42. 狩って狩って狩りまくれ
オニキス及びその他不要なドロップ品をすべて買い取ってもらったところで、コンラートから新しい任務の話が持ち込まれた。
「ネクタウダンジョンの4階にベアがいるのはご存じのとおりですが、こちらにも希少種がおりまして――」
ゴールデンベアという、名前の通り黄金色の体毛を持つベアがまれに出現するらしい。
任務とはいっているが、どちらかといえば納品依頼に近いもののようだ。もしこのゴールデンベアの毛皮が手に入ることがあれば、ぜひ納品してほしいという程度のもの。
ただし手に入る確率がかなり低いし、工夫すればどうにかなるというようなレベルではない。そのためひたすら通って狩り続けるしかない。その難易度の高さから『任務』に分類し、報酬も高くしているそうだ。
晴樹はため息をついた。
「一応4階のベア狩りにはいくつもりですが、さすがにその希少種が見つかるまで狩り続けるというのはちょっと……」
「ですよね……」
コンラートも一応はわかっているようだ。
だがオニキスを2個も手に入れることができた運の持ち主であればもしかしたらこの黄金色の毛皮も……と思ったらしい。
「まあ、もしもがあれば持ってきますけど、期待はしないでくださいね……」
広樹もそっとフォローにもならないフォローを添えて。けれども任務自体は受けずに保留ということにしてもらった。
「せめて運を上げるようなアイテムでもあればいいんだけどねー」
「だよなー。まだそういうのは見たことも聞いたこともないし。でももしあったとしてもさすがにそうそう希少種に出会えるなんてことないよなー」
広樹たちがそう言いながら退出しようとしていると、コンラートが口を挟んできた。
「運を上げるアイテムでしたら、ございますよ?」
「え?」
「まじ?」
「はい」
「どこで手に入りますか?」
「隣町のドリッテの手前にいるエリアボス――ホブゴブリンのドロップです」
広樹たちは揃って肩を落とした。
「それじゃ遅すぎますね。いえ、もらえると助かりはしますが……」
「うん。ゴールデンベアには間に合わないね……」
「あーまあそうなりますか……」
「いえ。でも、貴重な情報ありがとうございます」
「たしかに。情報は助かったな。ありがとうございました」
これはもうとっととネクタウダンジョンの4階へ向かってベアを狩りまくるに限ると判断した二人は、今度こそコンラートへ挨拶して冒険者ギルドを後にしたのだった。
ネクタウダンジョンの4階と5階の間の階段へ刺していたマップピン。
無事そこへ転移することができた広樹と晴樹は、階段をのぼって4階に行き、予定通りベアを狩りまくっていた。
「ゴールデンベアなんて全然見当たらないよね! スラッシュ!」
「希少種だもんな、当然だよな! アイススピア!」
称号効果を利用して、どんどんとベアを狩って毛皮と肉を集める二人。ついでに牙と爪もたまっていく。
周囲に誰もいないのをいいことにまさに乱獲していた。
帰りは転移でネクストタウンの噴水前に飛べばいいと思っているので、4階の外周からくるくると渦を巻くように中心に向かって移動する。もちろん移動途中のベアを狩りながら。
そうして中央付近に近づいたとき、広樹は洞窟を発見した。
「ねえハル。あれ洞窟じゃない?」
「ん? ああ、ちょっと隠れててわかりにくいけど、たぶんそうだろう。見に行ってみるか?」
「うん。なんか、あそこにフラグがいそうな気がするんだよね」
「それってもしかしてアレか?」
ここで名前を言うとフラグが消滅してしまいそうな気がしてなんとなく濁してしまう晴樹。
広樹はしっかりとうなずいた。
「さっきね、なんとなくキラッて光るものが一瞬見えた気がしたんだよねー」
ちょっと乾いた笑いも含んでいたが、広樹の気持ちはわからなくもない。晴樹もたぶん同じ思いなのだから。
「あー……、それならたぶんアレだろうな……」
「なんというかコンラートさん自身が運気アップのアイテムっぽいよねー」
前回希少種に出会ったきっかけもコンラートから受けた任務だった。任務自体はネクタウダンジョンボスの魔石の納品だったが、その任務のためには1階を通る必要があった。そして今回は任務を受けたわけではないが、似たようなものだろう。任務になにかしらかかわっているという意味では。
「俺たちはバフをかけられたってところか」
「そそ、そんな感じ」
ステータスには現れない隠し要素的なバフ。そんなものがあるのではないかと考えられる。
「そんじゃま、バフが切れないうちに行っちゃいますか」
「そうだね」
そうして広樹たちはそっと洞窟へと近づいていった。
物陰に隠れて数分。洞窟の中から黄金色の体毛を持つゴールデンベアが出てきた。
そっと近づき、魔法の射程距離に入った二人は、ゴールデンベアの顔面に向けて魔法を撃った。
「アイスニードル」
「アイスニードル」
いつもなら気にせず魔法を放っていたのだが、今回は黄金色の毛皮が必要だ。
なんとなく毛皮の質を落としてはいけない気になって、問題ないだろう顔面を狙う。
また雷魔法で焦がしてもいけないと、氷魔法に絞ったりもした。
「アイススピア」
「アイススピア」
希少種は変異種と違って強さは他の個体と変わらない。
むしろ過剰攻撃ともとれる二人の魔法を受けたゴールデンベアはそこで待望の毛皮をドロップしてダンジョンに消えていったのだった。
「うん、ちゃんとドロップしてるね」
広樹がインベントリを確認する。
晴樹のほうにもちゃんと毛皮のドロップが入っていた。
「2枚落ちるのか、それともパーティメンバー全員にドロップする仕様なのか……」
「まあその辺の検証は検証班に任せようよ。それより肝心の強化素材はいくらドロップしてる? 僕は24個だね」
「俺も24個だわ」
「ハルは杖が2本あるけど、+7まで大丈夫ってことだから、じゅうぶん2本分いけるね」
ダンジョンボスのドロップで1個。オニキスの納品で5個。今回のドロップで24個。合計30個。武器3本まで+7に強化できる。さらに上に挑戦することも可能だろう。
「とりあえずコンラートさんのところへ行って任務を受けてゴールデンベアの毛皮を納品する。それからほかの毛皮と肉と牙と爪を買取に出す。んで生産者ギルドへ行って武器を強化する。この順でいいか?」
「うん、いいと思う」
「んじゃ、帰るか」
「今回はハルが転移役ね」
「任せろ」
そうして二人はネクストタウンへ戻って冒険者ギルドへと足を運んだ。
いつものコンラートが担当する買取窓口。
広樹たちはまずはこんにちはと挨拶する。
「それでですね。前回言っていた任務を受けようと思います。僕たち二人とも今その毛皮を持っていますので、同時に納品もできます」
「はい?」
コンラートがまたしてもフリーズする。
「例のゴールデンベアの任務です」
周囲には聞こえないと思うが、ものがものだけについ小声で答えてしまう。その流れで、広樹は小声のまま気になっていたこともついでに尋ねた。
「これは聞いていいことなのかどうかわからないんですけど、コンラートさんってもしかしてなにかスキルか称号をお持ちではないですか? そのー、幸運とかドロップ率とかを上昇させるようななにかなんですけどー、持ってないですか?」
コンラートは「あー」と小さく声をもらしながら、視線をさまよわせた。
ややあって。
「『声援』という称号を持っています。『声をかけた相手を援ける』という説明だけなので、実際のところどういった援けになっているのかはわかりませんが……」
「ああ、たぶんそれですね。その称号のおかげで、コンラートさんに声をかけられた僕たちに幸運値上昇のバフがかかったような感じになっていたんだと思います。そのおかげで任務を達成することができました。ありがとうございます」
お礼を伝えると、コンラートは仕事中のためか小さく喜びを表して広樹たちへお礼を返してきた。
「こちらこそありがとうございます。使い方もどんな効果があるのかもわからなかった称号でしたが、ヒロ様とハル様のおかげでお役に立てていたのだと知ることができてとてもうれしいです。ほんとうにありがとうございました」




