、とお思いなのか、当然、オアシス村も潰すだろうさ」
「その為に、ここは近隣の国々で同盟を作り、共に…いずれ侵攻してくるであろうマラレルに備えようではないか!とな」
「ソレにな…」
説明しつつ、ホスロはダンテに近付いていき
「逆にマラレルに勝ち、軍を追い払い、コチラが進軍し、マラレル教圏国家を蹂躙してゆく暁には、村と隣接している国々を、全て取っても良いぞ」
「……」
「どうじゃ、どうせ村単独では落とせん国々じゃろ」
「北のニクスキオン朝が再び侵攻する時に、南方諸国連合で攻め込めば、やすやすと取れよう」
「……まぁ、確かにな」
ホスロの大まかな計画では、北のニクスキオン王朝と、コレから結成予定である南方諸国との連合でマラレルを挟みうちにするらしい。
何度か発生するであろう大国同士の戦争に乗じて、小竜の如く背後から襲うのだ。
「良かろう、乗ったわ」
「となれば…ドラグーン皇国への貢物は、当然用意していたのだろうな?」
「……う…む」
ホスロは後ろを振り返り、手を振ってお供の騎士の一人を呼び寄せ、二、三台の荷車を見せ…加えて、自分の懐に手を突っ込み、ゴソゴソと何かを取り出した。
「あれらの品々に加えて…ほれ、これじゃ」
「……ペンダント…か?」
こんな小さなモノを加えるとは……蛇足になるだろう、と注意というか、呆れかけていたが、見るうちにその感情も止んだ。
「…いや、聖還の宝珠か」
聖遺物(古代の偉人が魔力を込めて生成した、姿形が永遠に変わらぬ魔道具の事)の一種であり、ホスロがパンドラの箱と名付けた、マドラサの禁読書から持ってきた(ほぼ盗んで来た)代物である。
聖環の宝珠。
製作者は初代勇者の供であったリュクリーク1世であり、触れば人を惑わす効果がある。
ソレは甘い幻覚であり、永遠の癒しである。
数多の心を壊した人間がコレに触れ、希望を取り戻した。ソレは儚くも、確かな夢となった。
……決して戦争などの役に立つモノでは無いが、欲しがる者は上下問わず多い。
故に、百の武器宝石を送るより、この宝珠一つのほうが、余程価値自体は高いだろう。
「良く持っていたな、公国の家宝か?」
「いや、マドラサの図書館にあった」
「触ったのか?」
宝珠を目の前にして、ダンテはいきなり興味を持ち始め、目が大きくなる。
「まぁ…そりゃ触った…けど、あまり……というか、何も感じんかったな」
「野望があるからだろう」
今度はヨナタンが、トゲトゲしい口調で横から割り込む。角の生えた黒馬に乗りつつ、不機嫌そうである。
「ふむ、ヨナタン殿の申す通りかもな、ホスロ殿、貴殿は確かに、何か成し遂げたい様な、青い目をしている」
そういう人間には、効果なんてあるはず無いな
と、またいつものようにスカした感じに戻った。
「よしよし、暇だし…皇国まで付いていってやろう……俺も…同盟を組むのであれば、同席したいしな」
(ダンテは……村長たちに伝えんでエエんかな?)
とは一瞬思ったが、聞くのを止めた。自分と重ねる様で、怖かったのだろうか。
何はともあれ、そうしてホスロは、ダンテという少々高級な案内役を手に入れた後に、ドラグーン皇国への正式な移動を開始した。
ヴォルセリア公国議会から、僅か十日後の事である。
______
「ホスロ殿、気を付けろよ、ドラグーン皇国までの道中は龍が良く出る」
全く…道中、よく喋る男である。だが、この報告は聞き逃すわけには行かぬ。重要な事だ。
「…左衛門尉は?あの人は連れてこんかったんか」
「いや、ピッタリ俺の後ろに居るぞ」
見れば、影のようにして傘を被った少女が、ダンテの背後に付いている。と言うか、同じ馬に二人乗りしていた。
ソレを、無礼な!と叱りつけない訳だから、ダンテはとことん身内に甘い。ホスロも人の事を言えぬが。
「じゃああんまり気を付ける必要は無いがな、出ても君一人で十分じゃろ」
ホスロはそんな、無口で無表情な黒髪の少女を見つつ言うが
「殿下、俺達二人がかりでも蛇蛇蛇龍に殺されかけたのを忘れたか」
ヨナタンが煩わしそうに、右から否定する。
「あの時は王族の如き火力を持つゲラマド老人が居たお陰で何とかなったが、左衛門尉殿では力不足だろうよ」
少女も否定せず、俯く。
__行列は、深い炎樹林の中を騎乗し、進んでいる。
炎樹林。太古の昔から存在する森で、熱気が常に漂い、草木は火の粉を纏っている。炎樹と呼ばれる植物は、炎を吸い込み、そして蓄える。花開くときに、花粉と共に火の粉を散らすのだ。
ドラグーン皇国は、そんな危険な炎熱地帯を抜けた先の、更に熱い、冷えた溶岩地帯のど真ん中に有る。この先、注意が必要だろう。安全に進まねば。
恐ろしい程深く、そして暗く赤い森。唯一、木の葉を微かに通る白い光が救いであった。
ガサガサ…ガサガサ!
と、実は先程から草木が揺れ、火を吹いていた。
「青二才よ、怖いのか」
揺れるたびに警戒するホスロを見て、アステルドが呆れたように聞いて来るので、少年は面倒くさそうに黙る。
ひたすらに熱く、そしてヌチャヌチャとした地面。泥岩が熱で解けているせいだ。
一応、部下達含めた全員、耐熱の結界を張っているため熱さはあまり感じず、進行速度も一定である。
「なぁに、この辺は出ても中型以下の小竜しか居らぬ、それに、この戦力ならば、ソレこそグリフォンの様な神獣級でも出ぬ限り……」
だが、フラグの様なセリフを黒狐の騎士が放った瞬間、待ち構えた様にして巨大な音が鳴り、火の渦が前方で巻き上がった。
ドンッ!!
と、波動が森に木霊すと同時に、龍の様な…だが、翼が生えておらず、トカゲの化け物の様な生き物が、横木を切り裂き、燃やしつつ、飛んできた。
「ほぅ……小僧ら、妾の領域に…よくもズカズカと」
姿を現し……更に良く見れば、真っ赤な瞳の、竜と少女が混ざった様な見た目では有る…絶えず体中から煮えたぎるような炎が零れ落ち、地面に付いては火柱を上げている。
「……炎(炎樹)の精霊…!」
ヨナタンが言いつつ、一瞬たじろぐが、ホスロがまだ剣を抜くなと止める。
(……グリフォンよりは格下じゃけど…こんな、よりにもよって…炎樹の中で出くわすとは……!!)
炎樹の森は、精霊の住処でもあった。
そう。太古の昔、この森を作った張本人は、炎樹の精霊と名付けられ畏怖されている。
「コレはコレは…炎の女王様、初めまして…遥か北に位置する公国の主、エレノアの家臣である、ホスロ・アッディーンと申します」
「申し訳御座いません…まさかドラグーン皇国へと通ずるこの炎樹林が、貴方様の領域であったとはつゆ知らず……」
「小僧、小僧、良いよい」
「…?」
何が良いのだ、と、ホスロは相手の機嫌を損ねる訳にも行かぬため、じっくりと…ポタ…ポタ……と小さく汗を流しながら耳を傾ける。
「いくら貴様らが命乞いをしようとも…数年ぶりに養分がやって来たのだ、逃しはしないさ」
「……あ…らぁ………こ、交渉決裂みたいじゃなぁ…」
急いで、血相を変えてバッ!と後ろを見ると、既に全員が剣を抜いていた。
(炎樹の女王相手に…何人生き残れるやら)
ホスロの苦労は、本当に絶えない。




