第三十二話 世の中
「脊椎動物…? 」
聞き慣れない言葉に綺は『 ? 』を浮かべる。
「あ、そうか。脊椎動物のことを理科でやるのは中学二年生か。ざっくりと言うと、脊椎動物っていうのは背骨(脊髄)がある動物のことだよ。人間も脊髄動物だね」
「っていうことは…あなたが作ったウイルスは、バキュロウイルスの人間対応版…的な感じってこと? 」
「面白い言い方するね。まあそういうことだよ」
「そのウイルスを秘書さんに使って、…この如月駅の中で一般人をバキュロってやつにして、あなたは一体何がしたいんですか? 」
綺は聖間を睨む。
そんな綺の視線を見て、聖間はニヤッとした。
「別に目的はないよ。聞いての通り、ただの暇つぶしだよ。」
「そうですか…。ではもう一つ聞きたいことが。確か、あなたの会社の『ウマヤド』は鉄道の会社ではなく、薬を作る会社でしたよね? 今までのことを聞いている限り、今のこの駅はあなたに所有権があるように見えるんですが、どういうことなんですか? 」
「綺ちゃん本当に中学一年生? 言葉遣いやけに大人っぽいね」
聖間が綺の顔を覗き込む。
綺はなんでこの人私が中学一年生だってこと知ってるの? と、思いながら聖間を睨んでいた。
「…買収したんだよ」
綺は無意識に「は? 」と声が漏れてしまった。
「ちょっとお小遣い与えたらね、この駅の所有権ゲットできちゃったってわけ」
「そ、そんな! そんなこと、実際にあったら大問題だよ!」
綺は汗を垂らして聖間に迫る。
聖間は笑みを浮かべたまま息を吐く。そして、ズイっと綺に顔を寄せた。
「綺ちゃん。僕よりも人生経験短いんだから、世の中を知った気にならない方がいいと思うよ。これが現実。結局は物も、人も、世の中も。全部財産なの」
輝きのない聖間の瞳に、意識が飲み込まれそうになる。
肌を伝う汗の感触が嫌というほど伝わってくる。
「いい勉強になったんじゃない? これからも頑張ってね。あ、あと綺ちゃんのところに徳姉妹いるでしょ?あの子たちのこと可愛がってあげてね~! 」
脅しているわけでもない。なにか恐ろしいことを言っているわけでもないのに、綺は足に力が入らなくなり、その場にヘナヘナと座り込んだ。
聖間は綺に背を向け、コンビニを出て行った。
「な…なん…なの? あの人…」
綺は深呼吸をして心を落ち着かせた。
立ち上がってシャッターを閉める。
先ほどから置きっぱなしだったサラダチキンのゴミを片付けて従業員部屋に戻る。
綺が部屋に入ったタイミングで、晃が夢から覚めて起き上がった。
「ふわぁ~…。さっきからシャッターみたいな音五月蠅いなぁ~」
「あ…。ごめん・・・起こしちゃった…」
「ん~? どうしたの綺? 顔色悪いよ~? 熱でもあんの~? 」
晃に言われて綺は顔を洗いに手洗い場に行く。
鏡を通して自分の顔を見るが、自分で顔色が悪いかどうかは分からなかった。
顔に水をかけて洗う。
さっきまで熱くなっていたような顔の温度がスーっと下がっていくような感じがした。




