75.来訪者
治療ポッドの設置説明で渡米することになった。大学病院のスタッフでは、実際の説明も設置も無理なので。学会で名前を売れて満足した病院側は、それ以上は求めなかった。特許の分前も無し、会社の株券を少し分ける、株主のひとりになる。と、いうところで手打ちとなった。
結果として、治療ポッドの設置と説明が、全てこちらの責任になるわけで。今回も、そんな感じの出張のひとつ。たまたま海外の大学病院というだけで、大きな違いはない。はずだった。目的地のサンミスコ医科大病院に到着。設置と説明も無事終了。さて、すこし観光して帰るかと思ったら。
ハプニングが起きた。急な来訪者があると告げられたのだ。そもそも、マスコミへの説明や商談はまとめてやるので個別対応はお断り。と、最初に断っているのに。来訪者の取り次ぎをしてきた。つまり、断れない権力絡み。さらに、相手の名前と身分に興味をもったので、会うことにした。
来訪者は二人、どっちも見える人ですね。ひとりはいかにもな黒服の男、MIBですか、と突っ込みたい。もうひとりは、シスター服の女性だった。黒服はなんと軍人さんでジェフリー・クレイン、階級は中佐を名乗った。シスターの方は、マリア・ルルシア、身分は審議官。え、この国で審議官。欧州の人じゃないよね。
とりあえず。大学内のカフェに移動。こんなオープンな場所で大丈夫か?と怪しんだら、中佐が人払いと無音の結界を展開。これは電波も遮断する奴か。面白い、この術式は記録しとこう。
「中佐。面倒な探り合いは不要なので、ストレートにどうぞ。」と、告げたら。意外そうな顔で、「日本人は遠回しな言い方を好むと思っていたのだが」、と中佐。「私は政治家でも役人でもないので」と、返した。
「単刀直入に確認したい事があるのだ」と、中佐。「あなたが日本の魔術関係者なのは承知しており。その件について追求するつもりはない。むしろ友好を深めて、技術交流をもてたら幸いと考えているくらいだ。問題はそちらで雇用したエレナことアンナ・コセリウのことなのだ」
まあ、そうだよね。”東方の夜明け”は各国でテロリスト認定されており、そこの人間を雇えば。テロリストと手を結ぶんじゃないかと疑うよね。
「彼女の正体はうちを探るスパイ。ということはわかっています。でも、彼女個人の人格に問題は無いし、能力的にも優秀なので。知らないふりをしつつ、改心してこちら側に来てくれないかと期待して雇っているのです」。「それに、彼女を追い返して前任者の男が復帰すると、殺人や破壊工作をする危険が高かったので。彼女を引き込んだほうが安全とも考えました」と、答える。
「なるほど、全て承知ということですか」と、中佐。
「しかし、彼女の後ろにいる集団は危険です。このまま接触を続けるのは、そちらの信用にも関わると考えますが?」
「それについて提案があるのですが」。さて、ここからが交渉だ。
「こちらの入手した情報では、東方の夜明け内部で世代交代が起きつつあり。若い世代にはテロに懐疑的な者も増えているらしい」。「貴国には司法取引制度がある。老害達の殲滅に異論はないが。優秀な若者は救えるなら救いたい。ご検討いただけないだろうか?」
中佐がシスターをちらっと見たな。この娘、嘘発見器代わりかな?
「もし可能なら、一国より、被害をうけている他国とも共同で殲滅戦ができれば。撃ちもらし減らせると考えるので。可能なら、そちらの調整もおまかせしたい」と、まとめる。
「なるほど、情報の提供は期待してよろしいか?」
「それは、可能な範囲で協力させてください」
「殲滅のタイミングはこちらにいただけるのですか?」
「もちろんですが、こちらにも、ある程度合わせていただけるなら、幾らかご協力できるかもしれませんが」
ということで、双方ともこの内容を持ち帰って。後日、再会議。と決まった。
どうでもいいけど、シスターは聞き役に徹しており。名乗った以外は、一言も発していなかった。
あとでわかったのだが。審議官が同席したのは、異端審問のためだった。21世紀の米国でなにやってるの。と、思えるが。実は米国は建国の歴史からして、清教徒が作ったガチガチのキリスト教国。有名なセイラムの魔女裁判で、若い女性達を惨殺した歴史がある。
近代になって魔法の軍事利用が取り上げられた時。キリスト教徒過激派からの魔女狩りを回避するため。教会から審議官を派遣して聖別する。という手順を踏むことにした。教会が許してるから、問題ないですよ。という、建前。これが建前なのは双方承知なので。シスターはほぼ義務的に同席してるだけ。クレームを出さなければセーフ。という、大人の事情なのであった。




