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アマリリスと狼  作者: 鷹弘
第2章◇珍種売買と狼◇
38/53

◇5話◇初対面で馴れ馴れしい奴って嫌だなぁ

「クロード、お肉が沢山ありますよ!」

「フェンリル、リリーッ!魂風唐揚げだってよ!」

「なんですそれ、気になります!」

 俺達三人は今、エーリューズニルで一番大きい街に来ている。勿論、観光目的で。あと、ついでに犯人探し。なのだが……。

「唐揚げ上手いッ」

「これ、中身はゼラチン質のものですね。何を使ってるんでしょうか」

 普通では手に入らない、ゲテモノ料理にテンション上がりまくりのノエとカロン。

「フェンリルは食わねぇのか?」

「食わねぇよ、んなゲテモノ」

 俺の言葉に、あからさまに不機嫌そうな顔をする二人。……よし、ほっとこう。じゃないと俺もゲテモノを食わされる。



   ***



 二人が店を回ってる間、近くのベンチで座ってることにした。

 今日は平日だからいいものの、休日だったら二人とずっと一緒にいなければ、絶対に見失う。絶対に。

 そんな事を考えながらぼーっとしていると、誰かが近付いてくる気配がした。

「あの、何か具合でも悪いんですか?」

「は?」

 顔を上げると目の前には、短い茶色混じりの金髪をポニーテールに結った、パンツスーツ姿の女性が心配そうに俺を見ていた。紫色をした彼女の瞳に映る俺は、なんとも間抜けな顔だ。……それにしても、何処かで見たことあるような……?

「あのー……?」

「あ、いや。はい、大丈夫っす。すみません」

「そうですかッ。良かったぁ、ずっと俯いていたので、てっきり具合でも悪いのかと思いました」

「はぁ、なんかすんません」

 彼女は本当に、心の底から安心したような顔で笑った。

「あ、申し遅れましたッ。私、アザナ=シェイタンっていいます!こことはまた違った国で、刑事(アンスペクトゥール)をしています。当分この国に滞在するので、もし何か困った事あったら気軽に声掛けて下さいね!」

 初対面なのに、なんという馴れ馴れしさ……。

 俺の若干引いてる表情に気づいたのだろう。慌てて、手を振りながら弁解してくる。

「あ、あの!別に変な意味とかじゃなくてですね、困った人を放って置けないってだけですよ!正義の魂と言いますか……!」

「はい、分かったんで。気にかけて下さってありがとうございます。まァ、なんかあったらその時は」

 多分無ェけどな。

 しかし俺の返答で誤解が解けたことを悟った彼女は再び安心したような顔をした。表情がコロコロと変わる人だ。ノエもこのくらい表情豊かならいいのに。

「あ?フェンリルッ。お前何ナンパしてるんだッ」

「え、クロードってナンパする度胸あったんですか」

 ようやく満足したのか、両手いっぱいに食べ物を抱えた二人が戻って来た。

 と言うかカロン。俺はナンパなんかして無ェ。あと、ノエは後で覚えとけ。俺だってそんくらいの度胸あるわ。

「違うわよッ!私はただ心配で声掛けただけで、ナンパだなんてそんな……!」

 アザナさんは、顔を真っ赤にして弁解しだした。まぁ、そりゃ勘違いされたら嫌だよな。そんな顔を真っ赤にする程、怒る事でも無いとは思うが。

「おや、クロードが心配を掛けたのですか。それは失礼致しました。保護者として謝罪させて頂きます」

「おい待て。俺がお前らの保護者だろうが」

 俺の正当な意見を、完全無視しやがったこいつ。

「あ、今更な感じあるんですけど、クロードさんと、フェンリルさん。どっちがお名前ですか?」

「なんです。名乗りもしてないんですか」

 アザナさんの戸惑いつつの質問に、ノエが呆れた視線を俺に寄越してくる。

 だって、初対面で名乗りなんかしないだろ。つか、【紅狼(フェンリル)】の事知ら無ェのか。

「あー、俺はクロード。フェンリルは、まぁ渾名みたいなものです。ちなみに、こっちの赤いのがノエで、こっちがカロン、です」

「そうですか!あ、私はアザナ=シェイタンです。こことは別の国の、刑事(アンスペクトゥール)です」

刑事(アンスペクトゥール)……。わざわざ他国から出向くということは、何か調べ物でもあるんですか?」

 アザナさんの自己紹介に投げかけた、ノエの質問で彼女の顔つきが変わった。

「ちょっと、ね……。

 ねぇ、しょうもない質問なんだけど、ノエちゃんはクロードさんと種族が違うじゃない?その、人間と獣人。まぁ、此処(エーリューズニル)にはいろんな人がいるけれど。

 ……えっと、つまりね、私が聞きたいのは、貴方達が主従関係だったりするかって事なんだけど……」

 ん?獣人と人間が一緒にいて、なんで主従関係が出てくるんだ。獣人が人間を襲う途中なのか、とかならまだ分かるが。

「特に、そういった関係ではありません。私達は__相棒のようなものです」

「リリー、そこは相棒って言っとこうぜ」

 そうだな。なんか格好良い台詞なのに台無しだ。

「そっか、ならいいんだ」

 しかし、そんなノエの台無しにした台詞を華麗にスルーして、アザナさんはホッとした顔を見せた。

「それで、この国に他国の刑事(アンスペクトゥール)がいる理由は?」

「……」

 彼女は口を閉ざして、言うべきか、言わないべきか。話していいか、話しては駄目か。それを探っているようだった。そして、ややあってから、ゆっくり口を開き、小さな声で言った。


「私がこの国にいるのは__珍種売買業者(レア・バイヤー)を逮捕するためなの」



   ***



 俺達も目的が同じである事を告げると、彼女は不審そうな顔をした。まァ、そうなるよな。

「なんで、貴方達みたいな若い子が……?」

「ヘル……私達の知り合いに、そういった業者に被害を受けた方がいるんです。私達は、それなりに腕が立つので、今回依頼されました」

 危ない奴だ。こんな街のど真ん中で、いくら小さい声とはいえ、女王の名前なんて出すんじゃねぇよ。それより、俺はともかく、ノエやカロンの容姿で腕が立つとか言われても、初対面の奴は疑うだろ、普通。

 アザナさんも例に漏れず、不審そうな表情を一向に変える気配が無い。ので、ノエは駄目押しで、真剣な顔で頼み込む。

「私達が持っている情報、全てお話致します。なので、アザナさんも情報を提供して頂けませんか?勿論、企業秘密でどうしても話せないものは結構です」

 ノエの熱意が伝わった、もしくは押し勝ったのか、アザナさんはポツポツと話し出してくれた。



   ***



「それでね、慣れないパーティに参加したりして情報集めたり__」

「あ」

「ん?どうかしましたか、クロードさん」

「え?あ、いや。なんでも無いです」

 思い出した。どっかで見たことあると思ったら、この人、俺らが行ったパーティにいたんだ。帰る直前にぶつかって、彼女のワインが俺の(着せられてた)ドレスにかかった。あの日は、俺も女装してたし、アザナさんは気づいて無ェみたいだけど。……絶ッ対にバレたく無ェ。

「クロード、どうしましたか」

「いや、なんでも無ェってば」

 ノエも気づいてないなら、万々歳だな。

 それにしても。彼女がくれた情報は、殆ど俺達のと似通っていた。ただ、アザナさんは、ネル=ロイヤーの他にも、協力者がいるだろう事を教えてくれた。大体の人物に検討もついているとか。

「ネル=ロイヤーね……。前々から怪しいとは思ってたけど、クロードさん達も知ってるって事は、やっぱり、彼は黒かなぁ」

「前から目をつけていたんですか?」

「そうなの。珍種売買業者(レア・バイヤー)が動き出したと推測されている時期と、ほぼ同時期に、ロイヤー家の資産が増えていってるの」

 つまり、ネル=ロイヤーは珍種を売る事で、資産を膨らませてったと。

「なるほど……。でも、露骨と言うかなんというか。そういうのって同時期だと怪しまれるって思わないのでしょうか」

 ノエの最もな質問に答えたのは、意外にもカロンだった。

「露骨過ぎると、逆に違うって思う場合もあるからじゃねぇのか?」

 これも一理あるしな。でも、俺らもアザナさんも、色々な調べ方をして同じ人物に行き当たってんだ。少なくとも関係はあるだろう。

「よし、カロン、ノエ。一旦帰るぞ」

「え、急ですね」

「お互い、情報を出し合ったんだ。これ以上話してても、新しいものは、そうそう出てこないだろ。だったら持って帰って、また話し合う方が効率がいい」

 俺の意見に、全員納得したのか、各々ベンチから立ち上がった。

 立ち上がったことで気づいたが、アザナさんは意外と背が高い。ヒールの分もあるだろうが。いや、俺がノエの身長に慣れてるからか。

「それでは、また後日お会いした時、お互い新しい情報があったら交換しましょう」

「そうねッ。それじゃあ、私はあそこの宿屋に泊まってるから、業者関連じゃなくても、何か困った事あったら相談してねッ」

 そう言って彼女が指差したのは、お世辞にも綺麗とは言い難い、けど汚くもない。この街で一番安い宿屋だった。うーん、世知辛い。

「はい」

「ところで、貴方達ってどこ泊まってるの?何かあったら、むしろ駆けつけるわよ?」

 女子とは思えない紳士さを発揮するノエ並に、頼もしい。

 ノエとカロンが余計なこと言う前に、俺は答える。


「デッカイところです」

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