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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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68. 王都ラッヘル

「最高だぜブラザー!」

 広樹と晴樹のコンビネーション魔法が気に入ったJude(ジュード)が大はじゃぎだ。

 二人の肩をバシバシ叩きながら歓声を上げる。

「痛いよジュードさん」

 攻撃判定ではないからかフレンドリーファイア無効を無視して痛みが痛みとして伝わる。

「ほらJude(ジュード)、本気で痛がっているからその辺にして。それより宝箱が出ているわ。ハルヒロに開けてもらいましょう」

「俺らが?」

「みんなは開けないんですか?」

 デュラハンの時は5人で開けた宝箱。ホブゴブリンの時は広樹が代表で開けた。

 今回はほかの人が開けないのかと尋ねたのだが、Gillian(ジリアン)が「いいから二人が開けなさい」と強く主張した。なにか知っているかもしれない。

 広樹と晴樹は、それならと、宝箱の前まで進んで腰をかがめる。

 そのまま後方へ顔を向けた広樹に対して、Gillian(ジリアン)が大きくうなずいた。

「せーの」

「せっ」

 ふたが開かれていくにつれて、宝箱から淡い光があふれ出す。

 開ききると徐々に光は収まっていき、宝箱の中を覗き込めば、5体の氷の人形が座っていた。

「予想通り大当たりだわ!」

 Gillian(ジリアン)が興奮の声を上げた。

「ジリアンさん、この人形のこと知ってたんですか?」

「もちろんよ! ハルヒロなら絶対に当てると思ったわ!」

「もしかして……確率で?」

 広樹と晴樹は予想以上に重大な任務を課せられていたのだと知って震えた。これでGillian(ジリアン)の求めていたもの以外を引いていたらと考えると逃げ出したくなる。

「そうなの! 大当たりがこの『氷姫人形』。その次が『氷人形』。最後が『氷玉』らしいわ」

 その説明を聞いて広樹たちは大いに納得した。とてもGillian(ジリアン)らしい理由だった。

 氷姫人形はまとっているドレスのデザインが微妙に違う。これはもう一番最初にGillian(ジリアン)に選んでもらうことにした。お好きなものをどうぞ、というやつだ。

「いいの?」

「もちろんです」

「ありがとう!」

 残りの男性4人は特にこだわりがないので、それぞれ一番近い氷姫人形を手に取った。

 手に取ると、それぞれに『氷姫人形に名前を付けてください』とシステムからのポップアップが表示された。

 広樹は『メヒティルト』。

 晴樹は『レティシア』。

 Gillian(ジリアン)は『アレクシア』で、Jude(ジュード)は『オーガスタ』に、Theodore(セオドア)は『ウィレミナ』と決まった。

 全員が名付け終わると、氷姫人形の目が開いていく。同時にそれぞれの手から離れて浮かび上がった。

 他のゲームでもよくある、プレイヤーに自動追従するいわゆるペット枠が、この氷姫人形ということらしい。精霊スライムや妖精と違って、移動中も戦闘中もその姿をずっと視界にとらえることができるところにGillian(ジリアン)が食いついたようだ。

 氷姫人形の身長は30cmほどあるので、顔やドレスなどの形姿(なりかたち)がよく見える。そのあたりも好印象につながっているようだ。

 各人のドロップは『ミノタウロスの角』『ミノタウロスの(ひづめ)』『ミノタウロスの力の種』『王都ラッヘルの通行許可書』だった。

 ちなみに『ミノタウロスの力の種』を氷姫人形に食べさせると、プレイヤーに対して『力3%上昇』効果のバフがついた。つまり今後は『力』以外の種をドロップするボスが現れる可能性が出てきたというわけだ。

 もちろん『()姫人形』という名前の通り、氷属性の攻撃力も上昇させる効果もあった。


 いつまでもここにいても仕方がない。

 一行はボスエリアを出て、王都ラッヘルへと向かう。

 東門から入場した広樹たちは、いつものように噴水広場でワープポータルの登録をおこない、門番からのクエストである冒険者ギルドへの報告を済ませた。

 そこでパーティを解散し、広樹と晴樹はクランハウスへ飛んだ。

 先ほどのドロップ品『ミノタウロスの角』と『ミノタウロスの(ひづめ)』を売り、保留となっていた『ロックゴーレムのコア』の代金を受け取った。

「またなにか拾ったら持ってきますね」

 簡単にやり取りを済ませて、広樹たちは再び王都ラッヘルへ戻っていった。ゆっくりと王都を見てまわりたかったからだ。

 現在公開されているエリアは、王都ラッヘルの北側のフィールドとそこにあるラッヘルダンジョンだけだ。それ以外のエリアは今後のアップデートで順に解放されていく予定となっている。

 広樹たちは東門から北門へ向けて、ぶらりぶらりと散策していく。

 雑貨屋にポーション屋、スキル屋に魔法屋。1店舗1店舗必要になりそうな店は入店して取り扱い品目をざっとチェックしていく。

 雑貨屋では新しく、竹皮に包まれた『おにぎり』が見つかった。いろんな具があったので、全種類購入してみた。しかも針金つる付きの『汽車土瓶に入った温かいお茶』も置いてあったので、こちらも購入した。ペットボトルではないのが逆にいい。歴史の授業の資料でしか見たことのなかった、昔の駅弁スタイルを思い出す。

 ポーション屋には『HP全回復ポーション(成功率90%)』が置いてあった。きっとフィオレッラが製作したものだろう。ほかにも『状態異常回復ポーション』があったのでこちらは購入しておいた。きっとラッヘルダンジョンで必要になるのだろう。

 スキル屋では広樹がまだ持っていなかった剣用のスキルを購入し、魔法屋では新たに見つかった魔法を二人揃って購入した。

 北門へマップピンを挿してから、今度は裏通りを散策しながら東門へと戻っていく。

 カフェで休憩して、サンドイッチとコーヒーをいただいた。おいしかったのでいくつかテイクアウトする。

 武器屋と防具屋もあったが、ざっと見た感じ、今使っているものよりも数段劣っていた。クランの生産職組には本当に感謝している。

 冒険者ギルドまで戻ってきたので、いつものように依頼掲示板をざっと確認してから資料室へと行こうとしたのだが、王都ラッヘルの資料室は利用制限があって使えなかった。

 ラッヘルダンジョンの上層域のマップだけは窓口で買うことができる。情報も専用窓口で売ることができる。ただこれまでのような無料での閲覧はできなくなっていた。

「まだ解放されていないエリアがあるからかな?」

「それもあるだろうなー。あんまり早く進み過ぎてもアプデが追い付かないだろうし。ここらで足止めさせて、せっかく作ったダンジョンやフィールドをもっと利用してほしいんじゃないか? まあ、冒険者の飯の種である情報をいつまでも無料で得られると思うなよ――ってところだろう」

「なるほど」

 晴樹の物言いが面白くて、広樹はくすくすと笑う。

 でも確かにそろそろそういう時期かもしれない。実際広樹たちもドリットダンジョンの8階以降には行っていないのだ。

 ラッヘルダンジョンだって、何階まであるかわからないけど、新しいエリアが解放されれば、きっとみんなダンジョン攻略を途中放棄して新しいエリア(そちら)を目指すだろう。

 一応ラッヘルダンジョンの5階まではマップが販売されていたので買っておく。魔物についての情報は非公開だ。

 他人(ひと)に話してはいけないわけではないが、冒険者ギルドとしては公開する情報を制限していた。

 そのため個人間の情報の売り買いはおこなわれているようだ。

「どうする?」

「そうだな……。なあヒロ、宝探ししてみないか?」

 晴樹はやや小声で誘ってきた。

「宝探し?」

「そう。もしかしたらもう攻略サイトには載ってるかもしれないけど――」

 冒険者ギルドでは情報は非公開だ。つまりゲーム内では情報を規制している。しかしゲーム外では制限はない。攻略サイトには随時情報が更新されているのだ。だからもしラッヘルダンジョンに宝箱が設置されているとしたら、すでに書き込まれているだろう。だが、そうした情報をこれまで見てこなかった晴樹たちなら、そういう遊びも可能だ。見つからなくても構わない。楽しむためにやることだから。

「そういうのもいいね!」

 広樹はすぐに賛成した。話を聞いているあいだにワクワクしてきたのだ。

「な。せっかくマップもあることだし、5階までは全部のルートを制覇してみようぜ」

 広樹と晴樹は新しいダンジョンに興味津々だ。やはり新しいエリアに行くことは、ゲームの楽しみの一つだった。


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