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マイクは戦争が終結した後、すぐにシルアニアにある家に戻った。そこで父から聞かされたのはとんでもないことだった。姉のリザラを商人に嫁がせたというのだ。彼女は実の母親を殺したということで、貴族には遠巻きにされていたので、貴族の血を欲しがっている商人に金と引き換えに売ったのだ。父にしてみれば厄介払いができてせいせいしているだろう。マイクは目の前が真っ暗になった。姉だけが唯一の家族だったのに、その姉がもうこの家にいない。どこに嫁に行ったのか父は答えてくれなかった。きっと嫁いだのは真っ赤な嘘で、愛人として売られたのだ。父はそのことがバレたくないために言わないのだとマイクは思った。マイクは姉のいない家には興味がないため、すぐに出た。もう二度と戻らないだろう。向かった先は以前まで戦争をしていたアルセイ国だ。そこは発展した技術を持つことから他の国より先進的で、異国の人間も受け入れるような国だった。そこでマイクは会社を立ち上げようと考えた。アルセイ国では今どんどんと新しい会社が出来ている。景気がいいのだ。それに会社を経営するにあたって必然的に商人と交流する事になるであろうとマイクは考えた。そこで姉の情報を知っているものに会えるかもしれないと。会社を立ち上げるのは大変だった。まずどんなことをする会社かというと、シルアニアから伝統芸能で作られたものを輸入し、アルセイの商人に売るというものだった。シルアニアとアルセイは戦争直後ということもあり、両方が両方の国の物に興味を持っている者であふれていた。マイクが売ったのはシルアニアでは田舎に位置する場所で作られている伝統的な食器だったが、アルセイの人たちには新鮮に映ったのかそれはよく売れた。それからは、他の物も輸入しては売りつけるを繰り返した。シルアニアの伝統品をよく輸入するものだから、アルセイだけでなくシルアニアでも有名になった。そこそこ大きくなった会社にある日、彼が来た。彼の名は、トム・エレファントといった。
トムは、マイクの会社に入社しに来たのだった。マイクは初め、彼が誰だか分らなかった。それほどまでにトムは凛々しく成長していたのだ。久しい会合に二人は喜んだ。トムが会社に入社してからは、それまで以上に商品が売れた。彼は交渉がうまかった。そして感がよかった。彼が売れるといったものは、ほとんどそうなった。彼は数年で会社でも一目置かれる存在になった。そんな彼だったからこそ、マイクが秘書を必要とした時トムが選ばれても誰も怒らなかった。トムが右腕になってくれてから、仕事がさらに効率よく進むようになり、マイクは休む時間を作れるようになった。その時間はトムといることが多く、とても穏やかなものだった。次第にマイクは忘れていたトムへの恋心を思い出し、よく考え込むようになった。マイクは自分の声が男のものである以外女だ。しかしそのことを知っている者は、今はどこにいるかも分からない姉だけである。マイクはもし自分が女だとトムに知られたら、どのような反応されるか不安だった。しかし、それを告げなければ自分の気持ちを伝えてはいけない気がした。
ある日、マイクとトムは、商人との交渉の帰りに雨に打たれた。それは中々やまず、二人は宿で一晩泊まる事にした。宿は一部屋しか空いてなく、二人で一つのベッドを使うしかなかった。トムは「ちょっと恥ずかしいな」と言い、マイクは頭の中がパニックになっていた。それは風呂に入るために服を脱いでいた時もだ。もし女だとバレたらと悶々と考えながらさらしを外した時だった。
「おいマイク、バスローブかりてきた...」
トムの手からバスローブが落ちた。彼はバスルームに入ってきたのだ。トムは真っ赤になっている。マイクは(終わった)と思った。トムはきっと自分のことを男だと思っていたのに、実は女だった事に怒って真っ赤になっていると思ったマイクは、心の底から落ちこんで涙がボロボロと零れ落ちる。それを見ていた真っ赤なトムは、真っ赤なまま慌てて、真っ赤なまま何かしゃべって、真っ赤なままバスローブを着せてくれた。
とりあえず風呂に入った後、二人はベットに座りながら話した。マイクは、自分がなぜ男声なのか理由を話した。そして会社を立ち上げたのは、姉を見つけるためだと。トムは、マイクが母にされた事を話した時、痛ましそうな顔をした。そして姉がマイクを助けるために母を殺したと言ったときも、怖がらずまた気持ち悪いとも言わず、ただ黙って話を聞いてくれた。そして話し終えた時、
「話してくれてありがとう、マイク。すごいね。よくここまで頑張ったね。」
と言ってくれたので、また泣いてしまった。トムは、いつの間にか女言葉でしゃべっていたマイクを気持ち悪がらなかった。それだけでマイクは救われた気分だった。そしてトムは泣いているマイクの手を握ると、真面目な顔でこう言った。
「実はね、マイク。僕は君の事をずっと前からーー。」
数年後、商人の正妻として暮らしているリザラ・セルジアの元に一通の手紙が届く。それは数か月前やっと再会出来た妹からの手紙だった。そこには、彼女の幸せな日々がつづられている。
「幸せになったのね、マイク。私もよ。」
彼女の指には銀色に光る物があった。
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