第三十一話 答え合わせ
早朝…かどうかは分からない。
ただ、みんながまだ寝ているからそう言っているだけだ。
綺は一人、みんなよりも早く起きた。
隣には晃が寝ている。そして美香子も寝ている。机の上にはスイコとテンノが、ハンカチをかけて二人で寝ている。
鐵昌は部屋の隅で座って寝ている。
「髪降ろしたらどうなるんだろう…」
綺は鐵昌を見ながら思っていた。
二度寝しようにも寝付けない。綺はなにをしようか考えていた。
とりあえずお腹がすいたので、コンビニの店内に入って食品を探した。
肉嫌いの綺でも食べれるサラダチキンを開けて一人で食べた。
いつも誰かの隣で食事をしているが、こうして一人で食事をするのは何気に初めてである。
コンビニの外からはバキュロの唸り声、風の音が聞こえる。
…風の音?
綺は立ち上がってシャッターの方に耳を寄せた。空洞の中特有のヒュウゥゥゥという風の音が聞こえる。
どこかに外に通じる道があるかと思ったが、如月駅は広い。
風が駅の中で循環していてもおかしくない。
第一、線路を区切っているのは鉄格子。
風が来るのは当たり前のことだ。
綺はため息をついた。
次の瞬間、いきなりシャッターが叩かれる音がした。
シャッターの外側から、何者かがシャッターを叩いている。
綺は驚いて後ずさりした。
きっとバキュロだ、と思い音が鳴りやむのを待った。
少し待った後、
「おーい。誰もいないのー? 」
と、声が聞こえた。
綺はシャッターの方を見た。確かに今のは人の声だった。
しかも、聞き覚えのある声だ。
綺はみんなが起きないようになるべく静かにシャッターを開ける。
そこにいたのは、
「やあ。初めまして、綺ちゃん」
不敵な笑みを浮かべた聖間だった。
「あ、あなたは…! 」
「おっと静かに」
聖間は綺に急接近し、人差し指を立てて綺の口につける。
綺は驚いて一瞬固まった。
「みんなが起きちゃうからね。僕はちょっとお話しに来ただけだよ」
綺の口からゆっくり人差し指を離す。
綺は聖間に気圧され息が少し詰まった。
「みんなが寝る前にさ、バキュロって何? 的なこと話してたでしょ? 」
「な、何で知って…」
「んでもって、バキュロってのは鐵昌くんが言ってた、バキュロウイルスからとったんだよね」
「…」
聖間は綺の言葉を遮り、話し続けた。
「バキュロウイルスは本来節足動物にしか感染しない。ここまでは鐵昌くんが説明してくれてた通りだよ。本題はここから。綺ちゃん、君は僕の会社がなんの会社か知ってる? 」
「…知ってます。うちの母もお世話になってるので。確か、薬をつくっている会社だとか…」
「そうそう! よく知ってるね! それで、美香子ちゃんに聞いたと思うんだけど、僕は新しく薬をつくって秘書にあげたんだよ。その薬こそが、バキュロウイルスそのものってこと」
「え? でもバキュロウイルスって人間には効かないんじゃ…」
「もー綺ちゃん。ちょっと頭を柔らかくしたら分かるでしょ? 」
綺は首をかしげる。
「…いいや。答えは本当に簡単なものだよ」
聖間は少し微笑んでから言った。
「僕が作った薬は…、『脊椎動物対応型』のバキュロウイルスだよ」




