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第二十四話:ワーカーホリック蛮征将軍


「どうじゃ、ライオリック!!」


「俺の…ラヴェンナの魔法は!」


ホスロは『ラヴェンナ』の残存魔力を全て使い切る勢いで、膨大な量の火炎を発生させ、自身に纏い、ライオリック自身にも無理やり纏わせ燃やしている。

アルブレッド戦ですら杖の魔力が全回復するのに三日は掛かった、本当に、ホスロはこの勝負でライオリックを殺すつもりなのだろう。もう、後は無い。


渾身の魔力をふるい、一面を焼き払う。

燎原の火。


「ホス君…若将軍の相手は任せたよ……私は」


ヤレヤレ、と言った表情でホスロを見つつ、レマナも正面の敵と向き合い、小杖を構える。

先程から指揮を採っていた一等宮廷魔術師の男だ。

額に大きなキズが有り、目つきが鋭い。一目で歴戦の猛者と分かる…そんな風貌。


「蛮征騎士ライオリックが配下、一等宮廷魔術師…ウルク」


「ホロロセルス・サラーフ・アッディーンが家臣、魔道士レマナ」


お互い名乗り、固有能力を全開にしてゆく。


「頼むぞ、ウルクよ」


「お任せ下され殿下…それに…貴方こそ連戦で消耗しておいでです、どうか無理されぬ様に」


ライオリックはホスロの火炎を織り交ぜた斬撃やら、槍での刺突を剣で弾き飛ばしながら心配そうに片目で見ながら言った。


「お前の…相手は俺じゃ、余所見すんなや!!」


一瞬顔を背けたせいだろう、バキッと鈍い音がし、ホスロの信仰の剣がライオリックのゴツゴツと背の割に鍛え上げられ、角張った右の太腕を鎧の上からバサリと切り飛ばす。


だが、ライオリックは当たり前の様に涼しい顔でギュルギュルと切り口を塞ぎ、即座に新たな腕を生やした。


「……」


「だから、獅子心ライオンハートの前では攻撃など__」


「嘘じゃろう」


「そうじゃろう?、なぁ」


ホスロは全身を燃やし、火柱を立ち昇らせながらビシッと指を指して推理を始める。

彼には確信がある様で


「魔力消耗がゼロの再生を常時行うっていう、あの日のお前の言葉は正しい…じゃけど、"再生回数"には限界があるんじゃ無いんか?」


「……」


「じゃないと、態々俺の火炎や斬撃を避ける必要はない…そのまま突っ切って首を取りゃエエ話じゃし」


「あの日の試験会場は不殺の結界が貼られとったお陰で、俺の攻撃は無意識的に心臓や脳天とかの急所を外れる……じゃけど、ここは戦場じゃで」


「いくらでもお前のドタマをぶち抜ける」


そう、彼には確信がある。

冷静に考えれば、デメリットが完全に無い魔法など存在しない為である。普遍魔法だって、長い詠唱時間と引き換えに威力を上げ、ホスロの『纏尽炎ホムラマトイ』だって、己の魔力が空になるまで発動し続ける。

莫大な馬力や再生力を生み出す力は、何かを代償にせねば成立しないハズ。


「…それは……ふむ…」


ホスロの輝く眼を見て、ライオリックは不満そうに頬をピクッと、その年齢相応に強張らせると全速でホスロに切りかかってゆく。速い。


(恐らく…腕や足くらいじゃ"再生回数の上限"に引っ掛からん……狙うは、心臓か脳…!)


種明かしが当たれば、ある程度……突っ込んで来る事は予想していたのだろう。待ってましたとばかりにホスロは地中に展開しておいた五本槍を開放して、地面からボコボコ…と音を立てながらライオリックの心臓目掛けて発射した。


とっさの下からの攻撃に対応出来ずに、ライオリックは体を硬直させた。

当然、ドドドッと内二本程が彼の左胸に深々と突き刺さり


「ウッ!」


と鋭いうめき声が上がる。


「カッ…クックックック……やっぱりなぁ……回数上限まで殺しちゃるわ」


「うわぁ…ホス君、どっちが悪役なのやら……」


レマナは『光』の普遍魔法で壁を、『土』の普遍魔法で自身の足場を固め、高くして攻撃が届かない絶壁から『操火雫』で攻撃を繰り出している。

まるで土で作った城のよう。


「卑怯な……!」


ウルクは絞る様な声を出しながら睨むが


「生憎、魔道士なモンで…汚い手は十八番だよ」


レマナはニヤニヤと笑いかけながら、即死級の火の玉や雷を織り交ぜた玉を投げ下ろして行っている。

落下し、着弾する度にウルクと共にレマナを土城から引摺り下ろそうと、駆け回っていた兵士の肉体が爆ぜて行く。


「大丈夫か、早う部下に加勢せんと、あのままじゃジワジワ削られて殺されるで?」


「黙れ」


一方のホスロとライオリックも剣を何度もぶつけ、火花を散らしている。お互いの刃がこぼれ、すり減る程にかち合う。


ホスロにとって最も恐れるのが、纏尽炎が魔力を吸い付くし、戦闘不能になるまでいなされる事であった…が、彼の部下が苦戦し続けている以上、一刻も早く自分を始末して加勢したいハズ。

焦って真正面から向かって来てくれる今がチャンスだ。


ホスロは引き付けては操槍で反撃し、引いたら自分から突撃して刺突する。流れ作業の様な美しいパターンを先程から展開していた。

その流れに一切の乱れは無く、機械的とさえ取れる。


勿論、当のライオリックにとってはたまったモノではない。とにかく早く公国王都『カーヒラ』を落とす為、彼が率いて来た兵数は二千人程。

それ故コンスノープルに来るまでに、囲まれ、ほぼ単独で敵部隊を相手取る場面が多かった。

長旅と連戦による疲労は既にドロンと溜まっており、獅子心もほぼブッ通しで発動させて来たため、正直ホスロ程度の術者相手でもかなり手間取ってしまう。


ライオリックとしてはあの日の試験で少し認めたが、それでも自分がこんな格下の男といつまでも剣を交えているという事実が、何よりも耐え難く、苦しい。

ただただ、一刻も、一刻も早くこの場を…コンスノープルから出て前進したい。


(クソっ……こんな所で足止めを食らっている場合では……)


「こんな…、こんな所で……油を売ってる暇など……無いんだよ!」


焦り、叫ぶと、彼は自身の頭上に巨大なポータルを張った。

レマナが以前に地面に設置した小さな簡易ポータルとは次元が違うような出来栄えである。

キレイな円の形をしており、大きさが一切変化せず、ブレない。


「物体に接続せず…空中に直接ポータルを顕現するとは……」


レマナは土城の上からソレを眺めて、思わずハハッと呆れ、乾いた笑いを放った。

魔術を習って何十年…毎日努力を重ね、正直自分よりも優れた術者は師であるゲラマドか王族クラスしか居ないと思っていたが、それはどうやら思い上がりであったらしい。


そして、紫色にホワンと揺れ、広がるポータルから、ゾロゾロと六人の魔術師の群れが降り立ち始める。全員真っ黒な騎士服の上に、暗殺者や刺客が着る様な軽いマントを頭から被っていた。


「獅子騎士団、参上しました……殿下、ご命令を」


「眼の前の男を生け捕りに、土櫓の上から魔法を放っている魔道士は殺せ」


「ハッ」


獅子騎士団、ライオリックの直属の部下達で結成された部隊で、マラレルの伯以上の貴族は大体こういう自前の部隊を持っている(ホスロの生家ではオドアケルが長を努めていたアッディーン騎士団など)


「……おい、逃げるんか、ライオリック」


「あぁ、こんな所で無理に消耗する必要は無いからな、まだまだカーヒラまで遠い」


「ケッ、なら…俺の勝ちじゃわ」


「………どうとでも言え」


ライオリックは目をピクッと動かし、首の血管を浮かび上がらせながら、オールバックの髪を撫で、整えながら去ってゆく。余程癪に障ったのだろう、姿が見えなくなるまで一瞥もしなかった。


「ウルク様も、後は我らにお任せ下され」


「すまぬ」


レマナの玉を躱しながら弩で反撃を繰り返していたウルクも、ここで戦線を離脱する。どうやらライオリックの部隊は本格的にコンスノープルから去り、このまま公国王都へと向かうらしい。

そして、代わりに元気一杯の、六人もの新品の猛者が戦場に補充される。


六人全員がただならぬオーラを放ち、動きに一分の隙も無い。


「魔道士レマナ並びにホスロ・アッディーン、もう、大人しく投降せよ、最早公国の命運は定まっている」


そして内一人が進み出て、勇ましく、よく通る声で降伏を呼び掛けた。


「それがどうしたんだい、コンスノープルの街が有る限り私は__」


「その、貴様が守るべき街も…今から崩壊する」


「殿下は二千名の兵士の内、麾下の千四百騎だけを引き連れて王都を襲撃する……当然、コンスノープル占領には六百名程の兵士が残り……一面、街全体の"掃除"を頑張るのさ」


「ハッ、馬鹿だねぇ……そんな事、私以外のコンスノープルに駐屯している研究者達が許すわけ……」


「コイツらの事か?」


言うと、男はゴソゴソと騎士服のポケットから様々な色取りみどりのペンダントを取り出すと、バラッと無造作に、乱雑に地面に放り投げた。

遠くからでも肉眼で確認出来るほど、光り輝くペンダント……それは、公国公認の研究者に渡される証である。


「……ペラフ…ララトト………ミラレ……クリュトン……」


レマナは少し絶望した表情で、呆然として同僚達の残骸を眺める。


「アイツラ、確かに魔法は強力だったが、如何せん近接に弱すぎだろ、市民を盾にして近づいたら何も出来ずに串刺しになって死んだぜ」


あ、精神も弱かったな、とヘラヘラと馬鹿にして手を振って煽った。


言うに及ばず、聞きながら、レマナは無言の怒りが湧く。それはアッディーン公から託されたこの街を守れぬ事が決まってしまった事への自責の念であり…なにより眼の前の男達の悪辣さに対してであった。


「もう一度言う、魔道士レマナ、ここにはお前の守るべきモノなど何も無い」


「それを……」


「それを…今…奪ったのは……君達だろう」


レマナは静かに怒りを露にしながら、巨大な火炎を生み出し、ドバッと滝の様に土城から落とした。

それを目視し、彼女の攻撃に呼応するように、ホスロも全力を振り絞ってラヴェンナを振ると


「『練火薬』」


と唱え、莫大な量の液状の炎を自身の周囲に飛び散らせ、洪水の様に騎士達目掛けて放った。

レマナの炎の雫と、ホスロの溶岩の津波の如き質量攻撃は相乗し、地面を溶かして抉る程の火力の塊となって広範囲を飲み込む。


それだけで、反応出来ずに三人が溺れ、焼き尽くされた。


「一時退避」


だが、流石はライオリック子飼いの軍人、冷静である。仲間の半数を失っても顔色一つ変えずに指令を出してゆく。

驚くべき早さで『影』の魔法で何十にも壁を張り、炎を遅らせる間に今度は『霧』の魔法を放ち、一面に濃霧を籠もらせた。


『霧』はかなりの練度であり、生半可な小規模な魔法では意味が無さそうな程に深い。


「ホス君、一回私達も炎をストップしよう、魔力の無駄遣いになる」


「ぐっ……ゴボッ……はぁ……了解…」


ラヴェンナを剣に切り替えると鼻血を出し、口からも血反吐を吐くホスロを見かねて、咄嗟にレマナは諭した。


(私ももう六分の一程しか魔力が残ってない……)


次の大魔法で勝負を決める他なく、レマナは正直に顔が真っ青になる。


ホスロもホスロで、唯一の打開策としては全方位への強力な魔法攻撃…だが、彼はどうも出来そうもなかった。

纏尽炎を発動させ続けてきた為、魔力はほぼカラである。


が、突然キュイキュイ、と少年の腰袋が妖しく光始めたでは無いか、もしや……


「こんな…時に……良かったなぁ占い師さん…作っといて」


「レマロナ」と呼ぶと、もう一度、キュイ、と鳴きながら、今度こそホスロの腰袋から精霊が出て来た。

そのまま肺付近に近寄ると、ビビビ……と魔力を供給する。ほんのりと胸が暖かくもなる。


「ふぅぅ……もう大丈夫じゃ有難う…戻りんちゃい」


「運が良いねぇホス君よ、さて、これで……」


思う存分大魔法が行使できると、レマナはちょっぴりと虚しそうに意気込んだ。


「君は残った魔力で全力の検知を行ってくれ、そして、敵が私とホス君を中心に半径五十メートル程の距離まで近づいたら、ポンポンと肩を叩いて私に教えなさい」


言い終えるとレマナは地面にガリガリと、テキパキ小杖で魔法陣を描いてゆく。

そんな彼女を傍らに、ホスロも集中して座り、言われた通りに魔力検知で周囲の状況を読み込んで行く。

すると、敵はクルクルと、大体ホスロ達が居るであろう場所を中心に、一定の距離を保ちながら回っているではないか。恐らく、こちらが大規模な魔法を打って、霧が晴れる寸前に近寄り、刺し殺すつもりなのだろう。ここは一芝居打つしかあるまい。

少年は敵を誘う様に、「火よ満ちよ」と唱え、小さな火球をボンッと上空でわざと、アリアリと見える様に爆ぜさせた。


今まで正確な位置が分からず、回っていた黒服の騎士達が、隊列を再編成し、面白い様にザッザッザッと三人で綺麗な包囲陣を展開しながら近づいてくる。


(百四十メートル……百八メートル……八十六メートル……七十メートル……五十二メートル………)


よし、と小さく言い、魔法陣のど真ん中に正座をしていたレマナの肩をポポンと叩いた。


「分かったよ我が助手……魔道士レマナの大魔法をいざ、ご照覧あれ」


言い、ぐぐぐ……と何やら歪な十字架の様な像がレマナ達の背後から浮かび上がり、キィぃと無機質な機械音を立て始める。

その間にも、暗殺者達は全速で近づいて来ている。

だが、レマナは余裕そうに


「私が現状実践で扱える二十三種の普遍魔法と、固有能力に加えて……『磔』の魔法陣で威力を底上げした…至高の一撃」


聖陣サンクトゥスバリア


二百メートル程をほぼ同速で走り抜き、あと十数メートル……と言った所で、霧が晴れ、三人の騎士の体がパラパラと、無念にも崩壊し始めた。


パァァァと眩い光があたり一面を多い、あらゆる…万物を崩し、光に変換する。

微笑む相手を選ばぬ光は、レマナとホスロの周囲を更地へと変貌させた。

散乱していた岩の塊や、築いた土城の名残すら無い。綺麗な、均した後の地面の様に平であった。


「く……ふぅ……」


残らず魔力を絞りきり、力が抜けた風にレマナが膝からパタリと折りたたんで倒れる。


__バサッ


それをホスロは軽く、大切なモノを包むかの様に優しく抱くと、そのまま


「ぐッッ……かっ……退却…じゃな」


そのまま抱え、フラフラとその場から去って行った。










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