チャプター4 帰還
1984年8月某日夜、もうすぐ20才になる雪村は、自室に戻って来た。
いや、物理的にはずっとこの部屋に居たのだが。
「こりゃあ、あきらかにボク個人のチカラのなせるワザではないな。」
雪村はつぶやく。
つい先ほどまで、子ども時代の雪子としゃべっていたのだ。
しかも学生服を着て。
しかし、実際の今の自分は、ベッドの中でTシャツと短パンを着た姿だ。
ただ単に、自室で就寝していただけなのだ。
確かに、あの夜以来、日に日に雪子さんの動向が、手に取るように把握できるようになってきていた。
ひょっとしてコレもそのチカラの進化版なのか?
それともだだの夢なのか?
まだ雪村には、はっきりとした確証が無かった。
「まあ、これから何度か繰り返すことになればホンモノかな。」
雪村は、あせらず気楽に考えることにした。
「それにしても、以前、雪子さんが語っていたことは本当らしい。」
雪子さんは雪村のことを自分の下位互換だと言っていた。
幸村が今見てきた風景が、まるっきり自分の少年時代のそれと同じで、少なからず驚いたのも事実だった。
全てが同じで、自分の立ち位置に雪子さんが居るセカイ。
もちろん、周りの風景は懐かしく、夢中になって見てしまったものの…。
実際に体験すると、気分は複雑なものであった。
ちなみに、マンガ「僕だけがいない街」が連載されたのは、2012年6月のことである。
「おかげで、ちょっとだけ雪子さんに声をかけるのが遅れてしまったな。」
雪村は一人で苦笑するのであった。




