67. やっぱりこうなるよね
「ここ?」
「はい。ここで魔法を使えることに感謝して、――まあいわゆる日本式の『柏手』ってのをパンパンってやったわけです」
「拍手するように叩けばいいのね」
「えっと、こんな感じで……」
晴樹と広樹が身振り手振りで説明する。その甲斐あっていい音が鳴り響いた。
『呼んだ?』
3つの声が返ってきたようだ。
広樹たちには聞こえない声だが、Gillianたちには聞こえているようだ。無事に彼らの呼びかけに答えてくれる妖精が現れたということだ。
ややあって見たことのある小さな光玉がGillianたち3人の元まで飛んでくる。
広樹と晴樹がそっと見守っていると、無事に名づけも終わって、彼らの髪の一房が新緑色へと変わった。
「よかったですね」
「ありがとうハルヒロ! かわいい子がまた増えてうれしいわ!」
やはりGillianのテンションだけ異様に高かった。もちろんJudeとTheodoreも喜んでいたが、Gillianに比べれば静かだった。彼らもきっとわかっているのだろう。こういう時にはGillianより目立ってはいけないと。
日頃テンションが高いのはJudeだが、こういうときだけは彼も空気を読むのか、抑え気味になる。
広樹と晴樹は顔を見合わせると、同時に肩をすくめた。
あまりにも想像通りだったからだ。
「それじゃ、クランハウスへ戻りましょうか?」
クランハウスへ移動すると、待ち構えていたZechariahへ『ロックゴーレムのコア』を渡す。
最初のじゅうたんと式神は、そのまま晴樹と広樹が持っていていいそうだ。
「ありがとうございます」
お礼を言ってありがたく受け取る。
ただ試作品の一人乗り用の『一反木綿』は遠慮した。
広樹は、鳳凰の式神でよかったとほっと胸をなでおろした。
そろそろ解散かというときに、Judeから呼びかけられる。
「ハルヒロ、明日は空いているか?」
「はい。特に予定は無いですが……」
「じゃあ、一緒に『ミノタウロス』に挑戦しないか?」
『ミノタウロス』は王都ラッヘルとドリッテの間にいるエリアボスだ。ちょうど挑戦しようかと考えていたところなので、こちらとしてもありがたい。
「ありがとうございます。ぜひ一緒に行かせてください」
「ちょうど俺らも行こうとしてたところなんで、誘ってもらって助かります」
「明日が楽しみだねブラザー! 新しい武器がうなり声をあげるよ!」
うん。JudeはやっぱりJudeだった。けれどこんな彼だから気兼ねなく付き合えるともいえる。
Judeたちは肩慣らしも兼ねてドリットダンジョンを1階から順に試してみるそうだ。
広樹たちは『ベヒモス』を試すつもりなので、ここで解散した。
就寝時間も迫っていたためあまり時間はないが、少しだけでもと、広樹と晴樹の二人はドリット西に広がる平原を目指した。
ドリッテは周囲を森で囲まれているが、西側の森を抜けると平原が広がっているのだ。西側は比較的森が狭いというか薄い。歩きでもさほど時間もかからずにすぐに抜けることができた。
通り抜けてから、もしかして空飛ぶじゅうたんを使えばよかったのではと思いついたが、もう過ぎたことだ。
見つけた『ベヒモス』は、見た目はサイだった。鼻の上あたりに頑丈そうな角が生えている。胴体も鎧を着ているかのように分厚そうな皮をまとっていた。
「かなり硬そう」
広樹も晴樹も新しい武器を装備しての挑戦だ。
「行くね」
「おぅ」
声をかけて広樹が駆けていく。
とりあえずエンチャントは雷属性を選んでおいた。
「サンダースラッシュ」
いい感じに横を向いていたので、首を狙って切りつける。
破裂音のような怒声が響いた。
「シャドーエッジ」
バックステップで後退する広樹と入れ替わりに、晴樹の闇魔法が傷ついた箇所を狙って撃ち込まれる。
「ライトニングストライク」
角をこちらに向けて走ってくるベヒモスの、その角をめがけて雷を落とす。すれ違いざまにも剣で足を切りつけた。
「アイススピア」
晴樹は、ちょうど正面に晒されたベヒモスの眉間を狙って放つ。
足をもつれさせるようにしてベヒモスは横倒しに倒れた。たぶん最後の晴樹の攻撃は必要なかっただろう。
「まあ、こんなもんか」
「だいたい魔法3つくらいかな?」
「あの鎧、かなり硬そうだからなー。角も避けて、頭と首を中心に狙ってそのくらいかもな」
「えーっと、ドロップは――『ベヒモスの鎧』? 盾とかの素材かな?」
「俺のところは『ベヒモスの角』だったわ。これはもう武器の素材だろうな」
いつものようにいろいろと魔法を変えてベヒモスを倒していく。ドロップはやはりあの2つのようだ。クランハウスへ持って行くのは後日にして、今夜は数体試しただけでログアウトした。
翌日約束の時間前にクランハウスへ寄って、昨夜の『ベヒモス』のドロップ品を生産職組に渡しておいた。
なにかあれば言ってくるだろう。
Judeたちが集まるまで、広樹たちは魔法屋で時間をつぶしていた。
「なんかもう一つ二つ手数が欲しいんだよねー」
「増やすとすると、氷魔法あたりか?」
「それいいかも」
広樹の武器には付加に氷属性攻撃強化はついていないが、持っていて損はないだろう。
二人は相談しながらいくつか魔法を購入していった。
『Jude:待たせたなブラザー』
メッセージとほぼ同時にパーティの招待が飛んできた。
今回は広樹たちがマップピンを挿していたベヒモス狩りの続きから始める。
それぞれ新しい装備での戦闘を確認しながら、エリアボスの手前までやってきた。
「ちょっと休憩してから挑みましょう」
そういって広樹は『ハンバーガーセット』を人数分取り出す。晴樹も「俺も出すから」と、自身も含めて2人分用意した。なので最終的に広樹が出したのは3人分になった。
「これはうまい!」
評判は上々。
どこで手に入るのかも聞かれたため、ドリッテの雑貨屋で購入したということも教えておいた。彼らもきっと買い溜めすることだろう。
食休みも挟んで、いよいよ『ミノタウロス』戦だ。
いつものようにTheodoreを先頭に、ボスエリアへと入っていく。
全員が入場を終えると、中央に生まれた影が徐々に大きくなって、魔物の大きなうなり声が響き渡る。膨らみ切った影は1体のエリアボス『ミノタウロス』を生み出すと入れ替わるようにして消えていった。
ミノタウロスは武器――対称形両刃斧を両手に持ってこちらを睥睨する。
頭上にある立派な角。筋骨隆々の体。威圧感のある目つき。
広樹たちは気合を入れなおして対峙した。
「いくぞ! 挑発!」
Theodoreが最初に駆けていく。ミノタウロスもラブリュスを振り上げながら向かってきた。
斧と盾の対決だ。
「カウンターシールド!」
Theodoreのカウンターが見事に決まって、ミノタウロスは弾かれたように数歩後ずさる。
「すごいぞTheodore」
「はっははー、ハルヒロのおかげさー」
「え? 僕ら?」
「ベヒモスの鎧と角を分けてくれただろう? あれを盾に付与したのさ!」
「ええー!? 渡したの今朝だよー!?」
「生産職組がまたやらかしたのか……。あの人たち仕事早すぎじゃねぇ? 働き過ぎだろう。助かるけどよ」
「もしかしてジュードさんやジリアンさんたちのも?」
「正解ですブラザー。それで少し遅れました。ごめんなさい」
「うふふ。お礼と謝罪は後でするわね」
今はミノタウロスが優先だ。Theodoreにやや遅れて駆けだしていた広樹とJudeも攻撃を加えていく。
Judeの大鎌は禍々しさがアップしているようにも見える。あとでゆっくりと見せてほしいものだ。
ミノタウロスがラブリュスを振り下ろそうとするたびにGillianが弓で邪魔をする。軌道を逸らしたり勢いを削いだりと幅広く活躍している。
晴樹はといえば、ミノタウロスの角の付け根を狙って延々と魔法を撃ちこんでいる。
「シャドーエッジ。シャドーボール。アイスニードル。アイススピア。ウィンドカッター。ウィンドエッジ」
広樹は足を狙って剣と魔法で攻撃を加えていく。
「ダークスラッシュ。アイススピア。サンダースラッシュ。ライトニングストライク」
偶然『ライトニングストライク』がミノタウロスの角先へ落ちて、ミノタウロスは感電したように一瞬動きを止めた。
「シャドースコーピオン」
「シールドバッシュ」
晴樹の毒が入ったところで、Theodoreのバッシュ攻撃が刺さってミノタウロスはダウンする。
「リーパーズサイススラッシュ!」
Judeの攻撃で、角が1本斬り落とされ。
「アイスチェインズ」
広樹が放った氷の鎖で体を締め付けられ。
「アイスプリズン」
晴樹の魔法で氷の牢獄に取り込まれて全身氷漬けになったミノタウロスは、ギミックを発動する前に沈んでいったのだった。




