▼560▲ 「待て」と言われた瞬間に目の前の餌を一心不乱にバクバクと食べ始める筋金入りの駄犬
検査室を出て、長い事廊下で待たせていたブランドン君とヤンキー三人娘に、
「先に車に戻っててくれ。用を済ませたら、すぐに俺達も行く」
とだけ言い残し、自分はアラン君を連れて病院を出ると、建物から少し離れた場所まで移動して、
「よし、ここまで来れば、話し声を誰にも聞かれる心配がない」
手に提げていた紙袋からハンディカメラを取り出して、アラン君に手渡し、
「俺が電話してる間、これで周辺を撮影し続けてくれ。誰かいたら、遠慮なくそいつの顔を真正面から撮るんだ」
対人撮影マナーをガン無視した指示を与えるエイジン先生。
「犯人が近くに来て、こちらの行動を探っている可能性があるんですか?」
リアルに想像するとかなり怖い状況を口にするアラン君。
「ないとは言えん。何しろ相手は並外れた賢さと行動力を併せ持つ厄介な奴だからな」
「何だか怪物に追われるホラゲーの主人公みたいな気分になって来たんですが」
そう言ってアラン君が得体の知れない恐怖に怯えながらハンディカメラで撮影を始めると、自分の携帯からガル家に電話を掛け、
「遅いじゃない、エイジン!」
「レディーをいつまで待たせる気ですか、エイジン先生!」
一方的に通話を打ち切られ、そのままずっと待機させられていたグレタとイングリッドのポンコツ主従に激しく吠えられるエイジン先生。
「落ち着け、まだ五分も経ってないぞ。『よし』と言われるまで何分でも待てるのが真のレディーだと思わんかね?」
「それはレディーじゃなくて、犬の『待て』でしょ!」
「もし私達が犬ならエイジン先生に『待て』と言われた瞬間に、目の前の餌を一心不乱にバクバクと食べ始めてやりますが?」
「何その筋金入りの駄犬。レディーになれとは言わないが、せめて人間でいてくれ」
「犬扱いしたのはエイジンじゃない!」
「四つん這い全裸首輪調教プレイがそんなにお好きなんですか、この変態!」
「色々な意味で犬に謝れ。さて、時間もないし用件だけ手短に言うぞ。まず、この電話は盗聴されている可能性がある」
「え、そうなの? 先に言ってよ!」
「人に恥ずかしい事を散々言わせてからバラす辺り、とんだ鬼畜ですね」
「警告する前にあんたらが勝手に言ったんだろうが。まあ、この手のアホな話なら別に盗聴されても構わないが、事件に関係する話が外部に漏れると非常にマズい。だから、今後はそういう話は一切電話でしないし、そっちからも話さないでくれ」
「わ、分かったわ。事件の話をしなければいいのね?」
「ですが、どうしても事件について触れざるを得ない場合は? エイジン先生が事件に関連して必要な物をこちらに説明する時などはどうします?」
「暗号化したテキストファイルをそちらへ送る。内容を読むには、俺の机の上にある『駄犬をしつける方法』というタイトルの本の中に解読方法を書いた紙が挟んであるから、それを参照してくれ」
「変な本の中に挟まないで!」
「せめてベッドの下に隠している『告白する勇気のない僕だけど催眠アプリで憧れの美女二人をメス犬に調教してみた』に挟んでください!」
「そんな本は見た事も聞いた事もないんだが。誰かがもう既に描いていそうなタイトルではあるけれど」
「まだそっちの方がマシだわ!」
「なければ、私が責任を持って描きますが」
「あんたら本当に俺の事を心配してんのか。別に心配しなくてもいいが、ファイルの指示にはきちんと従ってくれ。頼んだぞ」
「心配してるわよ!」
「つまり要約すると、『余計な事を言わずに俺の指示に従え』という事ですね?」
「ああ、本当に心配ならそうしてくれ」
エイジン先生がそう言い渡すと、一瞬無言になってから、
「やっぱり、私達を犬扱いしてるでしょ!」
「何の事はない、いつものエイジン先生じゃないですか!」
激しく吠えて抗議するポンコツ主従。




