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夏休みはゲーム三昧  作者: 竪川杼緯


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29/75

29. かわいい声の挨拶から始まる朝

 セーフティエリアの目印となる白い花畑に生えている1本の樹があったのは、薬草の群生地を過ぎてオークの姿が遠目に見え始めたあたりだった。

 いまだに白い花を鑑定することはできない。

 いつになったらわかるようになるのか。

 きっかけはなんだろうと思いながら、広樹はとりあえず毎回鑑定をしている。もしかしたら鑑定のレベルが関係している可能性も考えて。

 今日も朝からログインした広樹は、まず最初にいつものように白い花を鑑定しようとしたところでかけられた声に、ぴたりと動きを止めた。

『マスター、起きた』

 そーっと左肩へ視線を向ける。

 そこにはいつかのように小さな精霊スライムが乗っていた。

 次いで、右足首へ視線を下ろす。アンクレット型になった最初のスライムはまだそこにいた。

『ニートリヒ? もしかして分裂した?』

『そう。ボク、レベルアップしたの』

『そうなんだ。おめでとうニートリヒ』

『マスター、ありがとう』

 それからすぐ、隣に晴樹が現れた。ログインしてきた晴樹の左肩にも同じように精霊スライムが乗っていた。

「おはよう、ヒロ」

『マスター、起きた。おはよう』

「おぉ!? セイ!? お前どうしたんだ?」

 晴樹も広樹と同じように驚き、自身の精霊スライムに話しかけていた。それぞれ許可を出しているため、パーティを組んでいる間はもちろん近くにいればフレンドにも互いの精霊スライムの念話も聞こえるようになっている。

『ボク、レベルアップしたの。今度はどこがいい?』

「あー次か。次はー……、なあヒロどこがいいと思う?」

 晴樹は広樹へ尋ねてきた。

 そういえば広樹も決めないといけない。

「んー、僕は次はアンクレット型の左足のつもりだけど……。ハルも素早さの右足から回避の左足でいいんじゃない?」

「そういえばその予定だったわ。セイ、アンクレット型で右を頼むわ。素早さ上昇な」

「ニートリヒはアンクレット型の左。回避上昇でお願いね」

『マスター、わかった』

 揃った答えは二つ。

 それぞれの精霊スライムはするすると体を伝っていき、アンクレット型へと姿を変えた。


 いったん薬草の群生地を確認して、また採取可能になっていた薬草を刈りとってからオークを狩りに向かった。

 オークは棍棒の先に棘の付いた金属を巻き付けた武器――モーニングスターを持っていた。防具も革鎧を着こんでいる。

 一気に狩りの難易度が上がった気がする。

「ねえハル、ちょっと凶悪過ぎない?」

「俺たちの連携が試される時が来た!」

「いや、連携の練習に来てるんだよね? 僕たち」

「頑張れヒロ!」

「ハル……、現実逃避してるでしょ」

「ヒロ、前衛は頼んだ。俺は後ろからヒールをかけるから安心しろ」

「ハルも攻撃してくれないと困るんだけど」

「もちろん攻撃するさ! 機会があればな!」

「んー……、新しい防具ができてからにする? それとももう少し魔法を買ってくる?」

「あー……、どうするかな……」

「怖かったら今日じゃなくてもいいよ?」

「いや、そういうのとはちょっと違うというか、なんというか……。っていうかヒロは大丈夫なんか? あれに近づくのは」

「そりゃまあちゃんとした盾職の人がいてくれればいいと思うけどさー。いないものはしょうがないし、ハルに盾をやらせるわけにはいかないじゃん。だから僕がやるしかないかなーって」

「さすが俺のヒロ、頼りになる」

 晴樹は言いながら広樹に抱き着こうとしたが、広樹はあっさりと避けて頬を膨らませる。こういうところにもステータスの違いが出ているのかもしれない。

「もぅ、なにやってんだよハル。あんまり騒ぐから向こうから来ちゃったよー」

 オークの叫び声というか鳴き声がだんだん近づいてきていた。

「ブモッブモー!」

「きゃぁ!」

 同時に女の子の悲鳴も聞こえた。

「違う、女の子が襲われてるんだ」

「こっちに逃げてきてるみたいだね」

 広樹と晴樹は慌てて声が聞こえたほうへと駆けていった。

「ニートリヒ、あのオークのHPバー(バー)を出して」

「セイ、女の子のバーも出せるか? 死にかけじゃないよな!?」

『マスター、わかった』

『マスター、出したよ。まだ半分残ってる』

 まだ対象のオークとは戦闘態勢になっていないため設定外で自動ではHPバーが出なかった。だから広樹はあえて口頭で精霊スライムへ指示を出した。表示されたバーを見るとオークのHPはほとんど減っていなかった。

 こちらに向かってきているオークは、周囲にいるオークに比べてやや巨体な気がする。

 武器もモーニングスターではなく、斧だ。

 いやな予感がした広樹はオークを鑑定した。

「ハル、このオーク、変異種だ!」

「え!? またかよ! 俺ら変異種にモテ過ぎじゃねえ!?」

 女の子のほうも鑑定して再度驚いた。

「リータさんだ!」

 革鎧はところどころ破れている。武器は短剣のようだが、先が折れているためはっきりとはわからない。

 広樹はリータに向かって叫んだ。

「リータさん、こっち! パーティに入って!」

 リータが広樹たちに気づいてパーティに加入する。

「このオークは変異種よ! 気を付けて!」

 パーティチャットでリータの注意が飛ぶ。

「りょ!」

 リータへのフレンドリーファイアを気にしなくてもよくなったところで、ようやくオークが攻撃範囲に入る。

 一般サーバーはPK不可でありながらフレンドリーファイアを気にするのは、PKはできなくともパーティメンバー以外からの攻撃が当たるとわずかに痛みなどを感じたりするからだ。横殴り対策ではないかと広樹たちは考えている。

「アイスニードル!」

「アーススピア!」

 とにかくまずはオークの足を止めようと、広樹たちは魔法を放つ。

 晴樹の魔法のほうが反応が早くて威力が強いのは魔法職(本職)だからだ。

 さらに亜人系のオークは魔法に対する抵抗力が少ないようだ。今の攻撃で1割ほど削れていた。

 広樹がリータと入れ替わるようにして、足を止めたオークの前に滑り込んだ。

「スラッシュ!」

 さらに追撃とばかりに剣のスキルを使って切り込むも、こちらは思ったほどダメージを与えられなかった。

 広樹としては斧を持った腕を切り落としたかったのだが、傷をつけることしかできなくて残念な結果となった。

「このオークは物理攻撃には強いわ!」

 リータが荒い呼吸の合間に注意を叫ぶ。

「じゃあ、魔法中心で攻撃だね。おっと、ライトニングストライクっ」

 斧を振り下ろしてきたオークの攻撃を避けながら、広樹は魔法で攻撃した。剣での攻撃がまったく通じないわけではないので、剣でも切りつけてわずかながらも傷を増やしていく。

「アイスニードル! からのー、アイススピア!」

 晴樹はオークの顔面にアイスニードルを撃ち込み、それによって怯ませ、視界を奪ってから、左胸あたりを狙ってアイススピアを撃った。

 何度か繰り返すうちに変異種オークの動きが鈍ってきて、やがて倒れて光の粒子となった。


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