チャプター12 推察
照和51年10月某日。
雪子はクラスの体育の時間に参加していた。
出席番号を偶数と奇数に分けた2チームで、ポートボールをやっていたのだ。
そのゲーム中に、ずっと気になっていたのが、例の酒井弓子のことである。
彼女は決まってゴール役だった。
シュートされたボールを、台の上で受け取る役である。
どうしてもプレーヤーをやりたくないようだ。
しばらく様子を見ていると、ある男子がボールを受けて態勢を崩した。
そのまま彼は、台の上の弓子の足元に倒れかかった。
弓子はその男子もろとも、台の下に派手に落ちて転んでしまった。
膝を打ったようだ。かなり痛そうだ。
「先生!」
雪子はすかさず手を挙げて担任を呼んだ。
「私、保健委員なので彼女を保健室へ連れて行きます。」
先生はそうしてくれと言った。
「さあ、弓子さん。一緒に行きましょう。」
雪子は彼女に手を差し伸べ、素早く肩を貸す。
「えっ、ああ、ありがとう…。」
弓子はなぜか渋々肩を借りる。
「大丈夫?」
「うん、平気。大したことないから…痛っ。」
「ほらほら、無理しないでね。」
雪子は手際よく連れて行く。
保健室は開いていたが、先生が居なかった。
雪子は手を貸して弓子を丸椅子に座らせた。
そして、手を握ったまま弓子の正面でしゃがむ。
じっと目を見つめる雪子に対して、どんどん目を丸くする弓子。
「やっぱりね。」と雪子。
「あなた、テレパスね?昔はサトリとも呼ばれていた…。」
「…。」
黙ってしまう弓子。
「手をつないだから、私が今、考えたことが読めたのでしょう?」
「!?」
「だから普段から、他人との物理的な接触を避けていた。」
「ポートボールでもゴール役を率先してやっていた。そうでしょう?」
畳み掛ける雪子に黙り込む弓子。
「ちなみに、私だって精神を集中させれば、似たようなことはできるのよ。」
弓子の手を握ったまま、目をつぶる雪子。
「…ああ、あなたはすごいのね。言葉だけからも、他人のウソが見抜けるなんて。」
雪子は弓子をリーディングした結果を言った。
「もうやめて!」
やっと弓子が口を開いた。
「ごめんなさい。あなたをいじめるつもりはないの。」
雪子はできるだけ優しく声をかける。
「ただそのチカラのせいで、そんなに悩むことはないって言いたいだけなの。」
「それから一つ、あなたに告げなければならないことがあるの。」
「???」
「1年後くらいにあなたは重い病気になる。でも焦らず根気強く治療に専念すれば、それは必ず完治するってこと。」
「病気が治ったら、私のお友だちになって欲しいな。」
「それは…かまわないけど。ホントの話なの?」
「私がウソを言ってないって分かるんでしょ?」
「うん。」
「じゃあ、そういうことで。」
「とりあえず消毒して絆創膏を張りましょう。」
雪子は、言いたかったことがすっかり言えて満足気だ。
それに引き換え、弓子は、まだ浮かない顔をしていた。
「どんまい、どんまい。気楽に行こうよ。」
弓子の肩をたたきながら、よくわからない励まし方をする雪子であった。




