43. 武器の強化
「『祝福の武器強化素材』、ですか?」
「はい、そうです」
改めてゴールデンベアの毛皮の納品任務を受けた広樹と晴樹は、その報酬の説明を聞いていなかったことを思い出した。もちろん達成できるとは思っていなかったからではあるのだが。そして実際に報酬を受け取る段階になって初めて聞いた『祝福の武器強化素材』という素材名。『祝福の』とついているということは、他のゲームでよくある課金アイテムのようなものだろうか。
果たしてその予想は当たっていたようだ。
「こちらのアイテムは強化に失敗しても強化値が下がることはありません。また成功した場合も、強化値が+1から+3までの間でランダムに上がります」
成功であれば+1。大成功で+2。超成功で+3、強化値が上がるそうだ。
そんなアイテムが毛皮1枚につき3個。つまりそれぞれに3個ずつ。
なかなか破格な報酬ではないだろうか。
「こんなに貰ってもよかったんでしょうか?」
広樹は手のひらの上に乗る3つの光を見つめる。
実はこの強化素材。魔物を倒したときに使っていた武器の形をしている。もっとも、光の塊がぼんやりと武器らしき形をしているという程度だが。しかし祝福の武器強化素材のほうはただの光の塊で、どの武器にも使えるらしい。
「それだけゴールデンベアの毛皮は手に入りにくいアイテムだということです」
「まあ貰えるものは貰うけどな」
晴樹がちょっと片頬を上げて軽口をたたいた。
「はは、たしかに。僕もありがたく貰うけどね!」
なにせ、この武器の強化値がネクストタウン以降の狩りに影響を及ぼすのだ。高ければ高いほどいいに決まっている。
そうして二人は報酬を受け取ると、ベアの毛皮・肉・牙・爪を売って冒険者ギルドを後にした。
これから武器強化に向かうと知ったコンラートから『よい付加が付与されるといいですね』との言葉をもらいながら。
広樹たちは予定通り生産者ギルドへ向かいながら祝福の武器強化素材を使うかどうか話し合う。
「今の状態でホブゴブリンを問題なく倒せるなら、次の町かその先の王都で更新する新しい武器に使ったほうがいいんじゃないかなー?」
「そういえばヒロはその片手剣を買うときに、『ドリッテ周囲の森の中腹あたりまで通用する』って言われたんだよな?」
「そそ。それってつまり強化無しでホブゴブリンを倒せるってことだよね? だからとりあえずはこの剣は+7まで強化しておいて、ドリッテとそこのエリアボス――えーっとミノタウロスだったよね? そこまでを乗り越えられれば、王都で新しい武器を探してからオーバーエンチャントに挑戦するって流れになると思うんだよねー」
「たしかに。じゃあそれでいくか」
「うん。ハルの杖も同じくらい使えると思うから、そんな感じでいいんじゃないかな」
「俺はまあ闇魔法の経験値稼ぎが課題だけどな」
晴樹はそう言いながら軽く頭をかいた。
「シャドーボールの次の魔法があれば、ホブゴブリンを倒すのも楽になりそうだよね」
「そそ。それ狙い。ミノタウロスもたぶん闇と氷を鍛えればこの杖でもいけると思うんだよなー」
そういうことで晴樹は黒い杖だけ強化することにした。白銀の杖はまた必要になったときに強化すればいい。
そんな話をしながら生産者ギルドへ到着した広樹たちだったが、さてどこの窓口へ向かえばいいのかとしばし視線をさまよわせた。
「強化関係ってどの窓口だろう?」
「強化依頼だから、依頼窓口?」
とりあえず依頼窓口で聞いてみようということになって二人はそこへ足を運んだ。
「すみません、武器の強化の依頼をしたいのですが、窓口はここであっていますか?」
「いらっしゃいませ。はい、こちらの窓口で承っております。どのような武器をいくつまで強化されますか?」
受付嬢の軽やかな声。気を許してついつい強化値を上げてしまう人もいそうだなーと思いながら、広樹たちはそれぞれ自分の武器を+7まで強化してほしい旨を伝えた。
「かしこまりました。担当の者の予定を確認してまいりますので、少々お待ちくださいませ」
受付嬢は後ろのテーブルに置いてあったファイルを確認し、その横にあるボタンを押してなにかを確認してから戻ってきた。
「あと30分ほどで手が空くそうです。差し支えなければ1時間ほど武器をお預けいただけましたら対応可能ですが、いかがなさいますか?」
広樹は晴樹と顔を合わせる。
「どうする?」
「1時間くらいで済むなら預けようぜ」
ということになり武器と強化素材、そして強化依頼料として7000Gをそれぞれ渡して生産者ギルドを出た。念のためチャット札を出してもらって、強化が終わったらそれで連絡してもらうことにした。
時間つぶしは当然冒険者ギルドの資料室だ。
中に入ると珍しく人がいた。もちろんクラウスを除いてだ。
クラウスに向けて軽く会釈しながら資料室に入った広樹たちは、静かに彼のいるカウンターへ行く。
やや声量を落とした声で挨拶をした二人は、ホブゴブリンについての資料を用意してもらった。ゴブリンについても一緒に記載されていたため、席について確認していく。
二人だけの会話はもちろんパーティチャットを使う。それならば他人に聞かれないし、うるさくすることもない。
「ゴブリンのほうは剣だけじゃなくて、弓や杖を持ったやつもいるんだな」
「んーそうするとちょっと厄介かなー」
「何体で組んでいるとかは相変わらず書いてないな」
このあたりはネタバレ防止に定められているのだろうか。資料室へ調べに来ているプレイヤーに対しては教えても問題ないと思うのだが。
「まあ武器の種類がわかるだけでもましだけどね」
「魔法は……火魔法だけっぽいな。隠してなければだけど」
「あーわざと書いていない魔法を使ってくることもあるかもねー」
「いつかはそういうことやりそうなんだよねー」
「勘?」
「そそ。勘」
「そういえばネクタウダンジョンの3階のボアって3体1セットだったよね。そのことをクラウスさんへ報告したらどうなるんだろう?」
「今度試してみるか?」
今日はほかに利用者がいるため、自分たちしかいないときに試してみることにした。
「次はホブゴブリンについてだな。んーっと、剣と魔法を使うのか」
「属性は書いてないね」
「巨大スライムの時は教えてもらえたのにな。なんでだろう?」
広樹は指を1本ずつ立てていきながら想像を口にする。
「1つ、聞かないと教えてもらえない。2つ、教えてもらえるのは最初のエリアボスだけ。3つ、属性はランダムに選ばれるから書いていない……これは違うかな? ランダムならランダムって書けばいいんだし」
3つ目は口にしたものの、すぐに違うだろうと首を振って広樹自ら否定した。
そこでチャット札から強化が終了した旨の連絡が届いたため、二人は資料を片づけて生産者ギルドへと戻って武器を受け取った。
さっそくそれぞれの武器を鑑定した広樹と晴樹は目をぱちくりさせた。
「強化値が+7なのは当然だからいいとして、『付加:雷属性攻撃強化』ってのがついてんだけど……」
「俺は『付加:闇属性攻撃強化』だな」
「とっても嬉しい効果なんだけど、なんだろうこれ?」
彼らのつぶやきを聞いた受付嬢の笑顔が増した。
「おめでとうございます! 本日はちょうど我が生産者ギルドでNo.1の実力を持つ強化師が担当でしたので、よりご依頼人様にあった付加が付与されているかと存じます」
「へえ。その強化師っていう人の実力次第で付加に違いが出るんですか?」
「左様でございます」
例えば見習いだとそもそも付加を付与することさえできないし、実力が低い人だと武器にあった付加を付与することができないらしい。
「へえ、じゃあ俺らタイミングが良かったんだな」
「よろしかったですね」
「はい、ありがとうございます」
「ちなみに、その強化師ってのは指名とかできたりします?」
「はい。指名料はかかりますし、予約状況次第では長くお待ちいただくこともございますが、指名自体は可能です」
「それは助かるわ。あ、じゃあ、今回の担当者の名前って教えてもらえませんか? 次回タイミングが合えば指名させてもらいたいんで」
「担当者の名前は『イーデン』と申します」
「そのイーデンさんは、ネクストタウンの生産者ギルドでだけ指名可能なんですか?」
「イーデンはいくつかの街を移動しながら強化をおこなっている強化師ですので、その街に滞在中であれば指名可能です」
「わかりました。説明ありがとうございました」
この先、例えば王都で新しい武器を購入した際、そこにイーデンが滞在していれば指名することができるというのは朗報だ。どうせ強化するのなら実力が高い強化師に依頼したい。
聞きたいことはだいたい聞けたと思う。
広樹は晴樹を見て軽くうなずいたことを確認すると、受付嬢にお礼を述べた。




