第三十四話 温泉道中
「温泉楽しみ~!」
綺がスキップしながら呟く。
「ユレルー」
「ワー」
綺の手に乗っているスイコとテンノが激しく揺れる。
「早く汗流したいわね~」
と、美香子が言う。
その後ろでは晃と鐵昌が歩きながら会話していた。
「鐵昌さん。なんでお風呂入んないんですか? 」
「…」
晃の質問を鐵昌は無視する。
「もしかして…実は女だからとかですか?」
「は?」
流石に鐵昌が反応する。
予想通りの展開で晃は思わず笑いそうになる。
「美香子さん! お風呂上りには何飲みますか? 」
綺が後ろ歩きで聞いてくる。
「ん~、私はいつもスムージーを飲んでるわよ~。あればいいんだけどね~。綺ちゃんは何飲んでるのかしら~? 」
「私はそんなおしゃれなもの飲んでませんよ。大体は水を飲んでますけど、たまにお茶の時もあります」
綺と美香子の会話が聞こえて、晃も鐵昌に聞いた。
「鐵昌さんはお風呂上りなに飲んでるんですか? 」
「ノンアルのビール」
「あっ…ビールですか。僕はまだ飲んだことないなー」
「あたりまえだろ」
晃は、綺と美香子のようにもっと会話が弾むかと期待していたが、思った以上に会話が弾まなくて一人でしょぼーんとしていた。
「あ~! 綺ちゃん、危ない~! 」
そう言いながら、美香子はポケットから何かを取り出して綺の横をスレスレに通って投げた。
綺は一瞬の出来事に少し固まっていたが、数秒後に聞こえてきた呻き声で我に返り、後方を向く。
そこには、顔面に包丁が突き刺さっているバキュロが立っていた。
バキュロは包丁が刺さっているという痛みに悶え、少し経ったあと地面に倒れこみ絶命した。
「綺ちゃん大丈夫~? ケガしてない~? ごめんなさい~! いきなり物騒な物投げちゃって~! 」
美香子が綺に近づいて頭を下げる。綺は反応に困ってとりあえず美香子に頭をあげてもらった。
「えっ…これ、包丁ですか…? 」
綺が地面にあるバキュロの顔に突き刺さっている包丁を指さして聞く。
「うふふ~そうよ~。前にお蕎麦屋さん行ったとき(第十三話)に~なにかに使えないかなと思って~持ってたのよ~。私のスカート大きいから~、包丁の先にだけ気を付けてれば~ポケットに普通に入れることが出来るのよ~」
美香子はバキュロに突き刺さった包丁を引き抜く。
使い捨てのポケットティッシュを何枚か取り出して刃についた血液を拭き取る。
晃はその様子を見ていて、怖いと思いながらも少しかっこいいと思っていた。
一方鐵昌は、「包丁があるならあの時(第二十二話)わざわざ鋏使う必要なかったじゃん…」と、心の中で呟いていた。
「…やっぱりスイコとテンノは、目の前でこうして同じ仲間が倒されていくのって、やっぱその…嫌だ? 」
綺は我ながら凄い質問をしているなと思った。
「ベツニ? 」
「タニンダカラ、ドウデモイイ」
「あんたたち中々ドライだねぇ…」
帰ってきた言葉が予想外だったので、綺は思わず苦笑いした。
「ア、ツイタ」
「ホントダ。ツイタ」
道後浴場の入り口まで来た綺たち。
中へ入り、最後に入った鐵昌がドアノブについている鍵をかける。
「今更だけど~スイコちゃんとテンノちゃんは~、女の子でいいのよね~?」
「多分気にしなくていいと思いますけど…」
「まあそうよね~。じゃあ私たちと入りましょ~!」
女湯と男湯に入るグループで別れて、それぞれ温泉へと向かった。




