第十九話 聞こえる
「なにあれ…? 」
鉄格子を呆然と眺めて呟いた。
「鉄格子だね…。どうやら歩いて隣の駅に行くのは無理そうだね」
その時、謎の生物の一匹がホームに上がってきたのだ。
そしてこっちに近づいてきた。
「わっ! 綺、早く倒して! 」
「え!? 私が!? 」
「いやあなた僕のバット持ってるじゃん」
それまで忘れていた手にあるバットの存在に気が付き、あっと情けない声を上げた。
「無理無理無理無理!いくら何でも手が震えるぅぅ!」
「落ち着いて綺、あいつはもう人間じゃない」
晃の言葉にハッとした。
そうだよ落ち着いて。あれは人間じゃない。と必死に自分に言い聞かせる。
そして――。
気づいたときには振っていた。
晃が口笛を吹く。
「出来るじゃん」
「出来ちゃった……出来ちゃったよ! うえーい!!」
「うるさい」
「ごめん」
さっきの謎の生物は綺が振ったバットに線路まで飛ばされて息絶えた。
「倒せたのは嬉しいけど……やっぱちょっと……」
死骸の生々しさに思わず嘔吐きそうになる。
「…戻ろうか」
晃が言い、綺と晃は美香子の所へと戻った。
「ただいま戻りましたー」
「あらあら~。おかえり~」
美香子が出迎える。
「なにか収穫はあったかしら~? 」
「あ、はい。これです」
晃は美香子の前に四つのトランシーバーが入った箱を出した。
「あらま~。これは便利だわ~」
「ちょっとテストしてみませんか?」
晃はトランシーバーを二つ取り出して、ボタンを押した。
その時、明らかにテンションが低い綺の存在に、美香子が気づいた。
「ところで~綺ちゃんはどうしたのかしら~?」
「それはかくかくしかじかで」
「なるほどね~」
かくかくしかじかって便利だなぁと、不本意に思ってしまった。
美香子と晃は少し離れてトランシーバーのテストをした。
{マイクテスト~聞こえてるかしら~? }
{聞こえてまーす}
{やった~! 使えるわね~! }
晃と美香子は談笑している。
綺はそれをボーっと眺めていた。
カシャッ
「ん? 」
「どうした綺? 」
「今なんか音しなかった? 」
「気のせいじゃない? 」
そっか気のせいか。綺は水を飲もうと立ち上がった。その時も、
カシャッ カシャッ
やっぱりなんか聞こえる。
「また聞こえたよ。気のせいじゃないって」
「どんな音かしら~? 」
「なんか…カシャって感じで…」
「カメラとか? 」
「そんな感じじゃなくて…何というか…」
綺は少し考えた。
「エアガン…みたいな感じ? 」
如月駅の何処か。
一人の男が駅内を歩いていた。
男が駅内を歩いていると遠くに何かが見えた。
まだ意識のある女性の上に、謎の生物が乗っていたのだ。
「助けてぇぇぇ!!! 」
女性が叫んでいる。
男は武器を取り出し、謎の生物を追い払おうとする。
だが、一足遅かった。
攻撃が当たる瞬間に、謎の生物が女性の腹を食い破った。
女性の声が小さくなっていく。
男は女性を食している途中の謎の生物の頭に攻撃をした。
女性は、もう手遅れだった。
肌の色は謎の生物と同じ色に変色していく。
その様子をみて、男が武器を構える。
「…わりぃな…。俺じゃお前を救えなかった」
男は手にした武器、エアガンを元人間に向けて撃った。




