第三十六話 温泉 弐
「…」
体を洗っている晃を鐵昌が見ている。
晃の腕や背中、足に薄く痣があるのが少し気になったのだ。
視線に気づき、晃が話しかける。
「どうかしましたか? 」
「いや…お前って体から洗うんだなって思って。…ていうか、シャワー浴びたり風呂に入るわけじゃねえのに、俺ここにいる意味あるのか? 」
「いやだって、こんな広い空間に一人だけ寂しくいるのってなんか嫌じゃないですか? 」
そう言いながら晃はボディソープを洗い流す。
「こうして鐵昌さんがいてくれるだけでなんか面白いんですよ」
晃はボトルから液体を取り出し、頭を洗う。
その様子を見て、鐵昌は「あ」と声を出した。
その声は晃に届いておらず、晃は黙々と髪を洗っていた。
一段落して晃がシャワーで流そうとした時、鐵昌が話しかけた。
「おい、晃」
「はい! なんでしょうか?」
「…なんでボディソープで髪洗ってんだよ」
その言葉に、晃は一瞬固まった。
手についた泡を少し眺めてから、「え?」と声を出した。
試しに前髪を少しシャワーで流す。
流した部分の髪は、物凄くテカテカしていた。
晃の顔が段々青くなっていく。
絶望していた。しかし、どうすることもできないので晃は髪についたボディソープを流した。
前方の曇った鏡にシャワーをかけ、自分の髪を見る。
浴場の電気に照らされ、テカテカと光っていた。自分で髪を触ると、いつものような柔らかい感触ではなく、硬い感触が伝わってきた。
「ポマード塗ってるみたいだな」
「あはは…そうですね~」
晃の頬をお湯なのか涙なのか分からない液体が伝った。
「これだー! これがシャンプーの感触だー! 」
そう言いながら晃は髪をシャンプーで洗っている。
はたから見たら変人にしか見えなかった。
「ああああああ!!! 」
途端に晃が叫びだした。
「さっきからうるせえよ」
「シャ、シャンプーがー! 僕に滅びの呪文使ったあああ!! 目がああああ!! 」
晃の目にシャンプーが入ったのだ。
晃は眼をつむりながら手探りでシャワーを出すつまみを探す。
やっとの思いでシャワーのつまみを探し出してつまみを回す。
しかし、晃は慌ててつまみを逆に回した。そのせいでシャワーからではなく、桶に水を溜めたりする水栓の方からお湯が出てきた。
「なんでシャワー出ないのー!! 」
と言いながら晃はつまみを目一杯回す。しかしシャワーは出ず、水栓から出てくる水の勢いが増してきただけだった。
流石にその光景に鐵昌は呆れ、晃の手をどけてつまみを回し、シャワーを出した。
シャワーが出たことに晃は大層喜び、シャワーに顔を近づけて目をゴシゴシと洗った。
洗い終わった後晃は鐵昌の方を向いてお礼を言った。
「鐵昌さんさっきは本当にありがとうございました!! 」
「お気になさらず…」
晃の目が掻きすぎて赤くなっているのが少し鐵昌は気になっていた。
「サッキカラ、ナンカキコエル」
「コウノヒメイ、キコエル」
「何かあったんですかね?」
「分からないわ~」
男湯の方から女湯の方まで晃の声が聞こえていた。
綺と美香子はお湯につかりながら、会話に花を咲かせていた。




