68.皆伝
「この馬鹿弟子がー!」。またも地面に這いつくばる。
開発に戻ろうとしたのだが。頭の中に、何かをやり残した感があって先に進めない。これは拳法の修行を中断したせいでは?と、考えて修行に戻った。シミュレーターの師匠なのに、修行を中断して機械補助拳法に走っていたことに気づいたらしい。なんという高性能。「技に乱れが有る」と、ボコボコにされた。
修行を続けていて少し理解した。気と地球で呼んでいる技も生命の流れも、精霊や魔法も、根源はみな同じ物。ああ、機械補助などいらなかったのだ。あのまま修行を極めるだけで良かったのだ。なんという遠回りをしてしまったことか。「悟ったか。ならば、これを受けよ!」。謎の衝撃で昏倒した。
師匠の攻撃を受けて昏倒を続けること数回。気と体と魂の操作を一部とは言え習得した。技も型もここに至るための手段。これは地球で仙術と呼んでいるものとも通じる。仙術が不老不死に至る手段とされたことにも納得。これ、極めるだけで、寿命が3倍程度伸びる。とんでもないな、異世界拳法。
さらに修行を続け。リアルで秋も深まる頃に修行終了。「よくやった。これにてシュブ・ニグ流拳術の修行を終了した事を確かめ。皆伝の証を授ける」。「師匠ーー。」(号泣)
人生で学問の教師には何人か出会った。だが、生き方にまで影響を与える人には会えなかった。この修業を通じて人生観が変わった気がする。俺は人生において初めて、本物の師に出会えた事に気がついた。惜しむらくは、本当の師匠にはもう会えないということ。心から残念だ。
師匠の世界が別の植民地だから、という理由ではない。師匠は50年前に亡くなっている。虎は死して皮を残すが。師匠は死して、なお弟子に魂と技を残したのだ。俺は泣きながら師匠に別れを告げた。
まあ、実の所はシミュレーターなので。技が鈍らないように。時々、再生して練習するんですが。




