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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第参章・温泉という名の安全地帯
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第三十三話 行こう

 顔を拭いて晃の元へ戻る綺。

 床に座り込むと晃が話しかけてきた。


「シャッター開けたりする音が聞こえてたけど、外出てたの? 」

「いや出てない。…社長が来たんだよ」

「え!? 」


 晃が思わず大きな声を出す。

 綺は「美香子さんたちが起きちゃうでしょ」と言って晃を落ち着かせた。


「寝る前に私たちさ、バキュロってなんやねんみたいな話ししてたでしょ?」

「うん」

「何で知ってたかは分からないんだけど、突然ここ(コンビニ)に来て寝る前にバキュロのこと話してたでしょって言われて、バキュロについて色々聞かされたんだよ」


「それで、社長はなんて言ってたの? 」

「確か…脊椎動物対応版の新種のバキュロウイルスを作った的なこと言ってたよ。だからバキュロっていう名前は、バキュロウイルスからとったって…」


「脊椎動物…対応版!? 」

 晃の顔が見る見るうちに青ざめていくのが分かった。無意識に大きな声が出ている。


 その時、鐵昌の目が覚めた。

「騒がしいんだよ。なんかあったのか? 」

「あ、ご、ごめんなさい!起こしてしまって」

「別にいい」


 鐵昌は立ち上がって机に上に置いてあったペットボトルの水を飲んだ。

「社長が、社長が綺のところに来たんです! 」


 鐵昌の動きが一瞬止まる。

 ペットボトルの蓋を閉め口元を拭き、綺たちの方にポケットに手を入れながら少し近づいた。


 綺はことのあらましを全て鐵昌に話した。


「わざわざ話に来るとか喧嘩売ってんのかあの野郎…。脊椎動物に対応したバキュロウイルスって、ほぼTウイルスじゃねぇかよ。立ち悪りいな…」


 鐵昌は頭をぼりぼりと掻く。

「Tウイルスか~。今考えてみればこの状況ってバイオハザードみたいだね」

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ」

 晃の言葉に綺が突っ込む。

 内心では、晃もバイオハザードやったことあるのかなぁ~と、少し期待していた。


 美香子が目覚め、同じように説明したが、美香子はそんなことだろうと既に見当がついていた。






「ねえ綺ちゃん~。せっかくだし浴場行ってみましょうよ~! 」

 美香子に言われた瞬間、綺は「へ? 」と声を出してしまった。

 忘れかけていたが、そういえばあの社長が温泉作ったんだっけと思い出した。


「汚れとか汗とか流してないし~、やることとか特になくて暇だったのよ~」

「んーまあ私も久しぶりに温泉入りたいしなー。じゃあ一緒に行きましょう! 」

「やった~! 流石綺ちゃん~! バスタオルや~バスローブとかは置いてあったから~、護身のためにそこにあるパイプだけ持っていけば大丈夫よ~」

 綺と美香子は盛り上がって早速温泉に向かおうとしていた。


 部屋を出ようとしたとき、綺と美香子は晃たちの方に振り向いた。

「晃たちは行かないの? 」

「この際だから~入ればいいんじゃないかしら~?」


 話しかけられ晃は少しビクッとしていた。そして、鐵昌の方を向いた。

「…なんでこっち見てんだよ。行きたいなら行けばいいじゃねぇかよ」


 鐵昌は手に持っていた雑誌に再度視線を戻す。

 晃は無言で綺たちの方を向いた。


「行くの? 」

「行かないの~? 」

 綺と美香子に言われ、晃は鐵昌に近づく。


「あの~…。一緒に行きませんか? 」

「…一人で行けばいいじゃねえかよ」


 晃は鐵昌をしつこく誘う。

 それを見て綺は思いついた。

「もしかして…。一人で入るの怖いの? 」


 綺は晃が「怖くないもん! 」と強がるのを想像していたが、


「怖いよ。怖いからついてきてほしいんだよ」


 と、予想外に素直な返事が来て、綺はガクッとなった。


「怖いってお前…。男のくせに女みたいなこと言うんだな」

「もし選べたんだったら女に生まれたかったです」


 その言葉に、綺と美香子は苦笑いした。


「…分かった。但し水は被らねえ。靴下だけ脱ぐ。これなら良いか」

「は、はい! ありがとうございます!」


「ミンナデ」

「ナンノハナシ、シテルノ? 」

 いつの間にか起きてたスイコとテンノが机の上から聞いてきた。


「みんなで温泉に行くのよ~」

「オンセン! 」

「コノマエ、イコウト、シテタトコロ!」

「なら一緒に行こう! 」


 綺が言うとスイコとテンノは「ワーイ」といって万歳した後、綺に飛び移った。

 素早くスイコとテンノを手で受け止める綺。


 初めてスイコとテンノがこんなにジャンプしているのを見て、少し驚いていた。


「それじゃ~行きましょうか~」

 綺たちは道後浴場に向かった。

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