チャプター13 告白
照和52年3月某日の午後。
雪子は小学六年生の春休みを迎えていた。
4月になればもう中学生だ。
その前に彼女は、どうしてもやっておきたいことがあったのだ。
それは例の杉浦鷹志と、サシで話をすることである。
その日、鷹志は千種駅前の老舗書店「正文館」に居た。
彼は大学受験用の参考書、赤本コーナーで立ち読みをしていたのであった。
「こんにちは。」
背後からそっと近づいた雪子が声をかける。
「うわっ、びっくりした。ああ、こんにちは。」
彼はちょっと考えてから、それが同級生の真田雪子だと分かった。
「ずいぶん先の本を読んでいるのね?」
ややジト目で訊ねる雪子。
「……これはまあ、将来の参考にいい刺激になるかなって。」
少しどぎまぎする鷹志。
「お勉強中に悪いのだけれど、ちょっとだけお話、いかなあ?」
やや甘え声の雪子。
「え~と。別にかまわないけど。」
少し顔を赤くして、さらにどぎまぎする鷹志。
「じゃあ、お向かいの公園まで一緒に来て。」
鷹志の手を引いて店を出る雪子。
ここまでは順調に雪子のペースだ。
駅前の公園のベンチに隣同士に座ると、おもむろに雪子が話を切り出す。
「単刀直入に訊くけど、杉浦君はこの人生何周目なの?」
「!?」
「それとももっとシンプルに、少し先の未来が見えているだけなのかしら?」
「……。」
「いきなり色気のない話でごめんね。期待してたのと違ったかしら?」
「……それでいつも僕のことを、度々見つめていたんだね?」
「実はそうなの。」
「キミにはどうもごまかしが効かないようだから、正直に話すよ。」
「うん、うん。」
「僕にはチョットだけ先の未来が見えている。」
「それはどれくらい?」
「だいたい三年後ぐらいまでかな。」
「そうなんだ。」
「これで満足かい?」
「お返しに、私も正直に言うね。」
「私は自分が生まれてから死ぬまでを、全て同時並行的に感じ取ることができるの。」
「それは……すごいね。」
「だからアナタもそうなのかなって。」
「だけど僕が感じるところ……キミのチカラはそんなものじゃ済まない。」
「どういう意味?」
「もっと広い時空まで、カバーできるんじゃないのかなって。」
「……?」
「僕らのとは別の時間軸のことさ。」
「それはあらゆる可能性の過去・現在・未来のことでしょ?」
「そのとおり。」
「アナタの発想は、やはり天才的ね。私にはまだその自覚はないけど。」
「実は僕には他人の持っているチカラが、ある程度見えるんだ。」
「それは便利ね。」
「僕はこのチカラを主に自衛のために使っている。」
「人生において、他人との要らぬ衝突は、できるだけ避けていきたいからね。」
「さすが杉浦君。実に懸命な判断だわ。」
「そりゃ、どうも。」
「そんな杉浦君に折り入ってお願いがあるのだけれど。いいかしら?」
「なんだろう。」
「将来、私が創設する、とある研究所の副所長になって欲しいの。」
「一体何の研究をするんだい?」
「主に並行宇宙について。もちろん、アナタのやりたい農業の部門も作るわ。」
「わかった。考えておくよ。」
「返事は何年先でも気長に待つから、気にしないでね。」
「じゃあ、貴重な時間を割いてくれてありがとう。またね。」
雪子は満足して帰ろうとしたが、ベンチを立った去り際に一言つけ加えた。
「そうそう、あんまりペーパーテストで100点ばっかり取ると、アヤシイわよ。適当に手を抜きなさい。」
鷹志は苦笑しながら、手を振ってそれに答えるのだった。
このエピソードが、新章④「その後の酒井弓子」につながります(>ω<)




