20.思いがけぬ出来事は、恐らく嵐の前触れで
「正直次の試合って消化試合だと思うんだけど。勿論主様の圧勝で」
朝食を食べているとルーが具現化して私の背中に抱きつきながら言ってきますがそれは言ってはならないことだと思います。
ボーグレム、通称ボーさん。二メートルほどある巨体を活かした投げキャラであり、遠距離対策を一切持たない代わりにアーマーと高い火力が持ち味だった前世の私が好きなキャラの一人でした。
この世界でも変わらない動きをしているため恐らくアーマーと高い火力を活かしたごり押しキャラなのでしょう。
しかしワープ持ちで遠距離攻撃が主体な私が相手では相性が悪すぎてボーさんは何も出来ないと言わざるを得ないと思います。
「むしろ主は準決勝の相手を気にするべきかと。恐らくあの刀使いが進出してくるでしょうし」
〈そういえばワタクシ達にまで名を轟かせた村正を意識を乗っ取られずに使いこなしてる子が居るんですっけぇ?〉
「ええ、主と同じく魔法の使い手ですが主とは違い魔法を飛ばしたりはせずに村正に纏わせて闘うスタイルの様です。斬撃としては飛ばすようですが。」
〈村正が相手だと正直ワタクシは使わない方が得策でしてよ。破壊特化とかいう技能を持ってるはずだからぁ、ワタクシで打ち合おうモノならば一瞬で強味を失って負けると思うわよぉ? 〉
「………あれ?もしかして私の出番?」
「出番かと。闇精霊ならばLSで1ラウンドは確定ですから。後1ラウンドどうにかしてもぎ取れば良いわけですし」
「その1ラウンドをどーするべきかですね。」
「正直『永遠に凍り続ける世界』を当てられるかどうかと聞かれたら当てられないと答えたい気持ちなんですよね。」
一回戦、二回戦の試合を見る限りタイミングを合わせて攻撃するなんて無理な予感しかしません。
そもそもルーと契約執行するならばノーリスク当身を使って立ち回れますが無しだと厳しいものがありますし。
「私としては夕凪さんとやらをアメリアちゃんが倒してくれるのを期待してしまいますが…」
一度私を倒した彼女なら可能性はありそうであるけれど。
※※※
ボーグレム
さんは棄権しました。
なんか画家を目指している妹さんが親御さんと意見が別れて喧嘩して家を飛び出したらしく探しに行きたいが故に棄権するとわざわざ私に言いにきまして。
「来年こそは必ず闘おう」と言い残し自分のマイカードナンバーを書き残していきました。
マイカードというのは単体では15文字の制限があるメッセージ機能と呼ばれるものしかないが、公衆電話に入れて使うことで電話料金を一括後払いに出来るし、公衆パソコンに入れればチャットなども自分の名義で出来るし、何よりも身分証明書として扱うことが出来るのです。
まだ買ってないんですよね。ボーグレムさんが棄権したので試合はアメリアちゃんvs夕凪の試合が始まってますし、午後には時間が空きそうですので買いにいくのも良いかもしれません。というより行きます。
コロッセオの中央では刀を構えた大和撫子な見た目の女の子がアメリアちゃんの攻撃を全て紙一重で避けている。私は浮いているから真似できないけど、ああいうのに憧れちゃいます。
《アメリア選手の猛攻を夕凪選手は全て見事に回避しております!》
《アメリア選手も以前と比べたらいくつもの戦術を使いこなす優秀な選手へとなっているけど、夕凪選手はそれ以上だね》
《おっとぉ!アメリア選手の突きを夕凪選手が弾いて、あぁ!!棍が壊れたぁ!》
《素手じゃあ夕凪選手にゃあ勝てないねぇ》
《っとぉ!夕凪選手がアメリア選手に抱きついて、そのままアメリア選手が倒れたぁー?!KOされましたー!》
〈武器破壊とかインチキすぎると思うけどどうなの?〉
「多分見せるつもりはなかったでしょう。今の突きはそれほどまでに凶悪な一撃でした。あれは防ぐ以外に道はなく、防げば防御の上からダメージを与える。そしてそのダメージはまさに強烈の一言。そんな一撃でしたので、武器を壊して止めるという行為は見事な判断でした。」
《これで準決勝進出は夕凪選手に決定だぁー!!》
《アメリア選手も
最後の一撃は惜しかったね。あれが当たればまた結果は違っただろうけど結果が全て。夕凪選手の方が一枚上手だったね。》
「準決勝では惜しみなしに闇精霊と契約執行した方が良い。今年のダークホースとかよばれてるだけあって切り札いくつも隠している」
グングニルがアイスを食べながらもしっかりとアドバイスをくれる。
ダークホースと呼ばれる夕凪。グングニルとレーヴァテインが相性悪いのはしょうがない。むしろ零士の時にグングニルの契約執行を見せていたお陰で今の武器破壊攻撃を見せたのかもしれませんね。牽制も兼ねてなら切っても良いということではないかと。つまりまだ他にもいくつかあれ以上の隠し札があるということだと思います。
まぁそれは私も一緒ですしいいでしょう。
《さてこれで準決勝の組み合わせが一組決まりました!今大会ではまだお得意の弾幕戦法を見せていないセレナ選手と今の試合からも実力がうかがえる剣士夕凪選手のお二人です!》
《多分Bブロック側は純粋な格闘家が勝ち上がってきているために対称的になっていますねー》
「主。この後の試合は見る必要はあまり感じられません。マイカードを買いにいきましょう。」
グングニルが言います。
ルーとグングニルどちらかが私の横で町の散策を楽しむか喧嘩になってじゃんけんをし、勝ったのがグングニルです。
因みに両方出さないのは精霊喰いの件があって以来私の中ににどちらかを潜ませておくのが私に義務付けされてしまいました。あの時もルーが私の中か側にいれば大事にはならなかったはずですしね。
グングニルに牽かれるがまま街へと繰り出していき、食べ歩きをしながら街を進んで行きます。
途中露天にてなかなか興味深い巻物を見つけたので購入しました。
天空都市ローマンは天空都市の中でも1、2を争うほどに栄えてる都市です。マイカードショップも前世の歯医者やコンビニの如くそこら中にあります。
数多の内の一つになんとなくここにすべきだと直感が叫んできます。この身体になってからの直感は仕事をよくする為に、従ってみることにしてその店へと入りましょう。
「いらっしゃい。マイカードと楽器専門店『コロナ』へようこそー。」
割と棒読みで迎えられた。店番している12~3歳ほどの年頃の少女と思われるその姿はレジも兼ねているであろうカウンターへと突っ伏している。黒い風船のようなナニかがプカプカと浮いてます。
「楽器の時点で専門店とは言えないかと思いますが…。マイカードの登録をしたいのですが宜しいですか?」
「はいー、今用意いたしますので少々お待ちをー」
プカプカ浮いている風船のようなナニかが動き書類やらを取り出して行きます
「ではこの書類に書き込みをお願い致します。」
言われた通り書き込んで行きます。職業はトレジャーハンターにしておいて、住み処はマスターシェンロンから頂いた家があるのでそこの住所を書きます。
書類も書き込見終わり提出をしようと未だにレジカウンターに突っ伏して寝ている少女に声をかけようとした時、少女の後ろの襖らしき扉が開き際どい服装の女性が飛び出してきました。
「コロナーお腹へったー!」
「わきゃああああ!?!?」
キーン、と耳がとても痛いです。私の耳ってエルフのように尖っているためか聞こえはとても良いので耳元で叫ばれるとスッゴク辛いのです!
「ってお客さんか、いらってセレナちゃんじゃん!準決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます?………ヘンリーさんはなにを?」
鎖使いヘンリー。いや、私の時は鎖を使ってないですが。いえ、使ったと言う扱いで良いのでしょうか。運ゲーのせいで緊迫感やばかったですけど
「いや、この娘はコロナって言って私と専属BGM契約を結んでるんだけどさ、この娘の店なんだよね。」
「つまり居候って事よ!い・そ・う・ろ・う!」
突っ伏して寝ていた少女がムキー、と怒っている。ルーの着ている服装に通じるものがある服装をしており、いざ起き上がれば喧しいと言わざるを得ない顔立ちをしています。喧しさが表面化がされてしまったのでしょうか?
「あ、この居候から紹介に預かったコロナって言います。このコロナの店長をやっています。あ、貴女はこの煩い居候を倒した罪があるから料金4倍ね。」
「なら別の店にいきますよ。それでは…」
「ジョーダン!冗談だから許して!!!通常料金でいいから!おまけするから!!」
「流石に4倍ってのはどうかと思う。寛大な主でも流石に怒るでしょう。」
「コロナさんはヘンリーさんのことか好きなのですね」
「え、何でそうなるの!」
「え?」
ギャグっぽい会話をしながらも手続きをしてもらいマイカードを二人分つくってもらいました。因みにグングニルは偽名です。レーヴェって名前にしました。勿論由来はレーヴァテインです、ほらそこ微妙な顔しないでください偽名なんてポンポン出てくるわけないじゃないですか!
住み処も一応あるのですんなりとつくってもらえたのでそこに知り合いの連絡先を書き込んでいきます。こういった店には書き込み専用の機械があるのでそれを使って書き込んで行きます。
「あ、セレナちゃんほい、私の番号いれておくから模擬戦でも何でも呼んでねー」
「勝手にお客さんのにいれるな!このど阿呆!……あ、私としては魔法議談にはなを咲かせたいので是非是非また来てくださいね」
等と見送られてマイカード製作も終え「コロナ」を出た私たちは宿泊している施設へと戻り明日の準備をすることにします。