チャプター14 求人
照和52年4月某日。
雪子は中学一年生になった。
この年から彼女はより精力的に、とある活動を始めたのだった。
それは、チカラを持った者を探し出し、友だちになることである。
将来、自分の研究所に参加してもらう約束も忘れなかった。
もう学校の勉強なんかは片手間にして、専らそのことに夢中であった。
もっとも、ペーパーテストで手を抜きつつも、通知表の結果は常にオール5をキープしていた。
それに、5教科の合計点数の学年順位は、常に杉浦鷹志と1位、2位を分け合うようにしていた。
もはや彼女の知識欲は、この時間軸での事柄では満足行かなくなっていた。
今や彼女は「可能性の過去・現在・未来」のことで頭がいっぱいなのである。
彼女は常に、並行宇宙に行くための思考実験に勤しんでいたのであった。
別の時間軸には、当然別の自分が存在する。
そこに今の自分が行って、物理的に重なり合うことは、いかにも危険な感じがする。
それでは、精神だけをなんとか飛ばして、別の自分とシンクロさせるのはどうか?これならなんとかなりそうな気がする。
量子物理学的なアプローチに、瞑想法を組み合わせてと…後は脳波の調整とか他にも色々考えなくっちゃ。
一人でニヤニヤしながらアレコレ考えている雪子は、はたから見ていてかなりアブナイ雰囲気にに見えた。
今まさに「マッドサイエンティスト雪子」が誕生しつつあった。
今日もブツブツ呟きながら一人で下校する雪子のもとに、こっそり学ラン姿の雪村がやって来た。
「やあ、久しぶり。仲間集めは順調に進んでいるみたいだね。」
そっと声をかける雪村。
「ああ、雪村さん。こんにちは。」
別段、驚く様子も無く返事をする雪子。
「村田さんや酒井さんはともかく、正直、杉浦君まで勧誘していたのには驚いたよ。」
「チカラの有る無しにかかわらず、IQの高い人物は、これからもどんどんスカウトしていくつもりよ。」
「さすがはボクの雪子さんだね。」
「目標はハタチになる前に、並行宇宙を旅する手段を確立することなの。」
「いや、もう、すごすぎてボクなんかじゃついて行けないなあ。」
「そのうちに、アナタにも色々と教えてあげるわ。」
「それは…楽しみだな。」
「ところで、アナタは男だけど…私の同位体なんでしょ?」
「…どうしてそう思うのかな?」
「ただのカンよ…私なりに知識を総動員した結果のね。」
「…。」
「そして性別が私と違うということは、アナタは特異点なのね。」
「素晴らしい思考力だ。ホントに中一なの?」
「実は私、体感的にはもう人生100周目くらいなのよ。」
「やっぱりね。ボクも自分の正体を明かす手間が省けて助かったよ。」
「相手が私で良かったわね。」
「まったくだよ。雪子さんが、ボクに正体を説明する時は、随分大変そうだったからねえ。」
頭脳明晰な雪子さんとの会話は楽しい。
マッドサイエンティストの雪子さんが完成するまでに、あと何度この旅ができるのだろう。
雪村はふと考えて、ちょっと寂しくなってしまうのだった。




