第81話 同じ白さで、塗られている
深部への道中。
白いページに包まれた、影が、いくつも現れた。
倒しても、なかなか、マナにほどけない。
「助けて」という声と、「戻れ」という声が、同じ声で、混ざって聞こえる。
*
俺は、鑑定を向けた。
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▼ 鑑定 白帳の影
/救済残滓 複雑度 ★★★★☆
[危機・信用収縮]
荒れ(VIX 38.0)●赤
商い(出来高 0.6倍)●青
底の深さ(−40%/進行中・吸収)●赤
締め付けの鎖(実質金利 +2.0%)●赤
掘り出し(CAPE 13)●緑
凶兆(依存の連鎖・相関 0.93)●赤
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見立て:助けを求める声と、
戻れと縛る声が、
同じ白さで、塗られている。
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……赤が、四つ。
★も、四つ。
合っている。数えたら、合った。
二度目だ。あの支洞で初めて合った時は、拍子抜けするくらい静かに合った。今度も、静かだ。
……静かすぎる。
*
⚠が、一つも無い。
これだけ赤が並んでいて、警告の印が、どこにも点いていない。
あの豊穣の層は、鳴りっぱなしだった。⚠が二つ並んで、早くしろと急かしてきた。
こいつは、急かしてこない。
急かされないから、こっちが焦る。
……危険の広がりは、たぶん、これまでで最大だ。なのに、期限が書いてない。
*
底の深さ、マイナス四十。進行中、吸収。
……吸収。
打つほど深くなる、と読める。
凶兆、依存の連鎖。相関、0.93。
全部が、同じ一本で繋がっている、という数字だ。
一体ずつ倒しているつもりで、たぶん、一体も倒していない。
*
見立ての一行を、もう一度読んだ。
助けを求める声と、戻れと縛る声が、同じ白さで、塗られている。
……塗る、という字を見るのは、二度目だ。
一度目は、あの人の窓だった。塗り固められて、読めない。外から見えない、という意味だった。
今度は、違う。
同じ白さで塗られている、というのは——中でも、区別がつかない、ということだ。
助けたいのか、戻したいのか。
こいつらを作った側にも、たぶん、もう分かっていない。
*
噛み合わせが、灯った。
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▼ 噛み合わせ 【危機・信用収縮】
コガネ ………… ◎◎
ダイチ ………… ◎
ナギ ………… ◎
ライガ ………… ◎ ※レイラの精霊
シズク ………… ○ ※ロウエンの精霊
オルカ ………… ✕
ホムラ ………… ✕✕
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……オルカが、✕。
こいつが✕になるのは、久しぶりだった。
「攻めすぎると、吸われます」
当のオルカが、そう警告してくる。
……自分が✕なのに、正しいことを言っている。
効かないのと、間違っているのは、別だ。
こいつは、この場では手が出せない。手が出せないから、外から全体を見て、いちばん正確なことを言える。
*
ダイチが、足場を守る。
ナギが、焦らず、待つ。
コガネは、吸収されにくかった。
*
……コガネが、◎◎。
この札が最高評価をもらうのは、あの崩し喰らい以来だ。
あの時は、足場が崩れる中で、この石だけが弾かれた。
今度は、吸われる中で、この石だけが吸われない。
……こいつは、誰かの負い目でできていない。
白帳の影は、救われた者の負い目が固まったものだ。貸し借りの糸で、全部が繋がっている。
コガネは、その糸の外にいる。誰にも借りていないから、引っ張られない。
*
ホムラが焼こうとすると、逆に白いページが広がりかける。
「ホムラ、下がれ!」
……✕✕。
出すこと自体が、相手を強くする。この印を見るのは、二度目だ。
炎が、白さを刺激している。焼かれた分だけ、こいつらは白くなる。
*
レイラのライガが、一瞬だけ、白い膜を割った。
雷が落ちた場所だけ、白が裂けて、その奥の黒が見えた。
すぐに閉じた。
でも、割れた。
「割れるじゃないか」
レイラが、笑う。
「一瞬だけね」
……一瞬でいい。
俺たちがやることは、こいつらを全部倒すことじゃない。
あの淵の時は、待てば終わった。手を出すほど悪くなる相手だったから、動かないのが答えだった。
この間の群れは、待つほど増えた。だから、早く断った。
こいつは——待っても、終わらない。
減らない。糸で、補給されているからだ。
待つのでも、断つのでもない。
三つ目の答えが要る。
根を、断つ。
*
「シルク!」
「……うん」
シルクは、本体の匂いではなく——糸の、出どころを嗅ぎ分けていた。
目の前の影を追っていない。この子は、最初から、その奥を嗅いでいた。
「……こっち。……ずっと、おく」
(第82話へ続く)
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【用語辞書】第81話に出てきた「投資」の話
この回のテーマは、叩いても減らない相手です。
● 依存の連鎖=全部が、同じ一本で繋がっている
相関が極めて高い状態では、個別に対処しても意味がありません。一つを処理したつもりでも、同じ糸で繋がっているものは同時に動きます。危機の局面で、ふだんは別々に動いていたものが一斉に同じ方向へ行くのは、この繋がりが表に出るからです。分散が効かなくなるのは、たいてい、いちばん効いてほしい日です。
● 誰の負債でもないもの=連鎖の外にいられる資産
この局面で最高評価がついたのは、貸し借りの関係を持たない性質でした。相手の破綻がこちらに伝わってくるのは、そこに約束の糸があるからです。糸のない資産は、値動きはしても、連鎖には巻き込まれません。これが、金のような資産が危機の時にだけ強く見える理由です。
● 打つほど深くなる相手がいる
叩けば減るとは限りません。攻めた力を吸って大きくなる相手には、こちらの努力量がそのまま相手の体力になります。待てば減る相手、待つほど増える相手、そして、待っても減らず打っても減らない相手。三つ目に対しては、症状ではなく、供給元を断つしかありません。
● 効かないことと、間違っていることは別
この局面で手が出せない者が、いちばん正確な助言をしていました。手を出せない立場だからこそ、全体が見えることがあります。当事者でない人の意見を、当事者でないという理由だけで割り引くと、判断を誤ることがあります。
● 警告のない危険
赤が四つ並んでいるのに、警告の印は一つもありませんでした。危険の大きさと、緊急度は別のものです。急かされない危険は、後回しにされやすく、後回しにされるあいだ、静かに広がります。
※本作は投資の学びを物語仕立てで描くフィクションです。特定の団体・制度を批判する意図はありません。




